[0021] 理学療法学科学生における高齢者に関する知識,印象の調査
Keywords:理学療法学生, 高齢者, FAQ
【はじめに】理学療法士は日常的に高齢者を対象とすることが多いため,高齢者に対する正しい知識を身に付ける必要がある。高齢者に対する知識を調査した先行研究では,医療・福祉関連職種またはその学生は,日常的に障害を持った高齢者と接する機会が多いため,その他の職種に比べ,否定的な印象や間違った知識をもつ傾向にあるとされている。しかし理学療法の領域において高齢者に対する正しい知識や印象を調査した報告はない。そこで本研究では理学療法学科学生の高齢者に関する知識や印象の調査し,今後も理学療法学生に対する高齢者教育の一助とすることを目的とする。
【方法】対象は理学療法学科に通う学生328人(平均年齢は20.0±1.2歳,男性166人,女性162人)とした。対象者に対し,高齢者に関する知識や印象に関する評価尺度である日本語版加齢の事実に関するクイズ(The Fact of Aging Quizzes:FAQ)と日本語版Fraboniエイジズム尺度(FSA)短縮版を調査した。FAQは高齢者に関する質問25項目からなり,2件法で答えるクイズである。FSA短縮版は14項目からなり,「①そう思う」から「⑤そう思わない」の5件法で記載し,合計点が低いほどエイジズムが高いことを示す尺度である。調査の後,FAQの全体の正答率と各質問項目の正答率を算出した。またFSAは全対象者の合計点,各質問項目の回答分布を算出した。
【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に従い,対象者全員に対し研究の概要と目的,個人情報の保護,研究中止の自由が記載された文書を用いて説明を行い,書面にて同意を得た。また本研究は埼玉医科大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て実施している。
【結果】調査の結果,全対象者のFAQの正答数の平均は14.7±2.7点であり,正答率は58.8%であった。男女別では男性が58.6%,女性が58.9%であった。FAQの中で正答率が50%未満であった項目は10項目であった。特に正答率が低い項目は,項目8「高齢のドライバーが事故を起こす割合は65歳未満のドライバーより低い」が33.3%,項目16「高齢者は若い人より鬱状態になりやすい」が20.2%,項目19「今では人口の30%以上が65歳以上である。」が31.8%,項目20「医療従事者の大半は高齢者を後回しにする傾向がある。」が21.9%,項目23「高齢者は年とともに信心深くなる」が26.4%,項目24「大多数の高齢者は,自分に苛立ったり,怒ったりすることは滅多にないと言う。」が33.6%であった。一方で正答率が高い項目は,項目1「高齢者(65歳以上)の大多数はぼけている」が88.3%,項目4「高齢になるにつれ,肺活量は低下する傾向がある」が93.4%,項目5「高齢者の大多数はほとんどいつも惨めだと感じている」が91.3%,項目6「体力は高齢になると衰えがちになる」が95.5%,項目12「高齢者は一般に新しいことを習うのに若い人より時間がかかる」が92.2%,項目14「高齢者は若い人より反応が遅い」が91.6%であった。一方,対象者全体のFSAの得点は55.7±8.0点であった。またFSA項目の中で,回答分布が点数の低い方に偏っていた項目は,「多くの高齢者は過去に行きている」のみであった。
【考察】本邦におけるFAQの正答率に関する先行研究では,放送関係者で約70%,介護職員や看護学生では50~60%程度と報告されている。本研究の理学療法学生の正答率58.8%であり,他の学生や医療福祉関連職種と同程度であることが示された。また各質問項目を調査した結果,理学療法学生において正答率が低く誤認していた項目は,高齢者の取り巻く社会的状況,高齢者の精神状態や生活状況に関する内容が多かった。一方,正答率が高く正しく認識されている項目は,心身機能の加齢変化に関する内容であった。以上のことから理学療法学生の高齢者に対す知識や印象については,心身機能の加齢変化に関する内容については高く,高齢者を取り巻く社会的側面や心理的側面については低いことが明らかとなった。理学療法教育の場面においても,社会的側面や心理的側面などを含めた総合的な高齢者教育が必要であると考える。
