[0101] 定常負荷での自転車エルゴメータ駆動中の頭部酸素化ヘモグロビン濃度の変化
Keywords:定常負荷, 近赤外線分光法, 脳血流動態
【はじめに】脳組織はそのエネルギー供給を血流に依存しており,運動療法中の脳血流動態を明らかにすることは,安全な理学療法の実施に重要である。最近では,運動中の脳血流は一定ではなく,運動強度により変化するとも報告されている(Sato et al, 2011)。脳血流を測定する機器の中で,近赤外線分光法(NIRS)は粗大運動中に最適とされ,歩行や下肢ペダリング運動中の大脳皮質血流変化を測定した報告は多い。一方で,頭皮血流(SBF)や血圧変動の影響を多く受けているとの報告(Takahashi et al, 2011;Minati et al, 2011)もあり,特に運動中の測定においては注意を払う必要があるものの,検証は十分ではない。SBFと血圧の変化を同時に測定した上で脳血流の変化を示すことは,NIRSによって運動中の神経活動に伴う皮質血流変化を捉える上で有用な情報をもたらす。よって本研究の目的は,定常負荷運動を実施している時の頭部酸素化ヘモグロビン濃度(O2Hb)とSBFおよび平均血圧(MAP)の変化を比較することにより,運動中の神経活動に由来する皮質血流変化を描出するための基礎的な知見を得ることである。
【方法】健常成人5名(男性3名,女性2名)を対象とし,自転車エルゴメータ(75XL-II,コンビ)による中強度下肢ペダリング運動を課題とした。安静4分,ウォームアップ4分の後,最高酸素摂取量の50%の負荷量で,20分間の運動を実施した。運動後には8分間の安静を設けた。この間のO2Hbは,脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用し,国際10-20法によるCzを基準として30mm間隔で送光プローブと受光プローブを配置し,34チャネルで測定の後,全チャネルの平均値を算出した。同時に,運動中のSBFをレーザードップラー血流計(オメガフローFLO-CI,オメガウェーブ)により,心拍1拍毎のMAPを連続血圧・血行動態測定装置(Finometer,Finapress Medical Systems)により計測した。計測値はすべて,安静時平均値に対する変化量を算出した後,10秒ごとの平均値を求め,経時変化を観察した。また運動中の20分を前半10分と後半10分とに分け,ピアソンの相関係数によりO2HbとSBFおよびMAPとの相関関係の強さを求めた。統計学的有意水準は,危険率5%とした。
【説明と同意】本研究は,我々の所属する機関の倫理委員会の承認を得て行った。また対象者には,本研究の目的や方法等について十分な説明を行い,書面にて参加の同意を得た。
【結果】O2Hbは,中強度での定常負荷運動時には徐々に上昇し,開始後8分でピーク0.076±0.018 mM・cmを示した。その後若干低下した後,運動開始後12分以降は0.069 mM・cm前後で一定した。SBFは,定常運動開始後5分以降より上昇し続け,運動終了直前には9.66±2.02 a.u.であった。運動開始後10分以降の上昇は,それ以前に比べ緩やかであった。運動終了後は緩やかに低下した。MAPは運動開始後4分でピーク23.2±3.9 mmHgを示した後,運動終了まで緩やかに低下し,運動終了直前では8.9±4.0 mmHgであった。運動終了直後には-14.4±4.4mmHgまで低下した後に上昇し,-5.0mmHgを維持した。運動中のO2Hbとの相関係数は,前半10分でSBF r=0.846(p<0.01),MAP r=0.421(p<0.01),後半10分でSBF r=-0.257(p<0.05),MAP r=0.376(p<0.01)であった。
【考察】NIRSは神経活動に伴う血流変化を測定しているとされるが,体表から照射した近赤外光の光路内には皮膚や皮下組織,脳脊髄液なども存在しており,課題に伴うそれらの血流変動が影響を与えている可能性が指摘されている。本研究の結果,各指標のピーク時間は異なっているものの,O2HbとSBFあるいはMAPとの間に相関関係を認めた。20分間の定常負荷運動課題においては,O2Hbに及ぼすSBFあるいはMAPの影響の強さは一様ではなく,運動開始直後はSBFの影響を受けやすいことが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】運動療法中の脳循環変動の解明は,リスク管理において重要な課題である。中強度の定常負荷運動中のO2HbとSBFおよびMAPとの相関関係の強さが明らかになったことで,運動中の脳循環変動を解明する糸口となる基礎的な知見を得ることができた。この点で,理学療法学研究としての意義を持つものと言える。
【方法】健常成人5名(男性3名,女性2名)を対象とし,自転車エルゴメータ(75XL-II,コンビ)による中強度下肢ペダリング運動を課題とした。安静4分,ウォームアップ4分の後,最高酸素摂取量の50%の負荷量で,20分間の運動を実施した。運動後には8分間の安静を設けた。この間のO2Hbは,脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用し,国際10-20法によるCzを基準として30mm間隔で送光プローブと受光プローブを配置し,34チャネルで測定の後,全チャネルの平均値を算出した。同時に,運動中のSBFをレーザードップラー血流計(オメガフローFLO-CI,オメガウェーブ)により,心拍1拍毎のMAPを連続血圧・血行動態測定装置(Finometer,Finapress Medical Systems)により計測した。計測値はすべて,安静時平均値に対する変化量を算出した後,10秒ごとの平均値を求め,経時変化を観察した。また運動中の20分を前半10分と後半10分とに分け,ピアソンの相関係数によりO2HbとSBFおよびMAPとの相関関係の強さを求めた。統計学的有意水準は,危険率5%とした。
【説明と同意】本研究は,我々の所属する機関の倫理委員会の承認を得て行った。また対象者には,本研究の目的や方法等について十分な説明を行い,書面にて参加の同意を得た。
【結果】O2Hbは,中強度での定常負荷運動時には徐々に上昇し,開始後8分でピーク0.076±0.018 mM・cmを示した。その後若干低下した後,運動開始後12分以降は0.069 mM・cm前後で一定した。SBFは,定常運動開始後5分以降より上昇し続け,運動終了直前には9.66±2.02 a.u.であった。運動開始後10分以降の上昇は,それ以前に比べ緩やかであった。運動終了後は緩やかに低下した。MAPは運動開始後4分でピーク23.2±3.9 mmHgを示した後,運動終了まで緩やかに低下し,運動終了直前では8.9±4.0 mmHgであった。運動終了直後には-14.4±4.4mmHgまで低下した後に上昇し,-5.0mmHgを維持した。運動中のO2Hbとの相関係数は,前半10分でSBF r=0.846(p<0.01),MAP r=0.421(p<0.01),後半10分でSBF r=-0.257(p<0.05),MAP r=0.376(p<0.01)であった。
【考察】NIRSは神経活動に伴う血流変化を測定しているとされるが,体表から照射した近赤外光の光路内には皮膚や皮下組織,脳脊髄液なども存在しており,課題に伴うそれらの血流変動が影響を与えている可能性が指摘されている。本研究の結果,各指標のピーク時間は異なっているものの,O2HbとSBFあるいはMAPとの間に相関関係を認めた。20分間の定常負荷運動課題においては,O2Hbに及ぼすSBFあるいはMAPの影響の強さは一様ではなく,運動開始直後はSBFの影響を受けやすいことが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】運動療法中の脳循環変動の解明は,リスク管理において重要な課題である。中強度の定常負荷運動中のO2HbとSBFおよびMAPとの相関関係の強さが明らかになったことで,運動中の脳循環変動を解明する糸口となる基礎的な知見を得ることができた。この点で,理学療法学研究としての意義を持つものと言える。