[0137] 脳卒中片麻痺下肢への全身振動刺激(Whole Body Vibration)による持続的痙縮抑制効果:誘発電位F波を用いた検討
Keywords:Whole Body Vibration, 痙縮, 誘発電位F波
【はじめに,目的】
痙縮の治療法として,脳卒中ガイドライン2009では,ストレッチや電気刺激療法などがグレードBで推奨されているが,科学的根拠は不十分なものも多く,更なるエビデンスの蓄積が必要である。我々は,全身振動刺激(Whole Body Vibration:WBV)を用いた脳卒中片麻痺下肢への新たな痙縮抑制法を考案し,第48回の本学会において,即時効果としてWBVが痙縮を抑制し,運動機能や他動関節可動域,歩行速度の改善が得られること,更に誘発電位F波の測定結果から痙縮抑制メカニズムとして脊髄前角細胞の興奮性低下の関与が示唆されることを報告した。本研究では更に,WBVによる痙縮抑制効果を持続性の点から検討した。
【方法】
対象は,当院入院中の脳卒中片麻痺患者7名で,下肢Brunnstrom Recovery Stageが3以上かつ,痙縮の程度が下腿三頭筋のModified Ashworth Scale(以下,MAS)が1以上,屋内歩行監視レベル以上のものである。なお,医学的管理上問題があるもの,重度な高次脳機能障害や認知症,心肺疾患,骨関節疾患,感覚障害を有するものは除外した。研究デザインは介入前後比較試験を用い,WBV前,直後,20分後までの評価を行った。被験者の肢位は椅子上で長座位とし,股関節を屈曲位,内外旋中間位,膝関節伸展位にした。刺激中は痛みが出現しない範囲で膝関節伸展位,足関節背屈位の最大角度に保持し,麻痺側下腿全体及び大腿部1/2以上にPowerplate®(Performance Health Systems社製)の台上が接する形で,下腿三頭筋とハムストリングスを中心に振動刺激を行った。刺激条件は,周波数30Hz,振幅4-8mm,5分間とした。評価項目は,下肢機能は痙縮と運動機能,他動関節可動域を測定した。痙縮の評価はMAS(股関節内転筋群とハムストリングス,下腿三頭筋)と誘発電位F波を用いた電気生理学的検討を行った。運動機能は足関節自動背屈角度を,他動関節可動域は足関節他動背屈角度とStraight Leg Raising test(以下,SLR検査)を測定した。歩行評価は短下肢装具とT字杖使用下での10m歩行で行い,歩行速度とケイデンスを算出した。F波の記録は,脛骨神経を膝窩部にて最大上刺激で刺激頻度1Hzにて行い,腓腹筋で20回記録した。F波の指標としてはF波振幅とF/M比を用い,効果持続時間をWBV20分後まで検討した。MASの値は統計学的解析のために,グレード0,1,1+,2,3,4を各々,0,1,2,3,4,5として処理した。統計学的解析は,PASW Statistics 18を用いてWilcoxonの符号順位和検定を行い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,臨床研究倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者に研究の趣旨を説明し,文書による同意を得て実施した。
【結果】
MASは股関節内転筋群(前:1.7±1.0,後:1.0±1.2,20分後:1.1±0.9)とハムストリング(前:0.9±0.7,後:0.1±0.4,20分後:0.6±0.8),下腿三頭筋(前:2.3±0.8,後:1.6±0.8,20分後:1.6±1.0)において低下傾向を示した。F波は,F波振幅とF/M比ともに20分後まで有意に低下した。運動機能は,3名に足関節自動背屈運動の改善がみられ,足関節他動背屈角度(前:11.4±3.8,後:15.7±4.5,20分後:14.3±3.5度)が改善傾向で,SLR検査(前:70.0±10.0,後:77.9±9.9,20分後:77.9±11.1度)が有意に改善した。歩行は歩行速度(前:30.3±17.6,後:31.5±17.4,20分後:31.9±15.3m/min)とケイデンス(前:87.7±24.3,後:86.3±22.4,20分後:87.5±22.1steps/min)に有意差は認められなかった。
【考察】
WBVによる痙縮抑制効果に関しては,即時的には一定の効果が得られるものの,長期効果に関する見解は異なる等,エビデンスとしては不十分である。本研究結果から,WBV後20分まで痙縮抑制効果が認められ,脊髄前角細胞の興奮性低下の関与が示唆されたことは,臨床応用上,有用な治療法となる可能性がある。今後は,症例数を蓄積し,対照群を設けた研究デザインでの検討や,詳細なメカニズムの解明および長期的な効果を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺下肢へのWBVによって,短時間で効率よく痙縮を抑制することが実証されれば,効果的かつ効率的な脳卒中リハビリテーション医療の実現に寄与する。
