[0099] 短時間電気刺激列が体性感覚誘発脳磁界に与える影響
Keywords:脳磁図, 電気刺激, 体性感覚誘発磁界
【はじめに,目的】
正中神経などの末梢神経を持続的に電気刺激することにより大脳皮質感覚運動領域の興奮性を変動させることができるが,刺激パラメーターに影響されてその効果が変動する(Andrews et al, 2013;Chipchase et al, 2011)。一方,末梢神経刺激により誘発される体性感覚誘発脳磁場(Somatosensory evoked magnetic fields:SEF)は,テスト刺激前の条件刺激に応じて変動することが明らかになっているが(Lim et al, 2012),条件刺激の刺激回数や周波数などの刺激パターンがSEF波形にどのような影響を及ぼすのかは不明である。そこで,末梢神経刺激による効率的な皮質可塑的変化誘導法を開発することを最終的な目標として,短時間電気刺激列が正中神経刺激により誘発されるSEF波形に及ぼす影響を明らかにすることを本研究の目的とした。
【方法】
健常成人男性8名(27.5±9.0歳)を対象として,306ch脳磁計(Vectorview,Elekta)を利用し,右正中神経刺激時のSEFを計測した。電気刺激の強度は全て90%運動閾値(MT)として,次の4条件を4.5秒から5.5秒に1回の頻度でランダムに与えた。条件1)試験刺激の450msから550ms前に条件刺激として1発の電気刺激を実施。条件2)試験刺激の450msから550ms前に条件刺激として10Hzで6発の電気刺激を実施。条件3)試験刺激の450msから550ms前に条件刺激として100Hzで6発の電気刺激を実施。条件4)試験刺激のみ(コントロール)。各条件で50回以上の加算平均処理を行い,得られたSEF波形から等価電流双極子(ECD)およびECDモーメントを算出した。また,算出されたECDモーメントが顕著であったピーク潜時とピーク値を各条件間で比較した(Tukey HSD)。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験を実施するにあたり所属機関の倫理委員会にて承認を得た。また,被験者には書面および口頭にて実験内容を説明し実験参加の同意を得た。
【結果】
試験刺激のみ(条件4)のECDモーメントは,刺激後21.9±1.6 ms(N20m),33.8±2.7 ms(P35m),68.3±10.1 ms(P60m),152.3±43.5ms(N150m)に顕著な値を示したが,各成分のピーク潜時は条件間で有意な差は認められなかった。
ECDモーメントのN20mの値は12.5±5.7 nAm(条件1),12.9±3.6 nAm(条件2),11.7±4.8 nAm(条件3),12.6±4.8 nAm(条件4)であり,条件間で有意な差は認められなかった。P35mの値は19.2±13.1 nAm(条件1),15.9±9.6 nAm(条件2),16.1±8.3 nAm(条件3),21.3±12.7 nAm(条件4)であり,条件2では条件4に比べて有意に小さい値を示した(P<0.05)。P60mの値は34.2±13.6 nAm(条件1),31.1±10.6 nAm(条件2),36.2±13.4 nAm(条件3),39.6±11.6 nAm(条件4)であり,条件2では条件4に比べて有意に小さい値を示した(P<0.05)。N150mの値は14.6±8.4 nAm(条件1),12.1±5.6 nAm(条件2),11.6±5.2 nAm(条件3),14.6±6.8 nAm(条件1)であり,条件間で有意な差は認められなかった。
【考察】
先行研究と同様,いずれの条件においてもN20m,P35m,P60m,N150mが明確に観察された。また,試験刺激より約5秒前に与えられた運動閾値以下の刺激強度で構成した短時間の条件刺激の有無や条件刺激の種類に影響されずに,各成分のピーク潜時は変動しないことが確認された。一方,皮質活動量を示すECDモーメントはP35mおよびP60mにおいて試験刺激より約500ms前に与えた10Hzの6発刺激によって減弱することが明らかになった。この結果は,4 Hzの3発刺激を与えた際の我々の先行研究の結果と同様であった(第43回日本臨床神経生理学会)。高頻度高強度で神経を刺激することによりシナプス長期増強が認められるため,100Hzの6発刺激の条件ではP35mまたはP60mが増大するのではないかと予測していたが,著明な変化を導くことはできなかった。これは,刺激強度が運動閾値以下であったことと,刺激回数が6発のみであったことなどが影響しているのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は体性感覚刺激による皮質感覚運動領域の可塑的変化誘導法を開発するための一助になると考えられる。
