[0191] 脳卒中後回復期における感情の状態と身体機能,日常生活機能,Quality of Lifeの関係
Keywords:脳卒中後うつ, QOL, 気分
【目的】CES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)は抑うつ状態を評価でき,ポジティブ項目とネガティブ項目に分けることができる。CES-Dによって評価される感情の状態は脳卒中の発症(Ostir,2001),ADLや抑うつ(Ostir,2008),社会的サポート(Ciro,2012),急性イベントからの回復(Ostir,2002,2008)などと関連し,運動療法は脳卒中後の抑うつ症状を軽減する可能性が示唆(Lai,2006)されている。また,ベースラインの抑うつ状態とQOLは3か月後の日常生活自立度の指標であるmRS(modified Rankin Scale)と関連する。これらのことは感情状態の評価の必要性を示唆している。本研究の目的は脳卒中発症後回復期の感情の状態と身体機能,日常生活機能,QOLとの関連を検討することである。
【方法】対象は2013年6月以降に脳卒中により当院回復期病棟に入院した,同意のもとCES-Dの聴取が可能であった連続症例23名(内訳:男性20名,女性3名,年齢69.9±13.8歳,発症からの期間27.6±19.5日,右半球病巣6名,左半球病巣6名,両側3名,脳幹6名,小脳2名,MMSE25.9±4.6点)であった。感情状態の評価としてCES-Dを,身体機能の評価としてFBS,10m歩行,TUG,膝伸展筋力,下肢BS(Brunnstrom Stage),上肢FMA(Fugl-Meyer Assessment),ABMS(Ability for Basic Movement Scale)を,日常生活の評価としてBI,mRSを,QOLの評価としてSS-QOL(Stroke Specific Quality of Life)をその他にVitality Indexや自尊感情尺度などを調査した。統計学的解析はCES-Dのポジティブ項目,ネガティブ項目および各調査測定項目との関連を相関係数にて検討し,身体機能,ADL,QOLのいずれが感情状態に影響を及ぼすのか回帰分析(ステップワイズ法)にて検討した。また,年齢を制御変数とした偏相関,罹患半球の比較も行った。SPSS version 17.0を用い5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮】本研究は,当院リハビリテーション科における標準的評価のデータベースからの解析であり,全て匿名化された既存データのみで検討を行った。
【結果】CES-Dの合計点はCES-Dのネガティブ項目,SS-QOL(下位項目では気分と視覚),自尊感情尺度と,CES-Dのポジティブ項目は自尊感情尺度と,CES-Dのネガティブ項目はABMS,BI,SS-QOL(下位項目は活動性,気分,パーソナリティ,セルフケア)と相関を認めた。以下は,より多くの変数との相関を認めたCES-Dのネガティブ項目についての更なる分析を示す。CES-Dのネガティブ項目と相関を認めた項目による回帰分析の結果,SS-QOLが抽出され(調整済みR2=0.401),ABMSとBIが除外された。また,CES-Dのネガティブ項目と相関を認めたSS-QOL下位項目による回帰分析ではパーソナリティと気分が抽出され(調整済みR2=0.558),活動性とセルフケアが除外された。また,年齢はSS-QOL,およびその下位項目である活気,社会的役割と負の相関を示した。年齢を制御変数とした偏相関の結果,CES-Dのネガティブ項目はSS-QOLと引き続き相関を認めるものの,ABMSおよびBIとの相関関係が認められなくなった。罹患半球の比較において,いかなる変数も有意差を認めなかった。
【考察】脳卒中発症後回復期のポジティブおよびネガティブを含めた全体的な感情の状態はQOLおよび自尊感情と関連し,ネガティブな感情の状態は身体機能,ADL,およびQOLと関連した。Ostirらの報告はポジティブな感情との関連であるが,これはOstirらの検討時期がフォローアップ時(発症3か月後など)であることによる可能性が考えられる。ネガティブな感情状態は身体機能やADLよりもQOLに強く影響され,QOLの中でもパーソナリティと気分の影響が強いことが示された。また,加齢によって活気,社会的役割,およびQOLが低下することが示唆された。また,年齢を調整することでネガティブな感情状態に対する身体機能の関連は認められなくなるが,QOLは関連を保った。今回の結果をまとめると,加齢によりQOLは低下する傾向にあり,それに加え脳卒中発症時の年齢,パーソナリティや気分などの素因的影響,さらにその時の身体機能やADLが脳卒中発症後回復期のネガティブな感情および気分に複雑に影響を及ぼしあう可能性を示唆する。これらのことは,ガイドラインに従い脳卒中後の感情状態を,発症後早期から十分に評価・治療することの必要性を示唆している。しかし,本研究は少数例であるため,引き続き検討が必要であることが強調されなければならない。
