第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸1

Fri. May 30, 2014 10:50 AM - 11:40 AM ポスター会場 (内部障害)

座長:俵祐一(済生会長崎病院リハビリテーション部)

内部障害 ポスター

[0053] 肺切除術症例の術前運動耐容能低下が術後経過に与える影響と関連因子の検討

押見雅義1, 栁澤千香子1, 鈴木昭広1, 齋藤康人1, 高橋光美1, 鹿倉稚紗子1, 洲川明久2 (1.埼玉県立循環器・呼吸器病センター理学療法部, 2.埼玉県立循環器・呼吸器病センターリハビリテーション科)

Keywords:肺切除術, 運動耐容能, 6分間歩行試験

【はじめに,目的】
近年高齢者に対する肺切除手術症例が増えてきているが,ガイドライン上では年齢のみで手術の適否を決定すべきでないとされている。術前のPerformance status(PS)や運動耐容能低下は周術期の離床や合併症に影響を与える要因とされており懸念されることが多い。このため運動耐容能による手術適否の判断にはPSや階段昇降,最大酸素摂取量を基準としたものが報告されている。理学療法分野では周術期リハを進める上で運動耐容能評価として6分間歩行試験(6MWT)を使用している施設が多いが,6MWTから手術症例の運動耐容能低下を予測し影響を検討した報告は少ない。今回我々は自施設での肺切除症例を対象として,6MWTでの術前運動耐容能の低下が,特に高齢者の術後経過に影響を与えるかどうかについて明らかにすることを目的として検討を行った。
【方法】
2008年1月から2012年12月までの5年間に当センターで周術期リハを実施した初回の肺切除術症例を対象とした。対象除外基準として術前化学療法・放射線治療実施者・試験開胸例・術後経過に手術侵襲の影響が強いと考えられる肺全摘例・拡大手術例は除外した。年代ごとの傾向を見るため対象を59歳以下(Y群),60-74歳(M群),75歳以上(H群)の3群に分けた。運動耐容能の評価は術前に実施した6MWTから6分間歩行距離(6MD)を求め,年代ごとの平均値から平均-1SD以下の6MDの症例を運動耐容能低下症例(L群),それ以外を運動耐容能正常群(N群)として群分けした。また各L群においては6MD低下に関わり得る既往についてカルテより抽出した。次に年代ごとにN/L群間の術式,術後経過(術後在院日数・術後酸素使用日数・胸腔ドレーン抜去日数),術後合併症発生率,術前評価項目(BMI・喫煙指数・肺機能・呼吸筋力・6MWT時のdesaturation・栄養状態・生化学データ)の比較を行った。統計は一元配置分散分析,対応のないt検定,χ2乗検定,Mann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当研究は個人情報の秘匿化に努め,自施設における倫理委員会の承認を得て実施された。
【結果】
対象はY群82例 M群281例,H群107例であった。各群の6MDは各々522.4±80.1m,494.0±88.1m,419.5±91.5mであった。各群間相互に6MDに有意差(P<0.001)を認めた。-1SD以下で分類した各群の内訳はY-N群69例(男:女33:36)Y-L群13例(5:8),M-N群250例(170:80)M-L群31例(20:11),H-N群90例(59:31)H-L群17例(12:5)であった。L群の6MDはY-L群398.2±51.2m,M-L群324.1±73.6m,H-L群278.3±37.4mでM-L群とH-L群間以外に有意差を(P=0.008~P<0.001)認めた。L群の6MD低下要因はH群では呼吸器系・循環器系・整形外科系の既往が多かった。また低下に関わりうる既往が不明な割合はY群が54%,M群が35%,H群が24%であった。術式はH-L群で葉切除以上の割合が有意に低かった。術後経過と術後合併症発生率はY群,M群,H群各群ともN/L群間に有意差は認めなかった。合併症発生率はY-N群10.1%・Y-L群0%,M-N群18.4%・M-L群16.1%,H-N群12.2%・H-L群23.5%であった。合併症は多岐にわたり群間に特有の傾向は認めなかった。各群の因子ではY群は有意差を認めなかった。M群ではL群で年齢・喫煙指数が有意に高く,VC・吸気筋力が有意に低かった。H群ではL群で%FEV1.0が有意に高かった。
【考察】
6MDから見た術前運動耐容能低下の程度は年代ごとに異なる。本研究でH-L群は6MD300m弱程度でこれはEnrightらの予測式換算で見ても同年齢の症例から約30%程度の低下を示した。H群では運動耐容能低下を規定する要因は様々な既往による影響が大きいと考えられた。一方で最も手術症例が多いM群では運動耐容能低下との関連として年齢・喫煙や肺機能の関わりが示唆された。今回の結果では各年代平均の1SD以下の症例でも術後経過に有意な悪影響は認めなかった。H-L群では部分切除レベルの症例が多く,また%FEV1.0が高い症例が多いなど術前からの症例選択の要素が見られたが,全体の中で23.5%と最も高い合併症発生率を示しており,高齢者の運動耐容能低下症例には術後経過に慎重な対応が必要と考えられた。6MWTから見た運動耐容能低下症例の周術期への影響については,今回対象に含めなかった手術適応外と判断された症例や手術実施者で6MWT未実施例などもおりそれらとの比較やさらに症例を増やした検討を進める必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者の肺切除術適応可否基準のひとつとしてPSを基準とした活動性や運動耐容能が挙げられるが明確な基準はない。運動耐容能の低下が術後に与える影響や低下の程度を,理学療法的立場から明らかにすることは今後の周術期リハビリテーションを進める上で有用であると考える。