第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節3

2014年5月30日(金) 11:45 〜 12:35 ポスター会場 (運動器)

座長:久保秀一(京都府立医科大学附属病院リハビリテーション部)

運動器 ポスター

[0176] Drawingが肩関節外転運動の筋活動潜時に及ぼす影響

栗原豊明1, 菅原和広2, 徳永由太3, 伊賀敏朗4, 山本康行4 (1.中条中央病院リハビリテーション科, 2.新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所, 3.新潟リハビリテーション病院リハビリテーション部, 4.中条中央病院整形外科)

キーワード:表面筋電図, Drawing, 外腹斜筋

【はじめに】
肩関節外転時に,外転30°まで肩甲骨の運動が少ないsetting phaseが生じる(Inman. 1944)。setting phaseは肩甲骨周囲筋の僧帽筋や前鋸筋の活動で肩甲骨は胸郭に固定され,肩甲上腕関節での運動が主となる(Baggs.1986,1988)。肩関節の運動に関する先行研究では,肩関節屈曲時に前鋸筋は外腹斜筋と活動すること(三浦。2012),肩関節拳上時で体幹の安定性が重要となり,その安定性には腹横筋が関与すると報告されている(Hodges.1997)。また腹横筋中部線維は上肢の素早い屈曲に先行して活動し,腹圧調節や予測的姿勢制御に重要な役割を担っている(Urquhart DM. 2005)。これまで森らは腹横筋中部線維のトレーニングとしてDrawingが有効であることを示唆し,また我々はDrawing後に腹横筋の活動が向上するに伴い,外腹斜筋の活動が低下し前鋸筋の筋活動量が低下することを報告した(第49回日本理学療法学術大会)。以上から肩関節複合体の運動は肩甲骨と体幹安定性が肩甲上腕関節の運動に深く関係していると考えられる。そこで本研究の目的は体幹のトレーニングとしてDrawingを実施し,肩関節外転時の筋活動発現潜時に与える影響を調査した。
【方法】
右利き健常成人男性7名(22.6±2.8歳)を対象とし。使用機器は表面筋電計と計測ソフトウェアを用い,左肩関節外転時の筋電図測定と解析を行った。測定肢位は端座位で,骨盤中間位。両上肢は下垂した状態で,運動範囲は外転90°までとした。運動条件は,光刺激提示後(SRT),とDrawing施行後における光刺激提示後(AD)にそれぞれ肩関節外転を行った。被験者に肩関節外転運動を最大努力で可能な限り素早く行うよう指示。測定筋は左僧帽筋上・中・下部線維,左前鋸筋下部線維,左外腹斜筋,左三角筋中部線維。貼付した電極間距離は2cmで,アース電極は左肩峰。Drawing方法は先行研究(森。2011)を参考にし,課題中は自然な呼吸を行うよう指示した。またDrawingは10secを2セット,セット間の休息は5secとした。上前腸骨棘から2cm内側,また腹直筋外側で触診し腹横筋の収縮を確認。被験者は上記の2条件をランダムで行い,AD後にSRTが控えている場合は運動学習とDrawingの影響を排除するため30分間以上の安静後にSRTで実験を行った。筋活動計測時のsampling周波数は1000Hzとし,得られた筋電図波形に全波整流を施した。各筋線維の筋活動発現潜時は,三角筋中部線維の筋活動発現時間を0msとし,三角筋中部発現潜時は光センサー発光を0msとし,三角筋中部線維の筋活動発現地点までを筋電図発現潜時とした。その他の筋は三角筋中部線維の筋電図発現潜時との差とした。筋活動発現地点は安静時の平均筋活動量から標準偏差の2倍を超えた地点として算出。
【説明と同意】
実験前に各被験者に実験内容を十分説明,書面で同意を得た。
【結果】
SRTでは筋活動発現潜時が僧帽筋中部で0.0182±0.0173ms(平均値±標準偏差),僧帽筋下部で0.028±0.016ms,外腹斜筋で0.069±0.046msであったが,ADでは筋活動発現潜時が僧帽筋中部で0.009±0.011ms,僧帽筋下部でも0.017±0.017msとそれぞれ有意に短縮した(p<0.001)。しかし外腹斜筋は0.08±0.059msと有意な延長を示した。一方,三角筋中部,僧帽筋上部,前鋸筋ではSRTとAD間に有意な差はなかった。
【考察】
Drawingは腹横筋のエクササイズの一つである(Teyhen DS. 2009)。本実験はDrawing前後に光刺激を運動開始の合図とした肩関節外転を行ったところ,外腹斜筋の筋活動発現潜時がADで有意に延長した。太田らは,外乱刺激のタイミングの予測が不可能である場合は体幹のInter muscleの筋活動量が減少すると報告した。一方,先行研究では,Drawingで体幹の深層筋群の活性化と体幹の安定性が向上し,Drawing後で外腹斜筋の筋活動量が減少したと報告している(三浦。2013)。先行研究と本研究結果から,Drawingによって体幹の深層筋群の活性化が図れ,ADでの外腹斜筋の筋活動発現潜時が延長したと考えられる。僧帽筋中・下部では筋活動発現潜時が有意に短縮した。腹横筋は上肢の運動に先行して働くことで姿勢制御に関わり,腹横筋の活動は体幹の安定性に寄与すると報告されている(Urquhart. 2005)。そのため,肩関節外転で生じる外乱刺激に対し,ADでは腹横筋の予測的姿勢制御としての筋活動が上昇し体幹の安定性が早期より獲得され,肩関節外転時の僧帽筋中部・下部の筋活動発現潜時が短縮した可能性が考えらえた。
【理学療法学研究としての意義】
腹横筋のトレーニングとして,Drawingは体幹安定性を向上させ,体幹及び肩甲骨周囲の筋活動発現潜時に変化があった。その中でも肩関節外転時のDrawingの即時効果は僧帽筋中・下部の筋活動発現潜時短縮し,外腹斜筋の筋活動発現潜時は延長することが示唆された。