【理学療法学研究としての意義】脳卒中発症後回復期のネガティブな感情は,特にパーソナリティや気分によって強く影響され,QOLに大きな影響を及ぼすが,それは身体機能やADLとも複雑に影響を及ぼしあい形成されることが示唆された。
【方法】対象は2013年6月以降に脳卒中により当院回復期病棟に入院した,同意のもとCES-Dの聴取が可能であった連続症例23名(内訳:男性20名,女性3名,年齢69.9±13.8歳,発症からの期間27.6±19.5日,右半球病巣6名,左半球病巣6名,両側3名,脳幹6名,小脳2名,MMSE25.9±4.6点)であった。感情状態の評価としてCES-Dを,身体機能の評価としてFBS,10m歩行,TUG,膝伸展筋力,下肢BS(Brunnstrom Stage),上肢FMA(Fugl-Meyer Assessment),ABMS(Ability for Basic Movement Scale)を,日常生活の評価としてBI,mRSを,QOLの評価としてSS-QOL(Stroke Specific Quality of Life)をその他にVitality Indexや自尊感情尺度などを調査した。統計学的解析はCES-Dのポジティブ項目,ネガティブ項目および各調査測定項目との関連を相関係数にて検討し,身体機能,ADL,QOLのいずれが感情状態に影響を及ぼすのか回帰分析(ステップワイズ法)にて検討した。また,年齢を制御変数とした偏相関,罹患半球の比較も行った。SPSS version 17.0を用い5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮】本研究は,当院リハビリテーション科における標準的評価のデータベースからの解析であり,全て匿名化された既存データのみで検討を行った。
【結果】CES-Dの合計点はCES-Dのネガティブ項目,SS-QOL(下位項目では気分と視覚),自尊感情尺度と,CES-Dのポジティブ項目は自尊感情尺度と,CES-Dのネガティブ項目はABMS,BI,SS-QOL(下位項目は活動性,気分,パーソナリティ,セルフケア)と相関を認めた。以下は,より多くの変数との相関を認めたCES-Dのネガティブ項目についての更なる分析を示す。CES-Dのネガティブ項目と相関を認めた項目による回帰分析の結果,SS-QOLが抽出され(調整済みR2=0.401),ABMSとBIが除外された。また,CES-Dのネガティブ項目と相関を認めたSS-QOL下位項目による回帰分析ではパーソナリティと気分が抽出され(調整済みR2=0.558),活動性とセルフケアが除外された。また,年齢はSS-QOL,およびその下位項目である活気,社会的役割と負の相関を示した。年齢を制御変数とした偏相関の結果,CES-Dのネガティブ項目はSS-QOLと引き続き相関を認めるものの,ABMSおよびBIとの相関関係が認められなくなった。罹患半球の比較において,いかなる変数も有意差を認めなかった。
【考察】脳卒中発症後回復期のポジティブおよびネガティブを含めた全体的な感情の状態はQOLおよび自尊感情と関連し,ネガティブな感情の状態は身体機能,ADL,およびQOLと関連した。Ostirらの報告はポジティブな感情との関連であるが,これはOstirらの検討時期がフォローアップ時(発症3か月後など)であることによる可能性が考えられる。ネガティブな感情状態は身体機能やADLよりもQOLに強く影響され,QOLの中でもパーソナリティと気分の影響が強いことが示された。また,加齢によって活気,社会的役割,およびQOLが低下することが示唆された。また,年齢を調整することでネガティブな感情状態に対する身体機能の関連は認められなくなるが,QOLは関連を保った。今回の結果をまとめると,加齢によりQOLは低下する傾向にあり,それに加え脳卒中発症時の年齢,パーソナリティや気分などの素因的影響,さらにその時の身体機能やADLが脳卒中発症後回復期のネガティブな感情および気分に複雑に影響を及ぼしあう可能性を示唆する。これらのことは,ガイドラインに従い脳卒中後の感情状態を,発症後早期から十分に評価・治療することの必要性を示唆している。しかし,本研究は少数例であるため,引き続き検討が必要であることが強調されなければならない。
【理学療法学研究としての意義】脳卒中発症後回復期のネガティブな感情は,特にパーソナリティや気分によって強く影響され,QOLに大きな影響を及ぼすが,それは身体機能やADLとも複雑に影響を及ぼしあい形成されることが示唆された。