痙縮の治療法として,脳卒中ガイドライン2009では,ストレッチや電気刺激療法などがグレードBで推奨されているが,科学的根拠は不十分なものも多く,更なるエビデンスの蓄積が必要である。我々は,全身振動刺激(Whole Body Vibration:WBV)を用いた脳卒中片麻痺下肢への新たな痙縮抑制法を考案し,第48回の本学会において,即時効果としてWBVが痙縮を抑制し,運動機能や他動関節可動域,歩行速度の改善が得られること,更に誘発電位F波の測定結果から痙縮抑制メカニズムとして脊髄前角細胞の興奮性低下の関与が示唆されることを報告した。本研究では更に,WBVによる痙縮抑制効果を持続性の点から検討した。
【方法】
対象は,当院入院中の脳卒中片麻痺患者7名で,下肢Brunnstrom Recovery Stageが3以上かつ,痙縮の程度が下腿三頭筋のModified Ashworth Scale(以下,MAS)が1以上,屋内歩行監視レベル以上のものである。なお,医学的管理上問題があるもの,重度な高次脳機能障害や認知症,心肺疾患,骨関節疾患,感覚障害を有するものは除外した。研究デザインは介入前後比較試験を用い,WBV前,直後,20分後までの評価を行った。被験者の肢位は椅子上で長座位とし,股関節を屈曲位,内外旋中間位,膝関節伸展位にした。刺激中は痛みが出現しない範囲で膝関節伸展位,足関節背屈位の最大角度に保持し,麻痺側下腿全体及び大腿部1/2以上にPowerplate®(Performance Health Systems社製)の台上が接する形で,下腿三頭筋とハムストリングスを中心に振動刺激を行った。刺激条件は,周波数30Hz,振幅4-8mm,5分間とした。評価項目は,下肢機能は痙縮と運動機能,他動関節可動域を測定した。痙縮の評価はMAS(股関節内転筋群とハムストリングス,下腿三頭筋)と誘発電位F波を用いた電気生理学的検討を行った。運動機能は足関節自動背屈角度を,他動関節可動域は足関節他動背屈角度とStraight Leg Raising test(以下,SLR検査)を測定した。歩行評価は短下肢装具とT字杖使用下での10m歩行で行い,歩行速度とケイデンスを算出した。F波の記録は,脛骨神経を膝窩部にて最大上刺激で刺激頻度1Hzにて行い,腓腹筋で20回記録した。F波の指標としてはF波振幅とF/M比を用い,効果持続時間をWBV20分後まで検討した。MASの値は統計学的解析のために,グレード0,1,1+,2,3,4を各々,0,1,2,3,4,5として処理した。統計学的解析は,PASW Statistics 18を用いてWilcoxonの符号順位和検定を行い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,臨床研究倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者に研究の趣旨を説明し,文書による同意を得て実施した。
【結果】
MASは股関節内転筋群(前:1.7±1.0,後:1.0±1.2,20分後:1.1±0.9)とハムストリング(前:0.9±0.7,後:0.1±0.4,20分後:0.6±0.8),下腿三頭筋(前:2.3±0.8,後:1.6±0.8,20分後:1.6±1.0)において低下傾向を示した。F波は,F波振幅とF/M比ともに20分後まで有意に低下した。運動機能は,3名に足関節自動背屈運動の改善がみられ,足関節他動背屈角度(前:11.4±3.8,後:15.7±4.5,20分後:14.3±3.5度)が改善傾向で,SLR検査(前:70.0±10.0,後:77.9±9.9,20分後:77.9±11.1度)が有意に改善した。歩行は歩行速度(前:30.3±17.6,後:31.5±17.4,20分後:31.9±15.3m/min)とケイデンス(前:87.7±24.3,後:86.3±22.4,20分後:87.5±22.1steps/min)に有意差は認められなかった。
【考察】
WBVによる痙縮抑制効果に関しては,即時的には一定の効果が得られるものの,長期効果に関する見解は異なる等,エビデンスとしては不十分である。本研究結果から,WBV後20分まで痙縮抑制効果が認められ,脊髄前角細胞の興奮性低下の関与が示唆されたことは,臨床応用上,有用な治療法となる可能性がある。今後は,症例数を蓄積し,対照群を設けた研究デザインでの検討や,詳細なメカニズムの解明および長期的な効果を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺下肢へのWBVによって,短時間で効率よく痙縮を抑制することが実証されれば,効果的かつ効率的な脳卒中リハビリテーション医療の実現に寄与する。