[0028] 変形性膝関節症患者を対象とした歩行能力の変化を判別する身体機能的因子の検証
Keywords:検査特性, 5m最大歩行時間, 縦断研究
【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下,膝OA)は,加齢とともに変形などの症状が経年的に進行する退行変性疾患である。治療は保存療法が第一選択であり,発症の段階から進行予防に配慮したうえで,長期的な展望を考慮する必要がある。膝OA患者に対する理学療法では,運動機能障害の進行を予防すること,すなわち歩行能力を維持することが重要な目標の1つである。長期的な予後を踏まえて理学療法介入を行う疾患に対しては,客観的な指標を用いて将来の運動機能の変化を予測し,治療方針の決定や理学療法の継続を判断する必要がある。本研究では,保存療法を実施している膝OA患者の歩行能力の変化と身体機能との関連性を検討し,歩行能力の変化を予測する身体機能的因子の検査特性を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は,当院にて膝OAと診断され,2009年2月から2013年11月まで理学療法を継続していた13名(男性3名,女性10名,年齢76.0±5.5歳)であった。取込基準は15m以上の屋内独歩が可能な者とし,除外基準は1ヵ月以上理学療法を中止した者,調査期間中に下肢の骨折や手術の既往が発生した者とした。対象者の1週間の外来理学療法回数は1.2±0.4回であった。対象者への理学療法として,大腿四頭筋運動を中心とした下肢筋力強化運動や膝関節を中心とした下肢関節可動域運動の運動療法と,温熱療法や電気療法を中心とした物理療法を実施した。研究デザインは後ろ向き研究で,ベースライン調査として膝伸展筋力・膝屈曲筋力・疼痛(VAS)・膝関節伸展角度(膝伸展ROM)・膝関節屈曲角度(膝屈曲ROM)と5m最大歩行時間を診療記録より調査した。さらに,追跡調査としてベースライン調査から約5年後(日数1622.1±105.0日)の5m最大歩行時間の測定を行った。統計解析は,5m最大歩行時間の測定標準誤差(SEM)=0.35から最小検知変化(MDC)=0.99を算出し,「追跡調査時の5m最大歩行時間-ベースライン時の5m最大歩行時間」の変化量が0.99秒未満の者を歩行能力維持群:「1」とし,0.99秒以上の者を歩行能力低下群:「0」として分け,2群の身体機能の比較を行った。続いて,2群の比較により有意差が認められた身体機能に対してReceiver Operating Characteristic(以下,ROC)曲線分析を行い,カットオフ値を求め,検査特性を算出した。統計ソフトはR 2.8.1を使用し,有意水準は両側5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には本研究の説明を行い,同意を得た。
【結果】2標本t検定の結果,膝伸展筋力に有意差が認められた(p=0.047)。なお,歩行能力維持群の膝伸展筋力は1.47±0.31Nm/kg,歩行能力低下群の膝伸展筋力は1.01±0.43 Nm/kgであった。さらに,ROC曲線分析の結果,曲線下面積(AUC)は0.80(p=0.046)であり,歩行能力維持を判別するための膝伸展筋力検査のカットオフ値は1.10Nm/kgであった。また,この時の特異度は60.0%,陽性尤度比(以下,LR+)は2.5であった。
【考察】本研究の結果より,歩行能力維持群は歩行能力低下群に比べて,ベースライン時の膝伸展筋力が高値を示した。また,ROC曲線分析の結果,歩行能力維持を判別するための膝伸展筋力検査のカットオフ値は1.10Nm/kgであり,その時のLR+が2.5であったことから,膝伸展筋力検査は歩行能力維持の確定診断に有用である可能性が示唆された。すなわち,理学療法評価時に膝伸展筋力検査が1.10 Nm/kg以上であった場合は,一般的に実施されている膝OA患者に対する理学療法介入によって,歩行能力を維持できる可能性が示唆された。膝伸展筋力検査は,保存療法を実施している膝OA患者の長期的な歩行能力の変化を予測できる可能性があるため,治療方針の決定や理学療法の継続を判断する際に役立つと考える。今後は本研究を基に身体機能の長期的変化を含めた前向き研究や介入研究を行い,より詳細な検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】膝OAなどの退行変性疾患に対しては運動機能を維持することが重要な目標の1つであり,適切なプログラムの立案や理学療法の継続を判断する際,客観的な指標を用いることは有用である。本研究の結果から,膝伸展筋力検査が1.10Nm/kg以上であった場合は,膝OA患者に対する一般的な理学療法介入により,歩行能力が維持できる可能性が示唆された。本研究は,理学療法の長期的フォローアップの有効性を示すための一助になると考える。
