[0049] 頸部振動刺激による頸部位置覚の変化と重心動揺の変化との関連
キーワード:位置覚, 重心動揺, 振動刺激
【はじめに,目的】ヒトの立位姿勢制御は,視覚系,前庭系および体性感覚系からの知覚情報を統合処理し,四肢,体幹の筋運動調節系に対する出力を行う一連の過程であり,転倒との関連性から立位姿勢制御の評価は重要である。頸部位置覚は,頭部と頸部の位置関係を得て,頭部の位置を安定させることで,他の立位姿勢制御に関与する視覚および前庭系の安定にも寄与しており,立位姿勢制御において重要な役割を担っている。頸部振動刺激は,頸部固有受容器からの感覚変化が生じることで頭部位置の混乱を引き起こし,自己中心参照枠が変更され,姿勢変化が生じると考えられ,多くの研究に用いられているが,頸部振動刺激が頸部位置覚におよぼす影響を調査した報告は少ない。本研究では,健常若年者を対象に,頸部振動刺激による頸部位置覚の変化と重心動揺の変化との関連を調査することを目的とした。
【方法】対象は健常若年者12名(男女各6名),平均年齢23.8±4.0歳であった。頸部関節位置覚の測定(relocation test,以下RT)は,椅子座位にて被験者の頭部にレーザーポインタを装着し,100cm前方の壁に投射させ測定した。安静時の投射点と閉眼で頸部最大回旋後に自覚的出発点に戻した時の投射点との距離を測定した。RTは,被験者の後方350cmにデジタルカメラを設置し,画像解析ソフトImage J(NIH)を用いて解析した。RTは,左右回旋を交互に10回行い,平均値を代表値とした。重心動揺検査は,重心動揺計twingravicoder6100(ANIMA)を用い,閉眼閉脚立位にて,60秒間測定した。得られたデータを高速フーリエ変換法(FFT)によるスペクトル解析にて,周波数帯域0.02から0.20Hz(FFTA),0.20から2.00Hz(FFTB),2.00から10.00Hz(FFTC)のパワースペクトル密度を算出した。頸部への振動刺激は,頸部後面へバンドにて固定した小型直流モーターFA-130RA(マブチモーター株式会社)を用いて製作した約100 Hzで振動するバイブレータ2機を用いて行った。測定手順は,RT,重心動揺検査,安静座位にて1分間の頸部筋への振動刺激,重心動揺検査,RTの順に行った。ただし,2回目のRTでは各測定の前に10秒間頸部筋へ振動刺激を加えた。頸部振動刺激前後のRT代表値をRTpre,RTpost,総軌跡長(LNG)をLNGpre,LNGpostとし,RTの変化率=RTpost/RTpre,LNGの変化率=LNGpost/LNGpreにて算出した。統計解析は,FreeJSTAT version13.0(佐藤真人,株式会社南江堂)を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言を遵守し,すべての対象者に書面にて本研究の目的と内容について説明して同意を得てから調査を行った。
【結果】本研究の結果,RTpreは67±14 mm,RTpostは71±22 mm,RTの変化率は1.06±0.29,LNGpreは89.97±23.16 cm,LNGpostは82.02±16.15 cm,LNGの変化率は0.94±0.22だった。RTpreとRTpost,LNGpreとLNGpostとの間に有意差はなかったが,RTの変化率は,LNGの変化率と中等度の有意な相関があり(r=0.61,p<0.05),FFTBの刺激前後の差と有意な中等度の相関があった(r=0.62,p<0.05)。
【考察】本研究の結果,頸部振動刺激前後の頸部位置覚および重心動揺に有意な差はみられなかったが,頸部位置覚の変化率は,重心動揺の変化率と関連があった。先行研究では,後頸筋振動刺激中は無刺激時と比較して有意にLNGが増大することや筋への振動刺激の残存効果が位置覚の変化を継続的にもたらすことが報告されている。本研究において,振動刺激による影響は,個人差はあるが位置覚が低下すると重心動揺は増大することが示された。周波数解析では,FTTBの刺激前後の差は,頸部位置覚の変化率と有意な相関があった。立位姿勢制御に関連する重心動揺成分は,下腿三頭筋の体性感覚では2Hz以上の周波数帯域,足底圧および触覚では0.021から0.029Hzの周波数帯域にあるとの報告があり,部位により異なっている。本研究結果から,頸部の体性感覚情報は,0.2から2Hzの周波数帯域の重心動揺成分を制御している可能性が示された。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より,頸部位置覚は重心動揺と関連があり,0.2から2Hzの周波数帯域は,頸部筋からの体性感覚情報が制御している可能性が示された。立位姿勢制御の基礎研究として高齢者の転倒予防研究への活用が期待される。
