第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動制御・運動学習2

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM 第3会場 (3F 301)

座長:森岡周(畿央大学健康科学部理学療法学科)

基礎 口述

[0100] 高齢者におけるMental Chronometryの時間・空間的一致性と身体能力との関係

竹林秀晃, 滝本幸治, 奥田教宏, 宮本謙三, 宅間豊, 井上佳和, 宮本祥子, 岡部孝生, 小松祐貴 (土佐リハビリテーションカレッジ理学療法学科)

Keywords:高齢者, Mental Chronometry, 時間一致性

【目的】
近年,運動イメージの研究が進み,理学療法における評価・治療に応用することが期待されている。運動イメージの評価方法には,心的時間測定法(Mental Chronometry:MC)や心的回転(Mental Rotation),最大一歩幅などの動作の見積り誤差を用いる方法,VMIQなどの質問紙法を用いる方法,統御可能性テストなどがある。
本研究では,運動イメージにおける時間的一致性を評価できるMCに着目した。MCにおける過去の報告では,Decetyらは,10m歩行時の実際歩行と心的歩行とでは1秒前後の誤差であると報告している。一方,高齢者では,若年者と比較して時間的不一致が報告されている。この時間的不一致は身体の誤認識と解釈でき,転倒との関連性も報告されている。MCは,加齢により低下することは報告されているが,身体運動の空間的要素や身体能力との関連に着目したものは少ない。そこで今回,10m歩行動作のMCにおける加齢による特性と高齢者にけるMCと身体能力との関係性を探ることを本研究の目的とした。
【方法】
対象は,20歳代の若年成人50名(若年者群:男性32名,女性18名,22.4±2.3歳)と自立した生活をしている地域在住高齢者104名(高齢者群:男性11名。女性93名,76.5±6.9歳)とした。
運動課題は,10m平地自由歩行とした。MCの計測は,椅坐位開眼で10m先にあるカラーコーンまで歩行するイメージ課題をストップウォッチにて対象者本人が計測した(心的歩行)。その際に,歩数の計測も求め,空間的要素の評価も追加した。実際の歩行時間は,ストップウォッチを用いて実際に10m自由歩行遂行時間と歩数を検査者が計測した(実際歩行)。
また,高齢者に対しては,運動機能評価として膝関節伸展筋力,開眼片足立位時間,Timed & Up Go Test,Ten Step Test(TST:敏捷性検査),10m努力歩行を計測した。
若年者と高齢者の心的歩行と実際歩行の時間と歩数の絶対誤差は,unpaired t test用いて検討した。MCの特性を見出すため若年者・高齢者の心的歩行と実際歩行の時間と歩数の相対誤差をχ2検定を用いて検討した。また,心的歩行と実際歩行の時間差・歩数と各運動機能評価との関係性は,重回帰分析を用いて検討した。
【説明と同意】
実験プロトコルは,非侵襲的であり,施設内倫理委員会の承認を得た。対象者には,研究の趣旨を説明し,紙面上で同意を得た。
【結果】
心的時間と実際時間の絶対誤差は,若年者(1.5±2.4秒),高齢者が(3.4±3.7秒)で,心的歩数と実際歩数の差では若年者(1.4±1.2歩),高齢者(5.4±4.5歩)であり,有意に高齢者で高値を示した(p<0.001)。
また,若年者・高齢者における心的歩行と実際歩行の時間差・歩数差の相対誤差は,若年者・高齢者共に心的時間が延長する者が多かったが(p<0.05),若年者・高齢者における違いは認められなかった。歩数差は,若年者では一致する者が多く,高齢者では実際歩行で歩数が多い者が有意に多かった(p<0.05)。重回帰分析の結果は,時間差とTSTと10m努力歩行で有意な相関が認められた(r=0.39,0.49,p<0.01)。
【考察】
本研究の結果から若年者より高齢者の方が,時間不一致性と歩数差が大きく,加齢により運動イメージ想起能力が低下していることが示唆された。また,高齢者では半数以上の者が,心的時間の方が延長し,実際歩数が多くなっている事から,イメージした歩数よりも多く,歩幅がイメージよりも短い事を示している。これは,加齢に伴い身体図式や身体機能が衰えた事が,原因だと考えられる。
一方,反対に心的時間よりも速く,歩数も少ない事は身体能力が高い事が考えられるが,結局はイメージと実際歩行との誤差を示しており,自己身体の誤認識と解釈でき,身体を上手く制御出来ていない事を示唆している。
また,心的時間と実際時間の絶対誤差とTSTと10m努力歩行において有意な相関関係が認められた。筋力やバランス要素には相関関係はないことからMCには,複合的かつ努力性の高い側面が要求される動作能力が反映される可能性がある。
しかし,MCによる時間一致性だけでは,空間的・系列的要素を反映していないため正しい運動イメージが出来ているとは判断し難い。そのためいくつかの運動イメージ評価方法を組合わせたり,継続的な評価が必要であると考えている。
【理学療法学研究としての意義】
時間不一致性だけでなく,心的歩行と比較して実際歩行における歩数の減少(歩幅の減少)という空間的要素も確認した。また,MCにおける時間不一致性と努力性の高い動作との関連が高いことは,身体制御の要素をより反映していることを示唆している。これらのことは,高齢者への身体トレーニングに加え,運動イメージを組み合わせた身体評価・トレーニングの重要性を示す根拠になる。