第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法4

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM ポスター会場 (神経)

座長:大塚功(社会医療法人財団慈泉会相澤病院リハセラピスト部門)

神経 ポスター

[0193] 回復期リハビリテーション病棟退院時と半年後における脳血管障害患者の健康関連QOLの変化およびIADLと生活空間

田中直次郎1, 飛松好子2, 出家正隆3, 岡村仁3 (1.西広島リハビリテーション病院, 2.国立障害者リハビリテーションセンター, 3.広島大学大学院保健学研究科)

Keywords:脳血管障害, 健康関連QOL, 回復期

【はじめに,目的】
回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)は制度開始から10年以上が経過しているが,回復期病棟を退院した脳血管障害患者の健康関連quality of life(HRQOL)を経時的に調査した報告は少ない。今回,回復期病棟退院時と退院半年後のHRQOLの変化を調査したので報告する。
【方法】
対象は2011年4月から2014年5月に当院回復期病棟へ入院した初発の脳血管障害患者であり,退院時の理解能力が機能的自立度評価法(FIM)4以上の者で,調査を依頼できた35名とした。そのうち以下の除外基準に該当しなかった18名を分析した。除外基準は脳血管障害を再発した者,運動麻痺を認めない者,退院先が病院・施設の者,既往に精神疾患をもつ者とした。調査項目はSF8 Health Survey(SF-8),老研式活動能力指標(TMIG),機能的自立度評価表(FIM),life-space assessment(LSA),退院後再発の有無とした。SF-8とFIMは退院時と半年後に評価し,その他の項目は半年後にアンケート調査した。SF-8はスタンダード版をNPO健康医療評価研究機構へ登録して使用し,半年後のFIMは青木らによるFlow-FIMを使用した。他に退院時データとしてカルテから年齢,性別,病型,在院日数,Brunnstrom-recovery-stage(BRS),退院時歩行能力として10m歩行に要する時間,Timed Up and Go test(TUG),6分間歩行テスト(6MD)を収集した。分析にはSPSS ver11を用い,1サンプルのt検定,Wilcoxonの符号付き順位検定,相関分析にはSpearmanの順位相関係数を使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
この調査は院内の倫理委員会の了承を得て実施し,各患者には面接と書面による同意を得た。
【結果】
対象となった18名は男性12名,女性6名で,平均年齢62±10歳であった。病型は脳梗塞13名,脳出血3名,クモ膜下出血2名であった。在院日数は111日±42日,退院から半年後の調査日の日数は209±25日で,その時点での要介護状態区分は不明もしくは認定無しが8名,要支援7名,要介護1が2名,要介護2が1名であった。退院時の下肢BRSは中央値が5で,退院時の10m歩行に要する時間は9.7±6.1秒,TUGは12.0±8.3秒,6MDは356±122mであった。半年後のTMIGは中央値が10点,LSAは合計点平均が75.9±33.6点であった。退院後半年間の変化について,FIMは退院時の運動項目合計が平均81.9±7.7点から半年後に85.3±5.5点へ有意(p=0.039)に改善し,認知項目合計は32.9±2.6点から33.5±3.2点と保たれていた。HRQOLは2つのサマリースコアと8つの下位項目で有意な変化なく,保たれていた。HRQOLを国民標準値と比較すると,退院時の身体的サマリースコア(PCS)は44.5±7.4点で有意に国民標準値より低く(p=0.007),下位項目ではPF(身体機能),RP(日常役割機能身体)が有意(それぞれp値が0.004,0.001未満)に低値であった。半年後も同様にPCSとPF,RPが有意(p=0.007,0.004,0.006)に低値であった。HRQOLと各変数の相関を検討すると,退院半年後のPFが半年後のFIM運動項目合計とFIM合計との間に有意(p=0.017,0.015)な正相関を示したが,TMIG,LSAとは相関しなかった。一方,LSAとTMIGは有意(p=0.003)な相関を認めた。退院半年後のTMIGと退院時変数を分析すると,BRS下肢(p=0.019),FIM運動合計(p=0.010),10m歩行に要する時間(p=0.017),TUG(p=0.003),6MD(p=0.011)が有意に相関していた。LSAにはFIM運動合計(p=0.014),10m歩行に要する時間(p=0.022),TUG(p=0.008),6MD(p=0.013)が有意に相関していた。
【考察】
今回の対象者は回復期病棟を退院した患者の中では比較的軽症の脳血管障害患者といえる。それでもADLや歩行能力,IADL,生活空間は一般高齢者よりも制限されていた。退院時および半年後のHRQOLは,どちらもPCS,PF,RFが国民標準値より低いことから,脳血管障害による身体的な制限が,HRQOLに影響していると思われる。RFとFIMとの相関関係から,ADL能力を改善することはHRQOLの改善につながる可能性がある。TMIGとLSAはHRQOLとは有意な相関を見出せなかったが,互いに相関を示しており,それらは退院時のADLや歩行速度とバランスおよび耐久性と相関していた。HRQOLに対する関与は不明だが,回復期入院時にADLや歩行能力に加え,バランスや耐久性を改善することがIADLや生活空間の広がりにつながることが示唆された
【理学療法学研究としての意義】
回復期病棟を退院した脳血管障害患者は,比較的軽症者であってもHRQOLの身体的健康度は国民標準値よりも有意に低値にとどまり,ADL,IADL,生活空間に制限があった。回復期病棟入院中にADL能力,歩行能力,バランス,耐久性を改善することはIADLや生活空間およびHRQOLの改善につながる可能性が示唆された。