[0082] 大腿骨近位部骨折術後患者における歩行立脚後期の下肢関節角度と転倒恐怖感との関連性
キーワード:大腿骨近位部骨折, 転倒恐怖感, 歩行分析
【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折の発生機序は転倒によるものが大半であり,術後の理学療法において再転倒予防を含めた能力の改善が重要となる。転倒の予測因子として,転倒経験や転倒恐怖感,歩行能力などが報告され(征矢野2009),これらの因子は相互に作用して転倒リスクを高めるとされている(Rose 2009)。近年,歩行時の転倒回避戦略に関して,歩行ロボットの軌道生成法の研究から,立脚後期における矢状面での下肢関節運動の制御が注目されている。
本研究の目的は,デジタル画像解析ソフトImageJで計測した歩行立脚後期の下肢関節角度と転倒恐怖感との関連性を明らかにすることで,臨床応用が可能なデジタル画像の分析から大腿骨近位部骨折術後患者の転倒リスクを評価する方法を開発することである。
【方法】
対象は転倒により大腿骨近位部骨折を受傷し,観血的治療が行われた患者14名とした(平均年齢:82.2±7.0歳,性別:女性14名)。対象の選定は,杖歩行が自立または監視のみで可能な者とした(杖歩行自立6名,監視8名)。
課題は最大速度での5mの直線歩行とし,歩行中の矢状面映像をデジタルカメラ(CASIO社製EXILIM EX-ZS10)で5施行撮影した。カメラは,受傷側から歩行進行方向と直行するように,高さ0.9m,距離3mの位置に設置した。得られた映像を,VirtualDub-1.9.11を用いて1/30秒ごとの静止画に変換し,ImageJ1.45を用いて下肢関節角度を計測した。関節角度の計測点の決定は,歩行路中央部分の受傷側立脚期で,両下腿が交差する区間の50%の時点(以下,立脚中期)と,健側の下肢が接地する直前の時点(以下,立脚後期)とした。関節角度は,上前腸骨棘,上後腸骨棘,大転子,外側上顆,腓骨頭,外果,第5中足骨頭,第5中足骨底に貼付した直径15mmの標点マーカーを指標に,受傷側の股・膝関節伸展角度,足関節背屈角度,床面に対する足部の絶対角度(以下,踵挙上角度)を計測し,5施行の平均値を算出した。計測に先立ち,角度計測の誤差範囲を検討し,計測誤差が3.5±3.0°であることを確認した。
転倒恐怖感の評価は,征矢野らの転倒予防自己効力感(Fall Prevention Self-Efficacy:以下,FPSE)を用いた。FPSEは10項目の動作について転倒せずに行う自信の程度を4段階で調査するもので,高い点数ほど転倒恐怖感が少ないことを示す。
データの分析は,各部位での立脚中期から立脚後期までの角度変化量とFPSEの総点との関連性を,データの正規性を確認した上で,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した。統計ソフトはR-2.8.1を用いて,危険率5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究に先立ち当院倫理審査委員会にて承認を得た。対象者には事前に研究内容を説明し書面で同意を得た。
【結果】
FPSEの総点と有意な正の相関を認めたのは,股関節伸展角度(r=0.56)と踵挙上角度(r=0.62)で,有意な負の相関を認めたのは足関節背屈角度(r=-0.60)であった(全てp<0.05)。関節角度の平均値は,股関節伸展角度8.5±2.9°,足関節背屈角度6.1±3.2°,踵挙上角度5.7±4.7°で,事前に確認した計測誤差の範囲外であった。
【考察】
歩行ロボットの軌道生成法の研究から,立脚後期での3つの転倒回避戦略が必要とされている。これは,転倒力が発生した際に,床反力作用点を調節して転倒力を制御する床反力制御,床反力制御で制御できなかった転倒力を,上体をさらに前方へ加速させることで身体を復元する目標Zero Morment Point制御,予測起動から逸脱した上体位置を遊脚側下肢の着地位置の調節で修正する着地位置制御の3つのプロセスを示す(石井2012)。これらの転倒回避戦略は,足関節背屈を制御しながら踵を挙上することで,身体の回転軸を足関節から前足部に移行し,重心軌道の修正を行うForefoot Rockerを基盤とした姿勢制御である。
今回,転倒恐怖感が少ないほど,立脚後期での足関節背屈角度が少なく,踵挙上角度が大きいといった結果を示したことは,前述したForefoot Rocker機能と転倒恐怖感との関連性を反映した結果と考える。また,転倒恐怖感が少ないほど立脚後期での股関節伸展角度が大きいといった結果は,Forefoot Rockerを支点とした股関節伸展での身体の復元やステップ長の調節機能と転倒恐怖感との関連性を反映した結果と考える。
以上の事から,大腿骨近位部骨折術後患者の歩行分析において,立脚後期のForefoot Rocker機能を反映する踵挙上角度と股関節伸展角度から,転倒リスクを評価できる可能性が示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,我々理学療法士が直接対応可能な歩容の問題点に関して,転倒恐怖感との関連性を踏まえた上で,立脚後期におけるForefoot Rocker機能の重要性を明らかにした事である。これらのデータをImageJを用いて定量的に捉えることは有用な評価として臨床応用できる可能性がある。