正中神経などの末梢神経を持続的に電気刺激することにより大脳皮質感覚運動領域の興奮性を変動させることができるが,刺激パラメーターに影響されてその効果が変動する(Andrews et al, 2013;Chipchase et al, 2011)。一方,末梢神経刺激により誘発される体性感覚誘発脳磁場(Somatosensory evoked magnetic fields:SEF)は,テスト刺激前の条件刺激に応じて変動することが明らかになっているが(Lim et al, 2012),条件刺激の刺激回数や周波数などの刺激パターンがSEF波形にどのような影響を及ぼすのかは不明である。そこで,末梢神経刺激による効率的な皮質可塑的変化誘導法を開発することを最終的な目標として,短時間電気刺激列が正中神経刺激により誘発されるSEF波形に及ぼす影響を明らかにすることを本研究の目的とした。
【方法】
健常成人男性8名(27.5±9.0歳)を対象として,306ch脳磁計(Vectorview,Elekta)を利用し,右正中神経刺激時のSEFを計測した。電気刺激の強度は全て90%運動閾値(MT)として,次の4条件を4.5秒から5.5秒に1回の頻度でランダムに与えた。条件1)試験刺激の450msから550ms前に条件刺激として1発の電気刺激を実施。条件2)試験刺激の450msから550ms前に条件刺激として10Hzで6発の電気刺激を実施。条件3)試験刺激の450msから550ms前に条件刺激として100Hzで6発の電気刺激を実施。条件4)試験刺激のみ(コントロール)。各条件で50回以上の加算平均処理を行い,得られたSEF波形から等価電流双極子(ECD)およびECDモーメントを算出した。また,算出されたECDモーメントが顕著であったピーク潜時とピーク値を各条件間で比較した(Tukey HSD)。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験を実施するにあたり所属機関の倫理委員会にて承認を得た。また,被験者には書面および口頭にて実験内容を説明し実験参加の同意を得た。
【結果】
試験刺激のみ(条件4)のECDモーメントは,刺激後21.9±1.6 ms(N20m),33.8±2.7 ms(P35m),68.3±10.1 ms(P60m),152.3±43.5ms(N150m)に顕著な値を示したが,各成分のピーク潜時は条件間で有意な差は認められなかった。
ECDモーメントのN20mの値は12.5±5.7 nAm(条件1),12.9±3.6 nAm(条件2),11.7±4.8 nAm(条件3),12.6±4.8 nAm(条件4)であり,条件間で有意な差は認められなかった。P35mの値は19.2±13.1 nAm(条件1),15.9±9.6 nAm(条件2),16.1±8.3 nAm(条件3),21.3±12.7 nAm(条件4)であり,条件2では条件4に比べて有意に小さい値を示した(P<0.05)。P60mの値は34.2±13.6 nAm(条件1),31.1±10.6 nAm(条件2),36.2±13.4 nAm(条件3),39.6±11.6 nAm(条件4)であり,条件2では条件4に比べて有意に小さい値を示した(P<0.05)。N150mの値は14.6±8.4 nAm(条件1),12.1±5.6 nAm(条件2),11.6±5.2 nAm(条件3),14.6±6.8 nAm(条件1)であり,条件間で有意な差は認められなかった。
【考察】
先行研究と同様,いずれの条件においてもN20m,P35m,P60m,N150mが明確に観察された。また,試験刺激より約5秒前に与えられた運動閾値以下の刺激強度で構成した短時間の条件刺激の有無や条件刺激の種類に影響されずに,各成分のピーク潜時は変動しないことが確認された。一方,皮質活動量を示すECDモーメントはP35mおよびP60mにおいて試験刺激より約500ms前に与えた10Hzの6発刺激によって減弱することが明らかになった。この結果は,4 Hzの3発刺激を与えた際の我々の先行研究の結果と同様であった(第43回日本臨床神経生理学会)。高頻度高強度で神経を刺激することによりシナプス長期増強が認められるため,100Hzの6発刺激の条件ではP35mまたはP60mが増大するのではないかと予測していたが,著明な変化を導くことはできなかった。これは,刺激強度が運動閾値以下であったことと,刺激回数が6発のみであったことなどが影響しているのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は体性感覚刺激による皮質感覚運動領域の可塑的変化誘導法を開発するための一助になると考えられる。