[0009] 脳出血モデルラットにおけるスキルトレーニングとトレッドミル走行が運動機能回復に与える影響の違い
Keywords:脳出血, 運動学習, 運動機能
【はじめに,目的】
脳卒中後の運動療法は,中枢神経系の可塑的変化を引き起こし,運動機能の改善を導くことが知られている。また,運動療法の種類により運動機能改善および中枢神経系の可塑的変化に違いがあることが知られている。脳卒中モデルラットに対するスキルトレーニングは,単純動作の反復運動より麻痺側の運動機能回復および中枢神経系の可塑的変化を促進することが報告されている。しかし,脳出血後の両運動の効果の違いについて検討した報告はなく,中枢神経系における可塑的変化の具体的メカニズムは不明な点が多い。本研究の目的は,脳出血モデルラットを用いて,スキルトレーニングとトレッドミル走行運動が運動機能および組織傷害に与える影響の違いについて検討した。
【方法】
実験動物にはWistar系雄性ラット(250~270 g)を用いた。対象を無作為に非運動群(ICH群:n=8),スキルトレーニング群(ICH+AT群:n=6)およびトレッドミル走行群(ICH+TR群:n=6)の3群に分けた。脳出血モデルは,深麻酔下にて,頭頂部の皮膚を切開し,頭蓋骨表面のブレグマから左外側3.0 mm,前方0.2 mmの位置に小穴をあけ,マイクロインジェクションポンプにつないだカニューレを頭蓋骨表面から6.0 mmの深さまで挿入し,コラゲナーゼ(200 U/ml,1.2 ul)を注入して作製した。ICH+AT群には,全身の協調運動,運動学習が必要な訓練としてアクロバットトレーニングを実施させた。トレーニング内容は,格子台,縄梯子,綱渡り,平行棒,障壁の5課題で各コース長1 m移動させた。このトレーニングは,術後4~28日まで,1日4回実施した。ただし,術後4~6日のトレーニングには必要最低限の補助を加えた。ICH+TR群は,トレッドミル走行を術後4~28日まで実施した。トレッドミル走行条件は,前述のアクロバティック課題の総距離(20 m)と遂行時間に合わせて,術後7~8日目までを5 m/分で4分間,術後9~10日目までを8 m/分で2分30秒,術後11~28日目までを13 m/分で1分10秒とした。運動機能評価には,motor deficit score(MDS)(自発回転,前肢把握,角材歩行,後肢反射の4項目を0点(正常)~3点(重度)で点数化)と後肢の協調性評価としてbeam walking test(角材歩行中の後肢の使い方を7段階で評価)を経時的に実施した。beam walking testは,幅の広い(幅2.5cm;wide beam walking test)角材と幅の狭い(幅1.0cm;narrow beam walking test)角材の上を歩かせて行動評価を行なった。narrow beam walking testはwide beam walking testより課題の難度が高く,より高度な協調運動を評価することができる。運動機能の評価日は手術後1,3,7,11,14,21,28日目に実施した。組織学的評価には,脳出血後29日目に切片を作成してヘマトキシリン・エオジン染色を施し,脳出血後のスキルトレーニングが脳出血後の傷害と二次的変性による大脳皮質の萎縮に与える影響を調べるために組織損失体積および大脳皮質の厚さを画像解析ソフトウェアで解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は名古屋大学医学部保健学科動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:22-027)。
【結果】
運動機能評価は,MDS,wide beam walking testでは,ICH+AT群はICH群,ICH+TR群と比較して11,14日目に有意な回復を示し(P<0.05),narrow beam walking testでは,ICH+AT群はICH群,ICH+TR群と比較して28日目に有意な回復を示した(P<0.05)。組織学的解析から,組織損失体積と大脳皮質の厚さには全群間に有意差はなかった。
【考察】
脳出血後のスキルトレーニングは同運動量のトレッドミル走行運動よりも運動機能の回復促進効果があることが分かった。このことから,脳出血後の運動機能障害に対して,強制的な単純課題より,運動学習を取り入れたトレーニングの方が,同運動量で効率的な回復効果を得ることができると考えられる。この両者の運動課題は共に,組織傷害への影響は見られなかったことから,スキルトレーニングでより回復効果が認められたことについては神経可塑性が関与している可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は脳出血後のより効果的な運動療法を検討するために,同運動量のスキルトレーニングとトレッドミル走行運動が運動機能障害に与える影響について比較検討した。スキルトレーニングとトレッドミル走行運動の更なる作用機序を解明することで効率的かつ効果的な治療法として理学療法に貢献できると考えられる。