【方法】対象は,当院にて膝OAと診断され,2009年2月から2013年11月まで理学療法を継続していた13名(男性3名,女性10名,年齢76.0±5.5歳)であった。取込基準は15m以上の屋内独歩が可能な者とし,除外基準は1ヵ月以上理学療法を中止した者,調査期間中に下肢の骨折や手術の既往が発生した者とした。対象者の1週間の外来理学療法回数は1.2±0.4回であった。対象者への理学療法として,大腿四頭筋運動を中心とした下肢筋力強化運動や膝関節を中心とした下肢関節可動域運動の運動療法と,温熱療法や電気療法を中心とした物理療法を実施した。研究デザインは後ろ向き研究で,ベースライン調査として膝伸展筋力・膝屈曲筋力・疼痛(VAS)・膝関節伸展角度(膝伸展ROM)・膝関節屈曲角度(膝屈曲ROM)と5m最大歩行時間を診療記録より調査した。さらに,追跡調査としてベースライン調査から約5年後(日数1622.1±105.0日)の5m最大歩行時間の測定を行った。統計解析は,5m最大歩行時間の測定標準誤差(SEM)=0.35から最小検知変化(MDC)=0.99を算出し,「追跡調査時の5m最大歩行時間-ベースライン時の5m最大歩行時間」の変化量が0.99秒未満の者を歩行能力維持群:「1」とし,0.99秒以上の者を歩行能力低下群:「0」として分け,2群の身体機能の比較を行った。続いて,2群の比較により有意差が認められた身体機能に対してReceiver Operating Characteristic(以下,ROC)曲線分析を行い,カットオフ値を求め,検査特性を算出した。統計ソフトはR 2.8.1を使用し,有意水準は両側5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には本研究の説明を行い,同意を得た。
【結果】2標本t検定の結果,膝伸展筋力に有意差が認められた(p=0.047)。なお,歩行能力維持群の膝伸展筋力は1.47±0.31Nm/kg,歩行能力低下群の膝伸展筋力は1.01±0.43 Nm/kgであった。さらに,ROC曲線分析の結果,曲線下面積(AUC)は0.80(p=0.046)であり,歩行能力維持を判別するための膝伸展筋力検査のカットオフ値は1.10Nm/kgであった。また,この時の特異度は60.0%,陽性尤度比(以下,LR+)は2.5であった。
【考察】本研究の結果より,歩行能力維持群は歩行能力低下群に比べて,ベースライン時の膝伸展筋力が高値を示した。また,ROC曲線分析の結果,歩行能力維持を判別するための膝伸展筋力検査のカットオフ値は1.10Nm/kgであり,その時のLR+が2.5であったことから,膝伸展筋力検査は歩行能力維持の確定診断に有用である可能性が示唆された。すなわち,理学療法評価時に膝伸展筋力検査が1.10 Nm/kg以上であった場合は,一般的に実施されている膝OA患者に対する理学療法介入によって,歩行能力を維持できる可能性が示唆された。膝伸展筋力検査は,保存療法を実施している膝OA患者の長期的な歩行能力の変化を予測できる可能性があるため,治療方針の決定や理学療法の継続を判断する際に役立つと考える。今後は本研究を基に身体機能の長期的変化を含めた前向き研究や介入研究を行い,より詳細な検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】膝OAなどの退行変性疾患に対しては運動機能を維持することが重要な目標の1つであり,適切なプログラムの立案や理学療法の継続を判断する際,客観的な指標を用いることは有用である。本研究の結果から,膝伸展筋力検査が1.10Nm/kg以上であった場合は,膝OA患者に対する一般的な理学療法介入により,歩行能力が維持できる可能性が示唆された。本研究は,理学療法の長期的フォローアップの有効性を示すための一助になると考える。