[0054] Stair-climbing testは肺切除術後の運動耐容能評価に有用である
Keywords:6分間歩行試験, 最大酸素摂取量, 胸腔鏡下肺切除術
【はじめに,目的】
肺癌の根治術として施行される肺切除術は,術後の最大酸素摂取量を低下させる。従来,肺切除術後の運動耐容能評価には6分間歩行試験(6MWT)が用いられ,6MWTでの歩行距離(6MD)は術後1か月程度で術前値まで回復すると報告されている。しかし最大酸素摂取量の低下は術後6か月以上認められ,6MWTは肺切除術後の最大酸素摂取量を評価する上で不十分である。一方,Stair-climbing test(SCT)は症候性限界まで階段昇段を負荷する運動耐容能評価法であり,高負荷強度のため6MWTに比較し最大酸素摂取量を正確に評価できる。European Respiratory Societyが作成したガイドラインでは,肺切除術前の運動耐容能評価法としてSCTは6MWTより推奨度が高い。しかし,肺切除術後の運動耐容能評価にSCTを用いた報告は,我々が渉猟する限り見当たらない。肺切除術前後のSCTの変化を捉えることは,6MWTに代わる正確且つ簡便な運動耐容能評価法の確立に寄与すると考えられる。そこで本研究の目的は,胸腔鏡下肺切除術(VATS)施行患者を対象に,術前後のSCTと6MWTの変化を比較検討することとする。
【方法】
対象は2012年11月から2013年9月までにVATSを施行した肺癌患者のうち,術後合併症を認めなかった14例(男性6例,女性8例)とした。年齢69.2±9.4歳,身長159.2±9.4 cm,体重59.8±10.9 kg,BMI 23.5±2.8 kg/m2,術前肺機能は%VC 108.6±15.1%,一秒量1.75±0.50 Lであった。測定項目は,6MD,SCTにおける昇段高とした。6MWTはAmerican Thoracic Societyが作成したガイドライン,SCTはBrunelliらの報告に準じて実施し,試験終了直後の心拍数は心電図モニター(フクダ電子株式会社製DYNASCOPE DS-7780W)を用いて記録した。各測定項目についてVATS術前および術後1か月時に計測を行い,術後回復率(%6MWT,%SCT)を算出した。理学療法は手術翌日より開始し,歩行練習,自転車エルゴメータ運動,ADL練習を実施した。統計学的解析は,VATS術前後の6MD及びSCTにおける昇段高についてpaired t test,各試験終了後の心拍数及び術後回復率についてStudent’s t testを使用した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に対して事前に研究の趣旨を説明し,了承を得て施行した。
【結果】
6MDは術前492±64.4m,術後452±88.5mであった(P=0.15)。SCTにおける昇段高は,術前25.9±13.9m,術後15.2±5.5mであり,術後は術前と比較し有意に低値を示した(P<0.05)。試験終了直後の心拍数は,6MWTで術前101±14.5bpm,術後104±17.8bpm,SCTで術前122±22.1bpm,術後122±18.5bpmであり,術前・術後ともに6MWTと比較しSCTでは有意に高値を示した(P<0.05)。また,%6MWTは87.8±19.1,%SCTは67.1±24.4であり,SCTの術後回復率は6MWTの回復率と比較し有意に低値を示した(P<0.05)。
【考察】
肺切除術は肺胞の面積及び血管床を減少させるため,術側肺血流量及び一回心拍出量が低下し,運動時には心拍数で補正しきれず最大酸素摂取量は低下する。一般的に術後運動耐容能評価法は6MWTが用いられているが,Cesarioらは術後1か月で術前値の94%まで回復すると報告しており,本研究の%6MWTは類似する結果となった。一方,%SCTは67.1%に留まり,SCTは6MWTと比較し有意に回復率が低い結果となった。肺切除術後1か月での最大酸素摂取量は術前値の75.9%と報告されており,SCTの昇段高は6MDと比較し術後の最大酸素摂取量を正確に反映している可能性が示唆された。また試験直後の心拍数は,6MWTと比較しSCTで有意に高値であった。したがってSCTは6MWTより高負荷強度であったため,6MWTでは評価できない運動耐容能の低下を検出できた可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
肺切除術後のSCTと6MWTでは回復率に差が生じ,SCTは術後の最大酸素摂取量を反映する可能性が示唆された。臨床上簡便且つ正確な運動耐容能の評価法としてSCTは有用であり,理学療法の新たな効果指標となり得る。
