[0105] マウスの内側腓腹筋とヒラメ筋の持久力運動後の部位による変化の違い
キーワード:持久力運動, 筋線維Type構成, 肥大部位
【はじめに,目的】
軽~中等度の負荷量で一定時間以上の運動を行う持久力運動は,代謝障害のリハビリテーションだけでなく,生活習慣病の予防という観点からも推奨される。
哺乳類の筋線維は,その代謝特性により酸化能力の高いType I線維(遅筋),Type IIa(中間型),解糖能力が高いType IIb(速筋)と大きく3つに分類され,筋によって線維Type構成が異なる。また,運動をはじめとする様々な影響により線維径,線維タイプ構成を変化させる可塑性の高い組織で,一般に持久力運動はType I,Type IIa線維比の増加や発達を促す。筋線維断面積(CSA)などを観察している研究の多くは,動物実験では筋腹中央の横断切片,臨床研究では筋生検によって採取した一部の筋組織の横断切片を使っている。部位別で観察した報告は,非荷重や共同筋切除を行ったラットの足底筋について数件あるが,運動による変化については報告がない。
本研究では正常マウスのトレッドミルによる持久力運動後のType構成およびCSAの変化を部位別に検討した。
【方法】
C57BL/KsJマウス(雄,12週齢)を,低負荷(7m/min)を継続する群(CEx)と,週ごとに負荷を増加する群(7→10→12→15m/min,PEx)に分け,コントロール(CON)と比較した。運動群はそれぞれの負荷で,1日45分,週5日,4週間のトレッドミル走行を行った。
試料は,解剖学的な特徴や位置関係を得るため足底筋,腓腹筋,ヒラメ筋の複合体を採取し,300μm間隔の複合連続切片(6μm)を作成した。複合筋の起始部から腱移行部までをA,B,C,D,Eの5部位に分け,HE染色標本から,脛骨神経の走行を指標にそれぞれの断面の特徴と位置関係を確認した。次に,筋細胞膜タンパクマーカーであるLaminin抗体と,Type IのマーカーであるMHCs抗体を使って蛍光二重免疫染色を行い,内側腓腹筋,ヒラメ筋の全筋線維数,Type I,Type II別のCSA,全線維数に対するType I線維数の割合(Type I比)を部位別に算出した。画像処理および解析にはBIOREVO BZ-9000 microscope(KEYENCE),Image J software(NIH)を用いた。統計処理は,ANOVA検定後のpost hoc多重比較はTukey-kramer法を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,和歌山県立医科大学動物実験委員会の承認を得,動物実験等の実施に関する規程に則って実施した。
【結果】
内側腓腹筋はB,C,Dを,ヒラメ筋は筋組織が観察できるD,Eを選択してデータを算出した。CONの解剖学的断面の最大部(最大筋腹)は,内側腓腹筋はC,ヒラメ筋はEであった。内側腓腹筋では,総筋線維数は,B(2358.0±145.0,Mean±SE),C(3737.5±162.0),D(4009.8±225.0)であり,Bに比べC,Dで高値を示した。Type I比は,B(4.4%),C(2.6%),D(0.5%)であった。ヒラメ筋総線維数は,D(430.0±64.0)に比べE(876.3±50.0)で有意に高値を示し,Type I比はD(38.5%),E(36.3%)であった。
総筋線維数は,CONと比較して両運動群,両筋,全域で差はなかった。CExのCSAの変化は,内側腓腹筋表層はC,D,内側腓腹筋深層はB,Dで,ヒラメ筋では両TypeともDでCSA値,増加率ともに高値を示した。内側腓腹筋,ヒラメ筋ともにType I比に差はなかった。PExのCSAの変化は,内側腓腹筋表層はD,内側腓腹筋深層はBで,ヒラメ筋Type IIはD,Eで,ヒラメ筋Type IはEでCSA値,増加率ともに高値を示した。Type I比は,内側腓腹筋のDでのみ有意な増加を示した。CEx,PExの両群ともに,内側腓腹筋の最大筋腹はDであった。
【考察】
今回の2種類の持久力運動による変化は,総線維数でなく,線維肥大(両Type)とタイプ移行による変化であること,運動の種類により変化する部位や変化度に差があること,そして最大筋腹の位置も変化することが判明した。
今回Type IIaの区分はしていないものの,内側腓腹筋深層のType II,ヒラメ筋Type IIのCSAの変化は,その分布を支持する結果であり,特に内側腓腹筋では中央よりも,近位,遠位で変化が大きかったことは興味深い結果であると同時に,周辺部の線維の予備能力の存在を示すものと考える。また,Type IIbと推察される内側腓腹筋表層のCSAの変化がDのみに大きかったことは,可動性が大きい停止部側の機械的要因が関与している可能性も考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
