[0055] COPDを合併した低肺機能の肺癌症例における
標準開胸術と胸腔鏡補助下手術での比較による理学療法に関する検討
キーワード:肺癌, 肺切除術, 理学療法
【はじめに,目的】
当院では肺癌の外科的治療として,標準開胸術や侵襲度の低い胸腔鏡補助下手術(Video-Assisted Thoracic Surgery;VATS)などによる肺切除術が行われている。肺切除術における術式の違いによる術後運動耐容能や呼吸器合併症の比較といった報告は散見されるが,その中でもCOPDを合併している低肺機能の肺癌症例について標準開胸術とVATSでの呼吸機能や運動耐容能の違いを検討したものは少ない。そこで本研究の目的は,COPDを合併している低肺機能の肺癌症例について,標準開胸術とVATSでの術前呼吸機能と運動耐容能や術後離床,術後呼吸器合併症で違いがあるかを検討することで,このような症例に対する理学療法の一助にすることにした。
【方法】
対象は2011年5月から2013年8月までに,標準開胸術またはVATSにより肺区域切除または肺葉切除が施行された15例(標準開胸術7例,VATS 8例)とした。手術適応外,試験開胸術となった症例は除外した。今回の検討では,開胸術とVATSの2群に分類し,調査項目は患者背景(年齢,BMI,PS),術前呼吸機能(%VC,FEV1%,FEV1L,%FEV1,DLCO%),術前運動負荷試験から得られたVO2max,Mets,手術情報(手術時間,術中出血量),手術後経過(端座位開始日,歩行自立日,在院日数),手術前後6MD,手術前後膝伸展筋力値,術後呼吸器合併症の有無(発症率)とし後方視的に行った。解析はIBM SPSS Statistics Version 20を使用し,χ2検定,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定で行い,統計危険率5%を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言,当院臨床研究に関する倫理指針に準じて実施している。
【結果】
各項目については,2群間で有意差を認めなかった。呼吸機能に関しては,開胸術群とVATS群を比較すると%VCで97.2±26.4%と91.0±10.2%,FEV1.0Lで1.9±0.7Lと1.3±0.2L,FEV1.0%で61.9±20.4%と57.9±15.9%,%FEV1で71.9±24.2%と61.0±17.6%であった。DLCO(%)ではどちらも80%未満であり拡散障害を呈していた。VO2maxは開胸術群で中央値14.9ml/min/kg,VATS群で中央値13.8ml/min/kg,Metsは開胸術群で中央値4.3METs,VATS群で中央値3.9METsであった。術後の運動機能に関して,6MDは開胸術群で術前400±77mから術後242±80m,VATS群で術前314±120mから術後206±87m,膝伸展筋力値は,開胸術群で術前32.2±8.0kgf/kgから術後29.0±8.3kgf/kg,VATS群で23.0±11.0kgf/kgから21.0±11.1kgf/kgと両群ともに低下を認めた。手術後経過に関して,端座位開始日は開胸術とVATSで中央値1.0日とほぼ変わりはなく,歩行自立日は開胸術群とVATSで4.0±2.0日,3.2±1.7日であった。在院日数は開胸術群で中央値15日,VATS群で中央値11日であった。術後呼吸器合併症は,開胸術群で肺炎・無気肺が2例,低酸素血症が1例(発生率43%),VATS群で肺炎・無気肺が2例,低酸素血症が1例(発生率38%)であった。
【考察】
本研究の患者背景として,高齢者でCOPDを合併している低肺機能症例であり,術後離床遅延や術後呼吸器合併症を起こすリスクの高い症例を対象にしている。今回の結果では,全ての項目において有意な差は認めなかった。その原因として,①創部痛が疼痛コントロールを行うことで最小限にできたこと,②術後早期からの理学療法により運動耐容能の低下を最小限にできたこと,③術後呼吸器合併症を2群間で同程度に予防できたことと推測した。①については,硬膜外麻酔と患者自己調節鎮痛法による効果的な術後疼痛管理がなされており,切開の大きさや手術侵襲の大きさに関わらず,早期離床が可能となり2群間で有意な差がなかったと考えた。②について,肺切除術後の運動耐容能は開胸術において有意な低下を示すことが報告されているが,今回の結果で,開胸術とVATSの術式の違いによる6MDの低下に有意な差がなかった。これは全例に対して,術前から退院までの周術期の呼吸理学療法および上記の疼痛コントロールにて早期離床が可能となったことで,運動耐容能の低下を最小限に抑え,2群間で有意な差を認めなかったと考えた。③について,今回はCOPDを合併した低肺機能患者での検討であったため,2群ともに術後呼吸器合併症の発症率は43%,38%と高い結果であった。術後呼吸器合併症の予防には術後1週間以内が最も重要な時期であり,当院では上記の硬膜外麻酔とPCAを組み合わせた疼痛管理を行うことで,早期離床および深呼吸や自己排痰も円滑に進めることができ,2群間で合併症を同程度に予防することができたものと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