肺癌の根治術として施行される肺切除術は,術後の最大酸素摂取量を低下させる。従来,肺切除術後の運動耐容能評価には6分間歩行試験(6MWT)が用いられ,6MWTでの歩行距離(6MD)は術後1か月程度で術前値まで回復すると報告されている。しかし最大酸素摂取量の低下は術後6か月以上認められ,6MWTは肺切除術後の最大酸素摂取量を評価する上で不十分である。一方,Stair-climbing test(SCT)は症候性限界まで階段昇段を負荷する運動耐容能評価法であり,高負荷強度のため6MWTに比較し最大酸素摂取量を正確に評価できる。European Respiratory Societyが作成したガイドラインでは,肺切除術前の運動耐容能評価法としてSCTは6MWTより推奨度が高い。しかし,肺切除術後の運動耐容能評価にSCTを用いた報告は,我々が渉猟する限り見当たらない。肺切除術前後のSCTの変化を捉えることは,6MWTに代わる正確且つ簡便な運動耐容能評価法の確立に寄与すると考えられる。そこで本研究の目的は,胸腔鏡下肺切除術(VATS)施行患者を対象に,術前後のSCTと6MWTの変化を比較検討することとする。
【方法】
対象は2012年11月から2013年9月までにVATSを施行した肺癌患者のうち,術後合併症を認めなかった14例(男性6例,女性8例)とした。年齢69.2±9.4歳,身長159.2±9.4 cm,体重59.8±10.9 kg,BMI 23.5±2.8 kg/m2,術前肺機能は%VC 108.6±15.1%,一秒量1.75±0.50 Lであった。測定項目は,6MD,SCTにおける昇段高とした。6MWTはAmerican Thoracic Societyが作成したガイドライン,SCTはBrunelliらの報告に準じて実施し,試験終了直後の心拍数は心電図モニター(フクダ電子株式会社製DYNASCOPE DS-7780W)を用いて記録した。各測定項目についてVATS術前および術後1か月時に計測を行い,術後回復率(%6MWT,%SCT)を算出した。理学療法は手術翌日より開始し,歩行練習,自転車エルゴメータ運動,ADL練習を実施した。統計学的解析は,VATS術前後の6MD及びSCTにおける昇段高についてpaired t test,各試験終了後の心拍数及び術後回復率についてStudent’s t testを使用した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に対して事前に研究の趣旨を説明し,了承を得て施行した。
【結果】
6MDは術前492±64.4m,術後452±88.5mであった(P=0.15)。SCTにおける昇段高は,術前25.9±13.9m,術後15.2±5.5mであり,術後は術前と比較し有意に低値を示した(P<0.05)。試験終了直後の心拍数は,6MWTで術前101±14.5bpm,術後104±17.8bpm,SCTで術前122±22.1bpm,術後122±18.5bpmであり,術前・術後ともに6MWTと比較しSCTでは有意に高値を示した(P<0.05)。また,%6MWTは87.8±19.1,%SCTは67.1±24.4であり,SCTの術後回復率は6MWTの回復率と比較し有意に低値を示した(P<0.05)。
【考察】
肺切除術は肺胞の面積及び血管床を減少させるため,術側肺血流量及び一回心拍出量が低下し,運動時には心拍数で補正しきれず最大酸素摂取量は低下する。一般的に術後運動耐容能評価法は6MWTが用いられているが,Cesarioらは術後1か月で術前値の94%まで回復すると報告しており,本研究の%6MWTは類似する結果となった。一方,%SCTは67.1%に留まり,SCTは6MWTと比較し有意に回復率が低い結果となった。肺切除術後1か月での最大酸素摂取量は術前値の75.9%と報告されており,SCTの昇段高は6MDと比較し術後の最大酸素摂取量を正確に反映している可能性が示唆された。また試験直後の心拍数は,6MWTと比較しSCTで有意に高値であった。したがってSCTは6MWTより高負荷強度であったため,6MWTでは評価できない運動耐容能の低下を検出できた可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
肺切除術後のSCTと6MWTでは回復率に差が生じ,SCTは術後の最大酸素摂取量を反映する可能性が示唆された。臨床上簡便且つ正確な運動耐容能の評価法としてSCTは有用であり,理学療法の新たな効果指標となり得る。