【方法】対象は健常若年者12名(男女各6名),平均年齢23.8±4.0歳であった。頸部関節位置覚の測定(relocation test,以下RT)は,椅子座位にて被験者の頭部にレーザーポインタを装着し,100cm前方の壁に投射させ測定した。安静時の投射点と閉眼で頸部最大回旋後に自覚的出発点に戻した時の投射点との距離を測定した。RTは,被験者の後方350cmにデジタルカメラを設置し,画像解析ソフトImage J(NIH)を用いて解析した。RTは,左右回旋を交互に10回行い,平均値を代表値とした。重心動揺検査は,重心動揺計twingravicoder6100(ANIMA)を用い,閉眼閉脚立位にて,60秒間測定した。得られたデータを高速フーリエ変換法(FFT)によるスペクトル解析にて,周波数帯域0.02から0.20Hz(FFTA),0.20から2.00Hz(FFTB),2.00から10.00Hz(FFTC)のパワースペクトル密度を算出した。頸部への振動刺激は,頸部後面へバンドにて固定した小型直流モーターFA-130RA(マブチモーター株式会社)を用いて製作した約100 Hzで振動するバイブレータ2機を用いて行った。測定手順は,RT,重心動揺検査,安静座位にて1分間の頸部筋への振動刺激,重心動揺検査,RTの順に行った。ただし,2回目のRTでは各測定の前に10秒間頸部筋へ振動刺激を加えた。頸部振動刺激前後のRT代表値をRTpre,RTpost,総軌跡長(LNG)をLNGpre,LNGpostとし,RTの変化率=RTpost/RTpre,LNGの変化率=LNGpost/LNGpreにて算出した。統計解析は,FreeJSTAT version13.0(佐藤真人,株式会社南江堂)を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言を遵守し,すべての対象者に書面にて本研究の目的と内容について説明して同意を得てから調査を行った。
【結果】本研究の結果,RTpreは67±14 mm,RTpostは71±22 mm,RTの変化率は1.06±0.29,LNGpreは89.97±23.16 cm,LNGpostは82.02±16.15 cm,LNGの変化率は0.94±0.22だった。RTpreとRTpost,LNGpreとLNGpostとの間に有意差はなかったが,RTの変化率は,LNGの変化率と中等度の有意な相関があり(r=0.61,p<0.05),FFTBの刺激前後の差と有意な中等度の相関があった(r=0.62,p<0.05)。
【考察】本研究の結果,頸部振動刺激前後の頸部位置覚および重心動揺に有意な差はみられなかったが,頸部位置覚の変化率は,重心動揺の変化率と関連があった。先行研究では,後頸筋振動刺激中は無刺激時と比較して有意にLNGが増大することや筋への振動刺激の残存効果が位置覚の変化を継続的にもたらすことが報告されている。本研究において,振動刺激による影響は,個人差はあるが位置覚が低下すると重心動揺は増大することが示された。周波数解析では,FTTBの刺激前後の差は,頸部位置覚の変化率と有意な相関があった。立位姿勢制御に関連する重心動揺成分は,下腿三頭筋の体性感覚では2Hz以上の周波数帯域,足底圧および触覚では0.021から0.029Hzの周波数帯域にあるとの報告があり,部位により異なっている。本研究結果から,頸部の体性感覚情報は,0.2から2Hzの周波数帯域の重心動揺成分を制御している可能性が示された。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より,頸部位置覚は重心動揺と関連があり,0.2から2Hzの周波数帯域は,頸部筋からの体性感覚情報が制御している可能性が示された。立位姿勢制御の基礎研究として高齢者の転倒予防研究への活用が期待される。