脳卒中後の運動療法は,中枢神経系の可塑的変化を引き起こし,運動機能の改善を導くことが知られている。また,運動療法の種類により運動機能改善および中枢神経系の可塑的変化に違いがあることが知られている。脳卒中モデルラットに対するスキルトレーニングは,単純動作の反復運動より麻痺側の運動機能回復および中枢神経系の可塑的変化を促進することが報告されている。しかし,脳出血後の両運動の効果の違いについて検討した報告はなく,中枢神経系における可塑的変化の具体的メカニズムは不明な点が多い。本研究の目的は,脳出血モデルラットを用いて,スキルトレーニングとトレッドミル走行運動が運動機能および組織傷害に与える影響の違いについて検討した。
【方法】
実験動物にはWistar系雄性ラット(250~270 g)を用いた。対象を無作為に非運動群(ICH群:n=8),スキルトレーニング群(ICH+AT群:n=6)およびトレッドミル走行群(ICH+TR群:n=6)の3群に分けた。脳出血モデルは,深麻酔下にて,頭頂部の皮膚を切開し,頭蓋骨表面のブレグマから左外側3.0 mm,前方0.2 mmの位置に小穴をあけ,マイクロインジェクションポンプにつないだカニューレを頭蓋骨表面から6.0 mmの深さまで挿入し,コラゲナーゼ(200 U/ml,1.2 ul)を注入して作製した。ICH+AT群には,全身の協調運動,運動学習が必要な訓練としてアクロバットトレーニングを実施させた。トレーニング内容は,格子台,縄梯子,綱渡り,平行棒,障壁の5課題で各コース長1 m移動させた。このトレーニングは,術後4~28日まで,1日4回実施した。ただし,術後4~6日のトレーニングには必要最低限の補助を加えた。ICH+TR群は,トレッドミル走行を術後4~28日まで実施した。トレッドミル走行条件は,前述のアクロバティック課題の総距離(20 m)と遂行時間に合わせて,術後7~8日目までを5 m/分で4分間,術後9~10日目までを8 m/分で2分30秒,術後11~28日目までを13 m/分で1分10秒とした。運動機能評価には,motor deficit score(MDS)(自発回転,前肢把握,角材歩行,後肢反射の4項目を0点(正常)~3点(重度)で点数化)と後肢の協調性評価としてbeam walking test(角材歩行中の後肢の使い方を7段階で評価)を経時的に実施した。beam walking testは,幅の広い(幅2.5cm;wide beam walking test)角材と幅の狭い(幅1.0cm;narrow beam walking test)角材の上を歩かせて行動評価を行なった。narrow beam walking testはwide beam walking testより課題の難度が高く,より高度な協調運動を評価することができる。運動機能の評価日は手術後1,3,7,11,14,21,28日目に実施した。組織学的評価には,脳出血後29日目に切片を作成してヘマトキシリン・エオジン染色を施し,脳出血後のスキルトレーニングが脳出血後の傷害と二次的変性による大脳皮質の萎縮に与える影響を調べるために組織損失体積および大脳皮質の厚さを画像解析ソフトウェアで解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は名古屋大学医学部保健学科動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:22-027)。
【結果】
運動機能評価は,MDS,wide beam walking testでは,ICH+AT群はICH群,ICH+TR群と比較して11,14日目に有意な回復を示し(P<0.05),narrow beam walking testでは,ICH+AT群はICH群,ICH+TR群と比較して28日目に有意な回復を示した(P<0.05)。組織学的解析から,組織損失体積と大脳皮質の厚さには全群間に有意差はなかった。
【考察】
脳出血後のスキルトレーニングは同運動量のトレッドミル走行運動よりも運動機能の回復促進効果があることが分かった。このことから,脳出血後の運動機能障害に対して,強制的な単純課題より,運動学習を取り入れたトレーニングの方が,同運動量で効率的な回復効果を得ることができると考えられる。この両者の運動課題は共に,組織傷害への影響は見られなかったことから,スキルトレーニングでより回復効果が認められたことについては神経可塑性が関与している可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は脳出血後のより効果的な運動療法を検討するために,同運動量のスキルトレーニングとトレッドミル走行運動が運動機能障害に与える影響について比較検討した。スキルトレーニングとトレッドミル走行運動の更なる作用機序を解明することで効率的かつ効果的な治療法として理学療法に貢献できると考えられる。