第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防3

2014年5月30日(金) 13:30 〜 14:20 第6会場 (3F 304)

座長:山田実(筑波大学大学院人間総合科学研究科)

生活環境支援 口述

[0212] 軽度認知機能障害と運動機能低下は相互作用により転倒との関連性が強くなるのか?

土井剛彦1,2,3, 島田裕之1, 牧迫飛雄馬1, 朴眩泰4, 吉田大輔1, 堤本広大1, 上村一貴1,5, 阿南祐也1, 鈴木隆雄3 (1.国立長寿医療研究センター自立支援システム開発室, 2.日本学術振興会, 3.国立長寿医療研究センター研究所, 4.国立長寿医療研究センター運動機能賦活研究室, 5.名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻理学療法学分野)

キーワード:転倒, 認知機能, 歩行

【はじめに,目的】
高齢者の転倒予防を効果的に実施するためには,転倒のリスクを適切に評価し,リスクの高い者を選別する必要がある。運動機能低下や認知機能低下は重要な転倒リスクと考えられている。近年,認知機能低下の中でも日常生活が自立し認知症ではないが客観的な認知機能低下を有する軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)が着目され,アルツハイマー病の臨床的前駆段階と考えられている。しかし,MCIが転倒のリスクの一つとなるかについては,一定した見解は出されていない。さらに,MCIと運動機能低下の両者を有するmotric cognitive risk(MCR)をもつ者は,MCIや運動機能低下を単独で有するよりも認知症発症リスクが高く,高齢者における新しいハイリスク対象層として脚光を浴びている。しかし,MCRがMCIや運動機能低下に比べ高い転倒リスクであるかについては明らかになっていない。そこで,本研究の目的は大規模疫学研究を実施し,運動機能低下,MCI,MCRを各々有する者が健常高齢者に比べ転倒リスクがどの程度高いかを明らかにするために,転倒リスク評価として代表的な歩行指標と認知機能を用いて検討する。
【方法】
対象は,平成23年度に実施された“Obu Study of Health Promotion for Elderly:OSHPE”に参加した5104名のうち,認知機能に問題のない健常高齢者およびPetersenの基準に合致したMCIを有する高齢者の計3403名を対象とした(平均年齢71.6±5.3歳,男性1597名,女性1806名)。なお,脳卒中,パーキンソン病,認知症,うつの診断を受けたことのある者,全ての評価項目を受けていない者,基本的日常生活動作が自立していない者は除外した。これらの対象者のうち,Vergheseらの定義に則りMCIかつ歩行速度低下を有する者をMCR群とし,歩行速度低下を有さないがMCIに該当する者(MCI群),またはMCIは有さず歩行速度低下のみの者(SG群),いずれにも該当しない者を健常高齢者(HC群)と4群に分類した。歩行速度低下の有無を判定するカット値は我々の先行研究により高齢者の機能低下と強く関連する1.0m/s未満とした。認知機能評価はMCIの判定を含めたNCGG-FATを用いて行った。転倒経験は過去一年間の転倒経験を聴取した。歩行指標はwalkwayを用いてstride length coefficient of variation(CV)を算出し,認知機能は転倒と関連の強い注意ならびに情報処理能力を表すSymbol Digit Substitution Task(SDST)を測定した。さらに,共変量として基本属性,心理状態,身体活動レベルを測定した。統計解析は,各指標に対する群要因(HC群,SG群,MCI群,MCR群)の影響を調べるために一元配置分散分析を行い,有意な関係がみられた項目については共変量にて調整したGLMにて検討した。転倒とMCRの関係性については,2回以上の転倒経験の有無を目的変数,独立変数を群要因(HC,SG,MCI,MCR)としたロジスティック回帰モデルにて検討し,転倒経験との関連性についての群による差異を調べるためにHC群に対する各群のオッズ比を算出した。全ての解析は,5%未満を統計学的有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を得た後に実施し,対象者より,事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し同意を得た。
【結果】
群要因はCV,SDSTの両者に対して有意な影響がみられ,共変量で調整しても有意性に変化は無かった(p<0.01)。さらに,MCR,MCI,SGそれぞれの群属性の転倒に対するオッズ比をみると有意な関係性が各々みられ,MCRのオッズが最も高かった(OR[95%CI]:MCR;2.0[1.1-3.7],MCI;1.6[1.0-2.4],SG;1.8[1.1-3.0])。
【考察】
高齢者において,今まで正常と捉えられていた範囲での機能低下にあたるMCIでも転倒リスクと関連し,さらには歩行速度低下と組み合わさる事でより高い転倒リスクになる事が示された。転倒リスクの程度により対象者を選別する事は転倒予防を考える上で非常に重要であり,身体機能低下と認知機能低下の組み合わせについても評価する必要があるといえる。今後は,縦断的に転倒発生を追跡し,本研究で示唆された関係性を確認する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者の転倒予防は,理学療法に求められる高いニーズの一つである。MCIのような認知機能低下を有する者に対しても運動機能も合わせて評価し,対象者のリスクを把握する事が重要である事が示唆され,本研究から得られた結果は理学療法が担う転倒予防を推進する一助となると考えられる。今後も更なる検討を行いリスク別の予防介入方法を検証することが必要であると考えられる。