【理学療法学研究における意義】障害を有する高齢者と接する機会の多い医療関連職種は,高齢者に対して間違った印象を持ちやすいとされる。しかし医療関連職種こそ,高齢者に対する正しい知識を身に付けた人材を育成することが必要である。本研究の結果は,今後高齢者のリハビリテーションを担う理学療法士を育成するために必要な老年学教育を確立する上で有用な情報である。
【方法】対象は理学療法学科に通う学生328人(平均年齢は20.0±1.2歳,男性166人,女性162人)とした。対象者に対し,高齢者に関する知識や印象に関する評価尺度である日本語版加齢の事実に関するクイズ(The Fact of Aging Quizzes:FAQ)と日本語版Fraboniエイジズム尺度(FSA)短縮版を調査した。FAQは高齢者に関する質問25項目からなり,2件法で答えるクイズである。FSA短縮版は14項目からなり,「①そう思う」から「⑤そう思わない」の5件法で記載し,合計点が低いほどエイジズムが高いことを示す尺度である。調査の後,FAQの全体の正答率と各質問項目の正答率を算出した。またFSAは全対象者の合計点,各質問項目の回答分布を算出した。
【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に従い,対象者全員に対し研究の概要と目的,個人情報の保護,研究中止の自由が記載された文書を用いて説明を行い,書面にて同意を得た。また本研究は埼玉医科大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て実施している。
【結果】調査の結果,全対象者のFAQの正答数の平均は14.7±2.7点であり,正答率は58.8%であった。男女別では男性が58.6%,女性が58.9%であった。FAQの中で正答率が50%未満であった項目は10項目であった。特に正答率が低い項目は,項目8「高齢のドライバーが事故を起こす割合は65歳未満のドライバーより低い」が33.3%,項目16「高齢者は若い人より鬱状態になりやすい」が20.2%,項目19「今では人口の30%以上が65歳以上である。」が31.8%,項目20「医療従事者の大半は高齢者を後回しにする傾向がある。」が21.9%,項目23「高齢者は年とともに信心深くなる」が26.4%,項目24「大多数の高齢者は,自分に苛立ったり,怒ったりすることは滅多にないと言う。」が33.6%であった。一方で正答率が高い項目は,項目1「高齢者(65歳以上)の大多数はぼけている」が88.3%,項目4「高齢になるにつれ,肺活量は低下する傾向がある」が93.4%,項目5「高齢者の大多数はほとんどいつも惨めだと感じている」が91.3%,項目6「体力は高齢になると衰えがちになる」が95.5%,項目12「高齢者は一般に新しいことを習うのに若い人より時間がかかる」が92.2%,項目14「高齢者は若い人より反応が遅い」が91.6%であった。一方,対象者全体のFSAの得点は55.7±8.0点であった。またFSA項目の中で,回答分布が点数の低い方に偏っていた項目は,「多くの高齢者は過去に行きている」のみであった。
【考察】本邦におけるFAQの正答率に関する先行研究では,放送関係者で約70%,介護職員や看護学生では50~60%程度と報告されている。本研究の理学療法学生の正答率58.8%であり,他の学生や医療福祉関連職種と同程度であることが示された。また各質問項目を調査した結果,理学療法学生において正答率が低く誤認していた項目は,高齢者の取り巻く社会的状況,高齢者の精神状態や生活状況に関する内容が多かった。一方,正答率が高く正しく認識されている項目は,心身機能の加齢変化に関する内容であった。以上のことから理学療法学生の高齢者に対す知識や印象については,心身機能の加齢変化に関する内容については高く,高齢者を取り巻く社会的側面や心理的側面については低いことが明らかとなった。理学療法教育の場面においても,社会的側面や心理的側面などを含めた総合的な高齢者教育が必要であると考える。
【理学療法学研究における意義】障害を有する高齢者と接する機会の多い医療関連職種は,高齢者に対して間違った印象を持ちやすいとされる。しかし医療関連職種こそ,高齢者に対する正しい知識を身に付けた人材を育成することが必要である。本研究の結果は,今後高齢者のリハビリテーションを担う理学療法士を育成するために必要な老年学教育を確立する上で有用な情報である。