[0007] 脳梗塞発症前の運動はsuperoxide dismutase活性を増加させ脳梗塞障害を軽減する
キーワード:脳梗塞モデル動物, トレッドミル, 酸化ストレス
【はじめに,目的】
脳梗塞の後遺症に苦しむ患者数の増大から,脳梗塞の予防的介入が重要視されている。動物実験では,脳梗塞発症前に一定期間運動を行うことで,脳梗塞後の運動機能障害が軽減し,脳梗塞体積も減少するという報告がなされている(Wang RY. et al., 2001)。この作用機序について,我々の研究室では脳梗塞の二次的傷害の主要な要因である酸化ストレスに着目し,脳梗塞発症前に運動を行うことで酸化ストレス産物(8-OHdG,4-HNE修飾タンパク)の生成が軽減されることを報告し,酸化ストレス抑制の関連を示唆した(Hamakawa M. et al., 2013)。しかし,この酸化ストレス抑制の機序は明らかになっていない。そこで,本研究では脳内の主要な抗酸化ストレス物質の1つであるsuperoxide dismutase(SOD)に着目し,事前の運動による脳梗塞障害軽減効果の作用機序を検討することを目的とする。
【方法】
実験動物にはWistar系雄性ラット(5週齢)を用いた。無作為にSham群(n=6),運動+sham群(n=6),脳梗塞群(n=8),運動+脳梗塞群(n=12)の4群に分け,運動+sham群と運動+脳梗塞群は3週間のトレッドミル運動(15m/min,30分/日)を毎日行った。Sham群と脳梗塞群は走行させずにトレッドミル装置内に曝露させた。3週間後,脳梗塞群と運動+脳梗塞群に対し,小泉法により90分間左中大脳動脈を閉塞することで脳梗塞モデル作成手術を施した。手術24時間後に,感覚-運動機能に関し,麻痺の重症度の評価としてneurological deficits(ND)を,前肢の感覚運動機能の評価としてlimb placing test(LP)を,前肢の協調運動機能の評価としてladder testを,歩行時のバランス能力の評価としてbeam walking test(BW)を行った。その直後に脳梗塞周囲の大脳皮質感覚運動野を採取し,SOD-Assay kit-WST(同仁化学研究所)を用いてSOD活性を測定した。また,SODの遺伝子発現について,real-time PCR法によりSOD1(Cu,Zn-SOD),SOD2(Mn-SOD),SOD3(EC-SOD)のmRNA発現量を定量化した。
統計学的解析はSPSS ver. 16.0を用い,感覚-運動機能評価に関しND,LP,BWについてはMann-Whitney U testを,ladder testについてはStudent’s t-testを行った。また,SOD活性,SOD1,2,3の遺伝子発現については一元配置分散分析にて比較し,事後検定としてTukey’s testを行った。統計学的検定における有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究における前処置は名古屋大学動物実験指針に従って実施した。
【結果】
運動+脳梗塞群は脳梗塞群に比べて,ND,LP,ladder testにおいて有意に障害が軽度であった(p<0.05)。一方でBWでは群間に有意差は認められなかった。またSOD活性は,運動+脳梗塞群が脳梗塞群に比べ有意に高値を示した(p<0.05)。さらにSOD1は,運動+脳梗塞群が脳梗塞群に比べ有意に発現が高かった(p<0.05)。SOD2,3は群間に有意差は認められなかった。
【考察】
脳梗塞モデル作成前に3週間のトレッドミル運動を行うことで,脳梗塞後の感覚-運動機能障害が軽減することが示された。またSOD活性およびSOD1発現量の増加が示された。これらの結果より,事前に運動を行うことは,脳梗塞時のSOD発現,活性が促進され,虚血/再灌流により生じる大量の活性酸素を迅速に消去し,酸化ストレスを抑制する作用があると考えられる。よって,脳梗塞発症前の運動が及ぼす障害軽減効果には,SODの抗酸化ストレス能に伴う神経保護作用が関与していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
脳梗塞発症前の運動による脳梗塞障害軽減効果の作用機序の一端を分子生物学的に示した。これらの結果は,脳梗塞の予防として推奨されている運動の効果を科学的に検討し,予防医療分野における理学療法のさらなる発展に寄与するものと考える。