従来手術適応とされていなかったCOPDを合併した低肺機能の肺癌症例でも,術後理学療法を導入することで,開胸術でもVATSでも同程度の治療を提供できると考える。
当院では肺癌の外科的治療として,標準開胸術や侵襲度の低い胸腔鏡補助下手術(Video-Assisted Thoracic Surgery;VATS)などによる肺切除術が行われている。肺切除術における術式の違いによる術後運動耐容能や呼吸器合併症の比較といった報告は散見されるが,その中でもCOPDを合併している低肺機能の肺癌症例について標準開胸術とVATSでの呼吸機能や運動耐容能の違いを検討したものは少ない。そこで本研究の目的は,COPDを合併している低肺機能の肺癌症例について,標準開胸術とVATSでの術前呼吸機能と運動耐容能や術後離床,術後呼吸器合併症で違いがあるかを検討することで,このような症例に対する理学療法の一助にすることにした。
【方法】
対象は2011年5月から2013年8月までに,標準開胸術またはVATSにより肺区域切除または肺葉切除が施行された15例(標準開胸術7例,VATS 8例)とした。手術適応外,試験開胸術となった症例は除外した。今回の検討では,開胸術とVATSの2群に分類し,調査項目は患者背景(年齢,BMI,PS),術前呼吸機能(%VC,FEV1%,FEV1L,%FEV1,DLCO%),術前運動負荷試験から得られたVO2max,Mets,手術情報(手術時間,術中出血量),手術後経過(端座位開始日,歩行自立日,在院日数),手術前後6MD,手術前後膝伸展筋力値,術後呼吸器合併症の有無(発症率)とし後方視的に行った。解析はIBM SPSS Statistics Version 20を使用し,χ2検定,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定で行い,統計危険率5%を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言,当院臨床研究に関する倫理指針に準じて実施している。
【結果】
各項目については,2群間で有意差を認めなかった。呼吸機能に関しては,開胸術群とVATS群を比較すると%VCで97.2±26.4%と91.0±10.2%,FEV1.0Lで1.9±0.7Lと1.3±0.2L,FEV1.0%で61.9±20.4%と57.9±15.9%,%FEV1で71.9±24.2%と61.0±17.6%であった。DLCO(%)ではどちらも80%未満であり拡散障害を呈していた。VO2maxは開胸術群で中央値14.9ml/min/kg,VATS群で中央値13.8ml/min/kg,Metsは開胸術群で中央値4.3METs,VATS群で中央値3.9METsであった。術後の運動機能に関して,6MDは開胸術群で術前400±77mから術後242±80m,VATS群で術前314±120mから術後206±87m,膝伸展筋力値は,開胸術群で術前32.2±8.0kgf/kgから術後29.0±8.3kgf/kg,VATS群で23.0±11.0kgf/kgから21.0±11.1kgf/kgと両群ともに低下を認めた。手術後経過に関して,端座位開始日は開胸術とVATSで中央値1.0日とほぼ変わりはなく,歩行自立日は開胸術群とVATSで4.0±2.0日,3.2±1.7日であった。在院日数は開胸術群で中央値15日,VATS群で中央値11日であった。術後呼吸器合併症は,開胸術群で肺炎・無気肺が2例,低酸素血症が1例(発生率43%),VATS群で肺炎・無気肺が2例,低酸素血症が1例(発生率38%)であった。
【考察】
本研究の患者背景として,高齢者でCOPDを合併している低肺機能症例であり,術後離床遅延や術後呼吸器合併症を起こすリスクの高い症例を対象にしている。今回の結果では,全ての項目において有意な差は認めなかった。その原因として,①創部痛が疼痛コントロールを行うことで最小限にできたこと,②術後早期からの理学療法により運動耐容能の低下を最小限にできたこと,③術後呼吸器合併症を2群間で同程度に予防できたことと推測した。①については,硬膜外麻酔と患者自己調節鎮痛法による効果的な術後疼痛管理がなされており,切開の大きさや手術侵襲の大きさに関わらず,早期離床が可能となり2群間で有意な差がなかったと考えた。②について,肺切除術後の運動耐容能は開胸術において有意な低下を示すことが報告されているが,今回の結果で,開胸術とVATSの術式の違いによる6MDの低下に有意な差がなかった。これは全例に対して,術前から退院までの周術期の呼吸理学療法および上記の疼痛コントロールにて早期離床が可能となったことで,運動耐容能の低下を最小限に抑え,2群間で有意な差を認めなかったと考えた。③について,今回はCOPDを合併した低肺機能患者での検討であったため,2群ともに術後呼吸器合併症の発症率は43%,38%と高い結果であった。術後呼吸器合併症の予防には術後1週間以内が最も重要な時期であり,当院では上記の硬膜外麻酔とPCAを組み合わせた疼痛管理を行うことで,早期離床および深呼吸や自己排痰も円滑に進めることができ,2群間で合併症を同程度に予防することができたものと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
従来手術適応とされていなかったCOPDを合併した低肺機能の肺癌症例でも,術後理学療法を導入することで,開胸術でもVATSでも同程度の治療を提供できると考える。