[0096] 発症4か月後にADL全介助レベルで自宅退院した脳梗塞両片麻痺者に対する30か月間の訪問リハビリテーションが日常生活動作および介護負担に及ぼす効果の検討
Keywords:脳卒中, 日常生活動作, 介護負担
【はじめに,目的】
近年,発症後6か月以上の維持期脳卒中者に対する訪問リハビリテーション(訪問リハ)の介入効果が報告されてきているが,発症後6か月未満の脳卒中者に対する在宅での訪問リハの長期介入効果については十分に検証されていない。本報告の目的は,30か月間の訪問リハを実施した脳梗塞両片麻痺者の症例の経過をとおして,訪問リハが基本動作能力および介護負担に及ぼす長期的な効果を検討することとした。
【症例,検討方法】
69歳,男性,糖尿病(透析治療)・左眼失明の既往あり,平成22年12月に脳梗塞両片麻痺を発症した。入院後,医師より予後について機能改善困難と診断され,症例本人の希望から日常生活動作(ADL)全介助レベルの状態で自宅退院したが,家族介護者の介護負担が課題となり要介護5にて平成23年5月より3回/週,40分/回の訪問リハを開始した。訪問リハ開始時は,左右Brunnstrom recovery stage(BRS)上肢・手指IV,下肢II,両上下肢ともに遠位筋群に比べて近位筋群および体幹筋群の筋緊張に低下がみられ,左右上下肢に中等度以上の表在感覚・深部感覚の感覚鈍麻があった。基本動作能力はBedside mobility scale(BMS)0/40点,Functional independence measure運動項目(FIM)18/91点,Zarit介護負担尺度短縮版(ZBI_8)27/32点であった。訪問リハは家族への介護方法の指導と併せて動作練習を中心に実施し,起居・座位練習から開始して可能であれば起立・立位練習へ漸増的に進展し,介助にて立位が可能になり次第できるだけ早期から歩行練習を実施した。血圧コントロールが不良で最高血圧が120-200mmHgの間を推移し,疲労感が頻繁に出現し日間変動がみられたため,介入時に留意してリスク管理しつつ介入内容を随時調整した。経過を追跡するために訪問リハ開始から3か月ごとにBMS,FIM,ZBI_8を用いて評価するとともに,3か月ごとの訪問リハの累積実施回数を算出し,基本動作および介護負担の改善と訪問リハ介入の関連を調べるために各指標間の相関関係についてSpearman順位相関係数を用いて分析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,訪問リハの概要およびデータの学術的利用について,対象者および家族に対して説明し同意を得た。
【経過,解析結果】
平成24年4月までの1年間で月平均12.7回,計152回の訪問リハを実施した結果,右BRS上肢・手指IV,左右BRS下肢IV,寝返り・起き上がり・座位保持が自立,BMS26点,FIM40点へ改善したが,ZBI_8は25点であった。平成24年7月より軽度支持介助での歩行器歩行が可能となり,平成24年10月では自宅内で家族介護者の見守りでの歩行器歩行が可能となるとともにZBI_8が21点へと改善した。また,平成25年4月までの2年間で月平均12.5回,計301回の訪問リハを実施した結果,移乗動作が見守りで可,支持介助での4点杖歩行が可となり,BMS33点,FIM51点へ向上するとともにZBI_8が15点へと改善し,これらの成績は平成25年10月まで維持した。訪問リハ開始以後3か月ごとに合計10回評価した各指標間のSpearman順位相関係数を算出した結果,訪問リハ開始から3か月ごとに評価したBMS,FIM,ZBI_8の経過と訪問リハおよび基本動作練習の累積実施回数との間に有意な高い相関が認められた(BMS:0.966,FIM:0.963,ZBI_8:-0.934)。また,訪問リハ開始から3か月ごとのZBI_8の経過とBMSまたはFIMの経過との間に有意な高い相関が認められた(BMS:-0.907,FIM:-0.910)。
【考察】
本症例は訪問リハ開始時においてADL全介助レベルであったのに対して,訪問リハ開始2年後ではADL自立または一部介助レベルへ改善した。本症例は,血圧コントロール不良,疲労感の頻発があり,訪問リハ介入に制限を伴いやすかったが,介入内容を調整するとともに,動作の改善に合わせて練習水準を前向きに漸増することによって緩やかな動作練習効果が得られたと推察された。また,BMS,FIM,ZBI_8の経過と訪問リハまたは各基本動作練習の累積実施回数との間に高い相関が認められたことから,通常,回復期と考えられる在宅の脳卒中者においても訪問リハの継続的な介入によって回復期から維持期にかけて日常生活動作および介護負担の長期的な改善が得られる可能性があり,十分な介入量を確保することが重要であると考えられた。とくに,各指標の改善経過と相関分析の結果から,起立・立位・移乗動作と歩行を中心としたADLの改善が家族介護者の介護負担軽減に大きな影響を及ぼすと推察された。
【理学療法学研究としての意義】