脳梗塞の後遺症に苦しむ患者数の増大から,脳梗塞の予防的介入が重要視されている。動物実験では,脳梗塞発症前に一定期間運動を行うことで,脳梗塞後の運動機能障害が軽減し,脳梗塞体積も減少するという報告がなされている(Wang RY. et al., 2001)。この作用機序について,我々の研究室では脳梗塞の二次的傷害の主要な要因である酸化ストレスに着目し,脳梗塞発症前に運動を行うことで酸化ストレス産物(8-OHdG,4-HNE修飾タンパク)の生成が軽減されることを報告し,酸化ストレス抑制の関連を示唆した(Hamakawa M. et al., 2013)。しかし,この酸化ストレス抑制の機序は明らかになっていない。そこで,本研究では脳内の主要な抗酸化ストレス物質の1つであるsuperoxide dismutase(SOD)に着目し,事前の運動による脳梗塞障害軽減効果の作用機序を検討することを目的とする。
【方法】
実験動物にはWistar系雄性ラット(5週齢)を用いた。無作為にSham群(n=6),運動+sham群(n=6),脳梗塞群(n=8),運動+脳梗塞群(n=12)の4群に分け,運動+sham群と運動+脳梗塞群は3週間のトレッドミル運動(15m/min,30分/日)を毎日行った。Sham群と脳梗塞群は走行させずにトレッドミル装置内に曝露させた。3週間後,脳梗塞群と運動+脳梗塞群に対し,小泉法により90分間左中大脳動脈を閉塞することで脳梗塞モデル作成手術を施した。手術24時間後に,感覚-運動機能に関し,麻痺の重症度の評価としてneurological deficits(ND)を,前肢の感覚運動機能の評価としてlimb placing test(LP)を,前肢の協調運動機能の評価としてladder testを,歩行時のバランス能力の評価としてbeam walking test(BW)を行った。その直後に脳梗塞周囲の大脳皮質感覚運動野を採取し,SOD-Assay kit-WST(同仁化学研究所)を用いてSOD活性を測定した。また,SODの遺伝子発現について,real-time PCR法によりSOD1(Cu,Zn-SOD),SOD2(Mn-SOD),SOD3(EC-SOD)のmRNA発現量を定量化した。
統計学的解析はSPSS ver. 16.0を用い,感覚-運動機能評価に関しND,LP,BWについてはMann-Whitney U testを,ladder testについてはStudent’s t-testを行った。また,SOD活性,SOD1,2,3の遺伝子発現については一元配置分散分析にて比較し,事後検定としてTukey’s testを行った。統計学的検定における有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究における前処置は名古屋大学動物実験指針に従って実施した。
【結果】
運動+脳梗塞群は脳梗塞群に比べて,ND,LP,ladder testにおいて有意に障害が軽度であった(p<0.05)。一方でBWでは群間に有意差は認められなかった。またSOD活性は,運動+脳梗塞群が脳梗塞群に比べ有意に高値を示した(p<0.05)。さらにSOD1は,運動+脳梗塞群が脳梗塞群に比べ有意に発現が高かった(p<0.05)。SOD2,3は群間に有意差は認められなかった。
【考察】
脳梗塞モデル作成前に3週間のトレッドミル運動を行うことで,脳梗塞後の感覚-運動機能障害が軽減することが示された。またSOD活性およびSOD1発現量の増加が示された。これらの結果より,事前に運動を行うことは,脳梗塞時のSOD発現,活性が促進され,虚血/再灌流により生じる大量の活性酸素を迅速に消去し,酸化ストレスを抑制する作用があると考えられる。よって,脳梗塞発症前の運動が及ぼす障害軽減効果には,SODの抗酸化ストレス能に伴う神経保護作用が関与していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
脳梗塞発症前の運動による脳梗塞障害軽減効果の作用機序の一端を分子生物学的に示した。これらの結果は,脳梗塞の予防として推奨されている運動の効果を科学的に検討し,予防医療分野における理学療法のさらなる発展に寄与するものと考える。