[0013] 機械的咳介助の圧設定の違いが換気力学的指標に及ぼす影響
キーワード:機械的咳介助, 咳嗽時最大呼気流量, 咳嗽加速度
【はじめに,目的】
機械的咳介助(mechanically assisted coughing:MAC)は自己喀痰困難者に対し,気道分泌物を除去する目的で咳嗽の補強や代用として使用される。本邦では平成22年度より神経筋疾患患者を対象に医療保健適応となり,平成24年度には脊髄損傷や脳性麻痺患者等にも使用でき対象疾患が拡大されている。短時間で疲労や痛みが少なく効果的に排痰できる一方,気胸や不整脈などの副作用を引き起こす可能性があり,リスク管理が重要である。これまで使用報告は多くされてきたが,圧変化による換気力学的指標の報告は皆無であり,明らかとなっていない。今回,我々は機械的咳介助装置の圧変化が咳嗽力の指標となる咳嗽時最大呼吸流量(cough peak flow:CPF)や咳嗽加速度(cough volume acceleration:CVA)へ及ぼす影響について検討することを目的とした。
【方法】
対象は喫煙歴のない健常成人男性10名(平均年齢23.9±2.9歳,身長1.70±0.04,体重61.4±6.8)とし,事前に肺機能検査,最大努力時の随意咳嗽を測定した。機械的咳介助装置としてはカフアシスト(フィリップス・レスピロニクス合同会社製)を使用し,フロートランスデューサー,圧トランスデューサー取り付け,フェイスマスクを介して実施した。測定肢位は端座位とし,被験者には声帯を開いた状態を維持するように指示した。機器の設定は吸気・呼気時間1秒,休止ポーズ1秒とし,吸気圧・呼気圧を4段階(±10cmH2O,±20cmH2O,±30cmH2O,±40cmH2O)に変化させ,各5サイクル行い,得られたデータはA/Dコンバータ(Power Lab 16/35,Model PL3516:ADInstruments)を介してパーソナルコンピュータに取り込んだ。各設定圧の最も高いCPFを測定値とし,呼気上昇時間,CVA,吸気量,呼出量,吸気圧,呼気圧を算出した。各測定項目の設定圧間の比較には一元配置分散分析を用いて実施し,多重比較にはTurkey-Kramer法を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて説明し,同意を得てから実施した。また事前に本学研究倫理委員会の承認を得た。
【結果】
CPF,CVA,呼出量,吸気圧,呼気圧は全ての設定圧間で有意差を認めたが,呼気上昇時間においてはいずれも有意差は認めなかった。また,吸気量においては±30cm H2Oと±40cmH2O間でのみ有意差を認めなかった。喀痰にはCPFが160L/min以上必要とされるが,今回の結果からは±20cmH2Oの圧で達成できた。また,最大努力時の随意咳嗽と±40cmH2O時の咳嗽を比較すると,CPFは58%,CVAは89%,呼気上昇時間は48%であった。
【考察】
Bachらによると喀痰には最低でも160L/min以上のCPFが必要とされる。今回の結果から咳嗽不可となった場合でも±20cm H2O以上の圧設定により喀痰可能なCPFが生成できると考えられた。また,一般的に呼気圧・吸気圧は同様の設定で使用されることが多いが,吸気量に関しては30cmH2Oと40cmH2Oでは有意差は認めなかった。これは,高肺気量位では肺コンプライアンスは低くなることが関連していると考えられ,30cmH2O以上の吸気圧は負担が大きい割には有効な吸気量が得られないものと推測された。また,呼気上昇時間は咳嗽時の声帯機能を表すと報告されており,機械的咳嗽装置は随意咳嗽よりも著明に呼気上昇時間を短縮しており,咳嗽時の声帯機能を十分に代用出来ていると考えられた。
本研究の限界として,今回の結果は健常成人で行っているため,実際に使用する患者よりも肺・胸郭のコンプライアンスや気道抵抗は良く,呼気流量が出やすかったことが考えられる。そのため実際は症例ごとに応じた設定が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
これまで機械的咳介助は在宅や臨床現場で使用されているが,呼気・吸気圧設定に関しては一様となっていることが多く,設定変更に関しても経験的なところが多い。本研究の結果は圧設定と換気力学的指標の関係性が示され,臨床現場において圧設定の指標の一助となると考えられる。