ADL全介助レベルで自宅退院した脳卒中者において,在宅での回復期とも言える時期から継続的に訪問リハを実施することによって長期的な日常生活動作能力向上と介護負担軽減が得られる可能性を示唆した。
近年,発症後6か月以上の維持期脳卒中者に対する訪問リハビリテーション(訪問リハ)の介入効果が報告されてきているが,発症後6か月未満の脳卒中者に対する在宅での訪問リハの長期介入効果については十分に検証されていない。本報告の目的は,30か月間の訪問リハを実施した脳梗塞両片麻痺者の症例の経過をとおして,訪問リハが基本動作能力および介護負担に及ぼす長期的な効果を検討することとした。
【症例,検討方法】
69歳,男性,糖尿病(透析治療)・左眼失明の既往あり,平成22年12月に脳梗塞両片麻痺を発症した。入院後,医師より予後について機能改善困難と診断され,症例本人の希望から日常生活動作(ADL)全介助レベルの状態で自宅退院したが,家族介護者の介護負担が課題となり要介護5にて平成23年5月より3回/週,40分/回の訪問リハを開始した。訪問リハ開始時は,左右Brunnstrom recovery stage(BRS)上肢・手指IV,下肢II,両上下肢ともに遠位筋群に比べて近位筋群および体幹筋群の筋緊張に低下がみられ,左右上下肢に中等度以上の表在感覚・深部感覚の感覚鈍麻があった。基本動作能力はBedside mobility scale(BMS)0/40点,Functional independence measure運動項目(FIM)18/91点,Zarit介護負担尺度短縮版(ZBI_8)27/32点であった。訪問リハは家族への介護方法の指導と併せて動作練習を中心に実施し,起居・座位練習から開始して可能であれば起立・立位練習へ漸増的に進展し,介助にて立位が可能になり次第できるだけ早期から歩行練習を実施した。血圧コントロールが不良で最高血圧が120-200mmHgの間を推移し,疲労感が頻繁に出現し日間変動がみられたため,介入時に留意してリスク管理しつつ介入内容を随時調整した。経過を追跡するために訪問リハ開始から3か月ごとにBMS,FIM,ZBI_8を用いて評価するとともに,3か月ごとの訪問リハの累積実施回数を算出し,基本動作および介護負担の改善と訪問リハ介入の関連を調べるために各指標間の相関関係についてSpearman順位相関係数を用いて分析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,訪問リハの概要およびデータの学術的利用について,対象者および家族に対して説明し同意を得た。
【経過,解析結果】
平成24年4月までの1年間で月平均12.7回,計152回の訪問リハを実施した結果,右BRS上肢・手指IV,左右BRS下肢IV,寝返り・起き上がり・座位保持が自立,BMS26点,FIM40点へ改善したが,ZBI_8は25点であった。平成24年7月より軽度支持介助での歩行器歩行が可能となり,平成24年10月では自宅内で家族介護者の見守りでの歩行器歩行が可能となるとともにZBI_8が21点へと改善した。また,平成25年4月までの2年間で月平均12.5回,計301回の訪問リハを実施した結果,移乗動作が見守りで可,支持介助での4点杖歩行が可となり,BMS33点,FIM51点へ向上するとともにZBI_8が15点へと改善し,これらの成績は平成25年10月まで維持した。訪問リハ開始以後3か月ごとに合計10回評価した各指標間のSpearman順位相関係数を算出した結果,訪問リハ開始から3か月ごとに評価したBMS,FIM,ZBI_8の経過と訪問リハおよび基本動作練習の累積実施回数との間に有意な高い相関が認められた(BMS:0.966,FIM:0.963,ZBI_8:-0.934)。また,訪問リハ開始から3か月ごとのZBI_8の経過とBMSまたはFIMの経過との間に有意な高い相関が認められた(BMS:-0.907,FIM:-0.910)。
【考察】
本症例は訪問リハ開始時においてADL全介助レベルであったのに対して,訪問リハ開始2年後ではADL自立または一部介助レベルへ改善した。本症例は,血圧コントロール不良,疲労感の頻発があり,訪問リハ介入に制限を伴いやすかったが,介入内容を調整するとともに,動作の改善に合わせて練習水準を前向きに漸増することによって緩やかな動作練習効果が得られたと推察された。また,BMS,FIM,ZBI_8の経過と訪問リハまたは各基本動作練習の累積実施回数との間に高い相関が認められたことから,通常,回復期と考えられる在宅の脳卒中者においても訪問リハの継続的な介入によって回復期から維持期にかけて日常生活動作および介護負担の長期的な改善が得られる可能性があり,十分な介入量を確保することが重要であると考えられた。とくに,各指標の改善経過と相関分析の結果から,起立・立位・移乗動作と歩行を中心としたADLの改善が家族介護者の介護負担軽減に大きな影響を及ぼすと推察された。
【理学療法学研究としての意義】
ADL全介助レベルで自宅退院した脳卒中者において,在宅での回復期とも言える時期から継続的に訪問リハを実施することによって長期的な日常生活動作能力向上と介護負担軽減が得られる可能性を示唆した。