運動による筋機能の変化についての臨床研究,動物実験の両者に重要な解剖学的知見である。
軽~中等度の負荷量で一定時間以上の運動を行う持久力運動は,代謝障害のリハビリテーションだけでなく,生活習慣病の予防という観点からも推奨される。
哺乳類の筋線維は,その代謝特性により酸化能力の高いType I線維(遅筋),Type IIa(中間型),解糖能力が高いType IIb(速筋)と大きく3つに分類され,筋によって線維Type構成が異なる。また,運動をはじめとする様々な影響により線維径,線維タイプ構成を変化させる可塑性の高い組織で,一般に持久力運動はType I,Type IIa線維比の増加や発達を促す。筋線維断面積(CSA)などを観察している研究の多くは,動物実験では筋腹中央の横断切片,臨床研究では筋生検によって採取した一部の筋組織の横断切片を使っている。部位別で観察した報告は,非荷重や共同筋切除を行ったラットの足底筋について数件あるが,運動による変化については報告がない。
本研究では正常マウスのトレッドミルによる持久力運動後のType構成およびCSAの変化を部位別に検討した。
【方法】
C57BL/KsJマウス(雄,12週齢)を,低負荷(7m/min)を継続する群(CEx)と,週ごとに負荷を増加する群(7→10→12→15m/min,PEx)に分け,コントロール(CON)と比較した。運動群はそれぞれの負荷で,1日45分,週5日,4週間のトレッドミル走行を行った。
試料は,解剖学的な特徴や位置関係を得るため足底筋,腓腹筋,ヒラメ筋の複合体を採取し,300μm間隔の複合連続切片(6μm)を作成した。複合筋の起始部から腱移行部までをA,B,C,D,Eの5部位に分け,HE染色標本から,脛骨神経の走行を指標にそれぞれの断面の特徴と位置関係を確認した。次に,筋細胞膜タンパクマーカーであるLaminin抗体と,Type IのマーカーであるMHCs抗体を使って蛍光二重免疫染色を行い,内側腓腹筋,ヒラメ筋の全筋線維数,Type I,Type II別のCSA,全線維数に対するType I線維数の割合(Type I比)を部位別に算出した。画像処理および解析にはBIOREVO BZ-9000 microscope(KEYENCE),Image J software(NIH)を用いた。統計処理は,ANOVA検定後のpost hoc多重比較はTukey-kramer法を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,和歌山県立医科大学動物実験委員会の承認を得,動物実験等の実施に関する規程に則って実施した。
【結果】
内側腓腹筋はB,C,Dを,ヒラメ筋は筋組織が観察できるD,Eを選択してデータを算出した。CONの解剖学的断面の最大部(最大筋腹)は,内側腓腹筋はC,ヒラメ筋はEであった。内側腓腹筋では,総筋線維数は,B(2358.0±145.0,Mean±SE),C(3737.5±162.0),D(4009.8±225.0)であり,Bに比べC,Dで高値を示した。Type I比は,B(4.4%),C(2.6%),D(0.5%)であった。ヒラメ筋総線維数は,D(430.0±64.0)に比べE(876.3±50.0)で有意に高値を示し,Type I比はD(38.5%),E(36.3%)であった。
総筋線維数は,CONと比較して両運動群,両筋,全域で差はなかった。CExのCSAの変化は,内側腓腹筋表層はC,D,内側腓腹筋深層はB,Dで,ヒラメ筋では両TypeともDでCSA値,増加率ともに高値を示した。内側腓腹筋,ヒラメ筋ともにType I比に差はなかった。PExのCSAの変化は,内側腓腹筋表層はD,内側腓腹筋深層はBで,ヒラメ筋Type IIはD,Eで,ヒラメ筋Type IはEでCSA値,増加率ともに高値を示した。Type I比は,内側腓腹筋のDでのみ有意な増加を示した。CEx,PExの両群ともに,内側腓腹筋の最大筋腹はDであった。
【考察】
今回の2種類の持久力運動による変化は,総線維数でなく,線維肥大(両Type)とタイプ移行による変化であること,運動の種類により変化する部位や変化度に差があること,そして最大筋腹の位置も変化することが判明した。
今回Type IIaの区分はしていないものの,内側腓腹筋深層のType II,ヒラメ筋Type IIのCSAの変化は,その分布を支持する結果であり,特に内側腓腹筋では中央よりも,近位,遠位で変化が大きかったことは興味深い結果であると同時に,周辺部の線維の予備能力の存在を示すものと考える。また,Type IIbと推察される内側腓腹筋表層のCSAの変化がDのみに大きかったことは,可動性が大きい停止部側の機械的要因が関与している可能性も考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
運動による筋機能の変化についての臨床研究,動物実験の両者に重要な解剖学的知見である。