第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防2

2014年5月30日(金) 10:50 〜 11:40 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:松村剛志(浜松大学保健医療学部理学療法学科)

生活環境支援 ポスター

[0065] 計算課題と語想起課題が地域在住後期高齢者の二重課題歩行に及ぼす影響の比較

志水宏太郎1, 佐々木健史2, 井平光2, 水本淳3, 牧野圭太郎3, 古名丈人2 (1.札幌医科大学保健医療学部理学療法学科, 2.札幌医科大学保健医療学部理学療法学第一講座, 3.札幌医科大学大学院保健医療学研究科)

キーワード:二重課題, 後期高齢者, 歩行

【はじめに,目的】
高齢者の転倒発生の要因には運動機能のみならず,注意機能をはじめとする認知機能の低下が深く関与している。これら運動及び認知機能を同時に評価する方法として,歩行中に計算課題や語想起課題,逆唱等の認知課題を行う二重課題歩行が用いられている。高齢者において,二重課題歩行時の歩行速度は通常歩行時よりも減少するが,課題遂行に用いられる記憶再生や注意配分などの認知機能への負荷量は,課題の種類により異なると考えられる。そのため本研究では認知課題の違いが高齢者の二重課題歩行に与える影響を明らかにすることを目的に,高齢者を対象として歩行中に計算課題と語想起課題を行った際の歩行速度およびその変化量を比較した。
【方法】
対象は高齢者22名(男性12名,女性10名,平均年齢80.2±3.6歳)であった。歩行条件は通常歩行,計算および語想起課題の二重課題歩行(以下計算歩行,語想起歩行)の3条件とした。測定環境は6.4mの歩行路(加速路2.0m,測定区間2.4m,減速路2.0m)にて実施した。測定回数は各条件ともに3試行ずつ行い,課題の順序は通常歩行から開始し,その後は計算あるいは語想起歩行を各条件ともランダムに行った。測定前の対象者に対して,通常歩行では「普段歩く速さで歩いてください」,計算および語想起歩行では「できるだけ多くの答えを声に出して言いながら,普段通りの速さで歩いてください。途中で答えが言えなくなっても歩くことを止めないでください」と教示した。計算課題はそれぞれ引き始めの異なる3の引き算(100,90,80)を,語想起課題は異なる種類の単語想起(動物,都道府県,魚)を1試行ずつそれぞれの試行間でランダムに行った。測定機器にはWalk-Way(アニマ社)を使用し,各条件および試行毎の歩行速度(m/s)を測定した。さらにそれぞれの二重課題による歩行速度の変化量として,歩行速度のDual-Task-Cost(以下DTC)を算出した。歩行速度の分析には,Walk-Way解析(アニマ社)のソフトウェアを用い,各条件の3試行の歩行速度の平均値を分析対象とした。DTCについては,|(通常歩行速度-計算もしくは語想起歩行での歩行速度)/通常歩行速度×100|の計算式から算出した。これらの解析から得られた各々のデータを歩行条件間で比較した。統計学的解析としてはANOVAを行い,その後の多重比較検定にはTukeyを用いた。またDTCについてはWilcoxonの順位和検定を用い,計算歩行と語想起歩行の間で比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の趣旨および目的を口頭と書面にて説明し,書面にて同意を得た。なお,本研究は著者所属機関の倫理審査委員会の承諾を受けて実施した。
【結果】
通常歩行,計算歩行,および語想起歩行の3つの歩行条件間に有意な主効果が認められた(p<0.05)。また多重比較検定の結果から,通常歩行条件と比較して計算歩行条件および,語想起歩行条件時の歩行速度が有意に低下したことが確認された(p<0.05)。DTCに関しては,歩行条件間で有意な差はみられなかった(p=0.41)。
【考察】
本研究の結果から,計算および語想起課題ともに歩行速度の低下に影響することが示された。またDTCの結果より,認知課題間の有意差は認められず,歩行速度の変化量に差がないことが明らかとなった。このことにより,認知課題を負荷した二重課題歩行時には歩行動作に影響を与えることが確認されたが,計算課題と語想起課題を負荷した場合の歩行時には注意配分の差は認められなかった。先行研究において,計算では短期記憶,語想起課題では長期記憶を多く用いるという課題特性があるとされるが,今回の結果から課題処理の違いが歩行に与える影響に差がないことが示された。そのため課題処理の違いによる影響よりも,対象者の認知機能の影響が大きいと考える。特に短期・長期記憶は加齢により処理速度や正確性が低下するとされている。今回の対象者の平均年齢が高く,加齢による短期・長期記憶の機能低下が予想されるため,処理過程の違いによる負荷量の差が生じなかったのではないかと推察する。
【理学療法学研究としての意義】
本研究より,課題処理の違いによる後期高齢者の二重課題歩行への影響が少ないことが示され,課題処理の違いよりも,対象者の認知機能が二重課題歩行に影響する可能性が示唆された。本研究の結果は二重課題を使用した介入や二重課題歩行の研究において,対象者への適切な課題選択の一助となると考える。