大腿骨近位部骨折の発生機序は転倒によるものが大半であり,術後の理学療法において再転倒予防を含めた能力の改善が重要となる。転倒の予測因子として,転倒経験や転倒恐怖感,歩行能力などが報告され(征矢野2009),これらの因子は相互に作用して転倒リスクを高めるとされている(Rose 2009)。近年,歩行時の転倒回避戦略に関して,歩行ロボットの軌道生成法の研究から,立脚後期における矢状面での下肢関節運動の制御が注目されている。
本研究の目的は,デジタル画像解析ソフトImageJで計測した歩行立脚後期の下肢関節角度と転倒恐怖感との関連性を明らかにすることで,臨床応用が可能なデジタル画像の分析から大腿骨近位部骨折術後患者の転倒リスクを評価する方法を開発することである。
【方法】
対象は転倒により大腿骨近位部骨折を受傷し,観血的治療が行われた患者14名とした(平均年齢:82.2±7.0歳,性別:女性14名)。対象の選定は,杖歩行が自立または監視のみで可能な者とした(杖歩行自立6名,監視8名)。
課題は最大速度での5mの直線歩行とし,歩行中の矢状面映像をデジタルカメラ(CASIO社製EXILIM EX-ZS10)で5施行撮影した。カメラは,受傷側から歩行進行方向と直行するように,高さ0.9m,距離3mの位置に設置した。得られた映像を,VirtualDub-1.9.11を用いて1/30秒ごとの静止画に変換し,ImageJ1.45を用いて下肢関節角度を計測した。関節角度の計測点の決定は,歩行路中央部分の受傷側立脚期で,両下腿が交差する区間の50%の時点(以下,立脚中期)と,健側の下肢が接地する直前の時点(以下,立脚後期)とした。関節角度は,上前腸骨棘,上後腸骨棘,大転子,外側上顆,腓骨頭,外果,第5中足骨頭,第5中足骨底に貼付した直径15mmの標点マーカーを指標に,受傷側の股・膝関節伸展角度,足関節背屈角度,床面に対する足部の絶対角度(以下,踵挙上角度)を計測し,5施行の平均値を算出した。計測に先立ち,角度計測の誤差範囲を検討し,計測誤差が3.5±3.0°であることを確認した。
転倒恐怖感の評価は,征矢野らの転倒予防自己効力感(Fall Prevention Self-Efficacy:以下,FPSE)を用いた。FPSEは10項目の動作について転倒せずに行う自信の程度を4段階で調査するもので,高い点数ほど転倒恐怖感が少ないことを示す。
データの分析は,各部位での立脚中期から立脚後期までの角度変化量とFPSEの総点との関連性を,データの正規性を確認した上で,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した。統計ソフトはR-2.8.1を用いて,危険率5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究に先立ち当院倫理審査委員会にて承認を得た。対象者には事前に研究内容を説明し書面で同意を得た。
【結果】
FPSEの総点と有意な正の相関を認めたのは,股関節伸展角度(r=0.56)と踵挙上角度(r=0.62)で,有意な負の相関を認めたのは足関節背屈角度(r=-0.60)であった(全てp<0.05)。関節角度の平均値は,股関節伸展角度8.5±2.9°,足関節背屈角度6.1±3.2°,踵挙上角度5.7±4.7°で,事前に確認した計測誤差の範囲外であった。
【考察】
歩行ロボットの軌道生成法の研究から,立脚後期での3つの転倒回避戦略が必要とされている。これは,転倒力が発生した際に,床反力作用点を調節して転倒力を制御する床反力制御,床反力制御で制御できなかった転倒力を,上体をさらに前方へ加速させることで身体を復元する目標Zero Morment Point制御,予測起動から逸脱した上体位置を遊脚側下肢の着地位置の調節で修正する着地位置制御の3つのプロセスを示す(石井2012)。これらの転倒回避戦略は,足関節背屈を制御しながら踵を挙上することで,身体の回転軸を足関節から前足部に移行し,重心軌道の修正を行うForefoot Rockerを基盤とした姿勢制御である。
今回,転倒恐怖感が少ないほど,立脚後期での足関節背屈角度が少なく,踵挙上角度が大きいといった結果を示したことは,前述したForefoot Rocker機能と転倒恐怖感との関連性を反映した結果と考える。また,転倒恐怖感が少ないほど立脚後期での股関節伸展角度が大きいといった結果は,Forefoot Rockerを支点とした股関節伸展での身体の復元やステップ長の調節機能と転倒恐怖感との関連性を反映した結果と考える。
以上の事から,大腿骨近位部骨折術後患者の歩行分析において,立脚後期のForefoot Rocker機能を反映する踵挙上角度と股関節伸展角度から,転倒リスクを評価できる可能性が示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,我々理学療法士が直接対応可能な歩容の問題点に関して,転倒恐怖感との関連性を踏まえた上で,立脚後期におけるForefoot Rocker機能の重要性を明らかにした事である。これらのデータをImageJを用いて定量的に捉えることは有用な評価として臨床応用できる可能性がある。