第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節2

2014年5月30日(金) 10:50 〜 11:40 ポスター会場 (運動器)

座長:中村裕樹(医療法人慈圭会八反丸病院診療部)

運動器 ポスター

[0086] 股関節切除術後患者への起立,歩行練習に3種類の下肢装具が奏功した症例

島袋公史1,2, 平山史朗1, 井上美幸1, 渡邉英夫1 (1.社会保険大牟田天領病院, 2.佐賀大学大学院医科学研究科)

キーワード:股関節疾患, 下肢装具, 歩行練習

【はじめに,目的】
股関節切除術は感染症のコントロールとして行われるが,術後の股関節の著しい不安定により起立・歩行練習に難渋し日常生活動作(以下,ADL)の制限も著しいとされている。これは股関節が切除され体重を支える構造が破綻し,股関節周囲の多くの筋に機能低下が生じ,さらに2関節筋による影響で膝関節筋力も低下し,立位での著明な脚長差も生じるなどが原因と考えられる。今回,股関節切除術後約半年が経過した症例に,3種類の下肢装具を病態に合わせて使用し,身体機能向上が得られたので報告する。
【方法】
症例は57歳,女性である。基礎疾患に糖尿病があり当院転院8ヶ月前に臓器感染にて他院に入院したが,その後2か月経過して右大腿骨頭,右臼蓋の骨髄炎がわかり,同部にセメントスペーサーを留置された。セメントスペーサー抜去と同時に右股関節切除術を受ける。術後から約半年を経て当院へリハビリテーション(以下,リハ)目的で転院となった。
理学療法介入時,術側への荷重は全荷重可能の指示であったが不能。右股関節の可動域はいずれの方向にもhyper mobilityであった。徒手筋力テストでは右下肢は股関節1 level,膝関節2 level,足関節2 levelであり,健側下肢も3~4 levelであった。立位での脚長差は8cm(左>右)。基本動作は座位保持も困難で全介助,ADLは機能的自立度評価表(以下,FIM)で42点であった。
理学療法を進める上での問題点として,右股関節不安定性,右下肢筋力低下,脚長差,健側下肢の筋力低下が挙げられた。
方法は,1.右股関節の不安定,筋力低下に対してリハ室常備の組立式股装具を用いたが,これは股継手に屈曲・伸展を制動・補助できる機能があり,外転も5°,10°,15°と設定できる。2.歩行時の膝折れに対して,常備の組立式膝装具を用いて膝継手を輪止めでロックした。3.脚長差と下垂足に対して,可撓性プラスチックキャストにより即席短下肢装具を製作し,底屈位で保持した。
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の発表の趣旨を説明し,発表に関して同意を得ている。
【結果】
理学療法介入約1か月後にリハ室での起立練習を開始したが,右股関節不安定,両上肢・健側下肢の支持性も乏しく体幹の正中位保持も困難であり,全介助で実施していた。そこで組立式股装具を使用して股関節の動きを制動し,軽度外転位保持を行ったら下肢への荷重量を増加でき,体幹の安定も改善した。右下肢の短縮と下垂足に対して即席短下肢装具をリハ室で製作したが,内側で踵部に数珠玉を敷き詰め底屈位で前足部荷重が安定良く出来るように作製できた。理学療法介入2か月経過して体幹の正中位保持・下肢振り出しも可能となり,平行棒内歩行練習も開始できた。徐々に健側下肢,両上肢の支持性も向上したので組立式股装具を外すこととした。しかし,歩行時に膝折れがみられることもあり,膝関節の安定保持のために組立式膝装具を装着した。経過良好で,理学療法介入3か月後には組立式膝装具,即席装具を使用せずに平行棒内歩行が可能となった。その後,歩行器歩行練習が実施可能となった。基本動作は修正自立~軽介助となり,立位移乗も可能となる。FIMは86点で,家族の介助で車いすでの外出が可能なlevelまで回復した。
【考察】
理学療法介入当初,股関節不安定,脚長差,健側下肢筋力低下の問題があり起立,歩行が不能で基本動作はほぼ全介助に近い状態であった。しかし,3種類の下肢装具を使用したことにより荷重でのリハが可能となり,両下肢支持性向上や体幹筋の賦活へと繋がったと思われる。これにより,Bed上動作や車いすへの移乗などがやりやすくなり,日常生活での活動性向上に繋がったのではないかと考える。特に組立式股装具の外転位での適切な屈曲への制動機能が不安定な股関節と体幹を保持し,起立・歩行練習を可能とし,症例の身体機能・能力向上に寄与できたのではと考える。今回は,術後約半年を経過した整形外科的な症例であったが,使用した3種類の装具は脳卒中急性期の症例や整形外科で他の下肢手術後早期の症例にも有用であると推測できた。
【理学療法学研究としての意義】
早期からリハ室常備の組立式下肢装具や,短時間で製作できる即席装具を種々の機能障害に対して使用することが出来れば,病期を逃さず起立・歩行練習を行う事ができる可能性がある。我々理学療法士が日常のリハの中でこのようなアプローチ法も選択肢にあれば障害の機能的・能力的改善に対して有用であると思われる。