JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT61] [JJ] ハイパフォーマンスコンピューティングが拓く固体地球科学の未来

2017年5月21日(日) 10:45 〜 12:15 A04 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、市村 強(東京大学)、八木 勇治(国立大学法人 筑波大学大学院 生命環境系)、汐見 勝彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、座長:堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)

11:15 〜 11:30

[STT61-03] 京コンピュータによる全球理論地震波形計算

*坪井 誠司1安藤 和人2三好 崇之3Daniel Peter4Dimitri Komatitsch5Jeroen Tromp6 (1.海洋研究開発機構、2.理化学研究所計算科学研究機構、3.東京大学地震研究所、4.アブドラ王立科学技術大学、5.エクス-マルセイユ大学、6.プリンストン大学)

キーワード:地震波形計算、スペクトル要素法、京コンピュータ

地球内部構造を推定する上で、地震により励起された地震波による地震学的手段を用いることが一般的である。地震により励起され地球内部を伝播する地震波は、弾性体力学の運動方程式で記述され、地球が完全な球であるならば理論的な解析解が存在するが、地球は回転楕円体の形状をしており、地球内部の構造も球対称構造からのずれの成分は大きく、理論的に地震波を計算するために解析的手法を用いることは期待できない。一方、地球を構成する岩石の弾性的性質により、地震波のP波およびS波では周期1秒の波が卓越することが知られている。したがって、観測された地震波形を再現する理論地震波形計算において周期1秒の精度は到達すべき大きな目標であった。近年、大型計算機の発展と共に、数値的手法により理論的な地震波形を計算することは大きな進歩を成し遂げてきた。我々は2003年に当時世界最速のスーパーコンピュータであった「地球シミュレータ」を用いて、初めて現実的な地球モデルに対して周期5秒の精度で全球地震波伝播計算を実施した。全球地震波伝播計算では、有限要素法の一種であるスペクトル要素法を用いた。スペクトル要素法の計算では地球モデルの分割は地球全体を6個の四角錐に分割し、それぞれの四角錐をさらに細かい四角錐に分割してスーパーコンピュータの個々のCPUに割り当てて計算を実行する。2003年の計算では、周期5秒の精度で計算を実施するために地球シミュレータの1944個のCPUを用いて地球モデルを55億個の格子点に分割した。しかしながら、現実的な地球モデルに対して全球を伝播する地震波形を周期1秒の精度で計算するためには、さらに数十倍の細かさで行うことが必要であった。今回我々は、スペクトル要素法を用いてスーパーコンピュータ「京」の82,134ノード(全ノードの99%)により、地球モデルを6,652億個の格子点に分割することで周期約1.2秒の精度での理論地震波形記録計算を実施した。「京」上で大規模な計算シミュレーションを実行して十分な性能を発揮するためには、スペクトル要素法のプログラムを最適化することが必要である。今回、プログラム中の計算量の8割を占める部分の最適化を図り、8CPUを用いて計算量を分割した場合の性能向上が7.89倍となった。さらに、並列計算での性能を示すストロング・スケーリングでも、同じ規模の計算を36,504ノードで実行した場合と比較して、82,134ノードでの結果は99.54%の性能を示すという、極めて良好な結果が得られた。82,134ノードを用いた計算では、実効性能が1.24ペタフロップス(ピーク性能比11.84%)という性能となった。この計算では、2011年東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)により励起された地震波を日本列島付近の地震観測点で観測された地震波形と比較することを試みた。長野県松代の地震観測点における地震波形と理論波形を比較した結果は良い一致を示しており、地震の初期破壊の様子を周期1.2秒の精度で計算シミュレーションした理論地震波形が良く再現していることを示している。
謝辞:本研究は、文部科学省によるHPCI戦略プログラム分野3「防災・減災に資する地球変動予測」の研究課題「地震の予測精度の高度化に関する研究」(課題代表者 古村孝志、課題番号 hp130013)の一環として実施された