機械的咳介助(mechanically assisted coughing:MAC)は自己喀痰困難者に対し,気道分泌物を除去する目的で咳嗽の補強や代用として使用される。本邦では平成22年度より神経筋疾患患者を対象に医療保健適応となり,平成24年度には脊髄損傷や脳性麻痺患者等にも使用でき対象疾患が拡大されている。短時間で疲労や痛みが少なく効果的に排痰できる一方,気胸や不整脈などの副作用を引き起こす可能性があり,リスク管理が重要である。これまで使用報告は多くされてきたが,圧変化による換気力学的指標の報告は皆無であり,明らかとなっていない。今回,我々は機械的咳介助装置の圧変化が咳嗽力の指標となる咳嗽時最大呼吸流量(cough peak flow:CPF)や咳嗽加速度(cough volume acceleration:CVA)へ及ぼす影響について検討することを目的とした。
【方法】
対象は喫煙歴のない健常成人男性10名(平均年齢23.9±2.9歳,身長1.70±0.04,体重61.4±6.8)とし,事前に肺機能検査,最大努力時の随意咳嗽を測定した。機械的咳介助装置としてはカフアシスト(フィリップス・レスピロニクス合同会社製)を使用し,フロートランスデューサー,圧トランスデューサー取り付け,フェイスマスクを介して実施した。測定肢位は端座位とし,被験者には声帯を開いた状態を維持するように指示した。機器の設定は吸気・呼気時間1秒,休止ポーズ1秒とし,吸気圧・呼気圧を4段階(±10cmH2O,±20cmH2O,±30cmH2O,±40cmH2O)に変化させ,各5サイクル行い,得られたデータはA/Dコンバータ(Power Lab 16/35,Model PL3516:ADInstruments)を介してパーソナルコンピュータに取り込んだ。各設定圧の最も高いCPFを測定値とし,呼気上昇時間,CVA,吸気量,呼出量,吸気圧,呼気圧を算出した。各測定項目の設定圧間の比較には一元配置分散分析を用いて実施し,多重比較にはTurkey-Kramer法を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容および危険性などについて説明し,同意を得てから実施した。また事前に本学研究倫理委員会の承認を得た。
【結果】
CPF,CVA,呼出量,吸気圧,呼気圧は全ての設定圧間で有意差を認めたが,呼気上昇時間においてはいずれも有意差は認めなかった。また,吸気量においては±30cm H2Oと±40cmH2O間でのみ有意差を認めなかった。喀痰にはCPFが160L/min以上必要とされるが,今回の結果からは±20cmH2Oの圧で達成できた。また,最大努力時の随意咳嗽と±40cmH2O時の咳嗽を比較すると,CPFは58%,CVAは89%,呼気上昇時間は48%であった。
【考察】
Bachらによると喀痰には最低でも160L/min以上のCPFが必要とされる。今回の結果から咳嗽不可となった場合でも±20cm H2O以上の圧設定により喀痰可能なCPFが生成できると考えられた。また,一般的に呼気圧・吸気圧は同様の設定で使用されることが多いが,吸気量に関しては30cmH2Oと40cmH2Oでは有意差は認めなかった。これは,高肺気量位では肺コンプライアンスは低くなることが関連していると考えられ,30cmH2O以上の吸気圧は負担が大きい割には有効な吸気量が得られないものと推測された。また,呼気上昇時間は咳嗽時の声帯機能を表すと報告されており,機械的咳嗽装置は随意咳嗽よりも著明に呼気上昇時間を短縮しており,咳嗽時の声帯機能を十分に代用出来ていると考えられた。
本研究の限界として,今回の結果は健常成人で行っているため,実際に使用する患者よりも肺・胸郭のコンプライアンスや気道抵抗は良く,呼気流量が出やすかったことが考えられる。そのため実際は症例ごとに応じた設定が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
これまで機械的咳介助は在宅や臨床現場で使用されているが,呼気・吸気圧設定に関しては一様となっていることが多く,設定変更に関しても経験的なところが多い。本研究の結果は圧設定と換気力学的指標の関係性が示され,臨床現場において圧設定の指標の一助となると考えられる。