第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防3

2014年5月30日(金) 13:30 〜 14:20 第6会場 (3F 304)

座長:山田実(筑波大学大学院人間総合科学研究科)

生活環境支援 口述

[0213] ディシジョンツリー分析を用いたLife-Space Assessment予測モデルによる転倒経験者特性の検討

山口良太1, 小野玲2, 酒井良忠3 (1.株式会社アールイーコンセプト, 2.神戸大学大学院保健学研究科, 3.神戸大学大学院医学研究科リハビリテーション機能回復学)

キーワード:ディシジョンツリー分析, Life-Space Assessment, 転倒経験

【目的】
転倒する高齢者の特性は,転倒危険因子を検討する多くの先行研究によって検証されているが,在住の地政学的特性などによりそれらの結果を一般化することは難しい。従って,各コミュニティーに即した転倒リスクの検討を行う必要があり,さらにそれは簡便であることが望まれる。そこで本研究では,転倒発生率に関与するとされている生活活動量の指標,Life-Space Assessment(以下LSA)の予測モデルを,地域在住高齢者の基本属性や身体機能などを用いたディシジョンツリー分析によって構築し,同高齢者における転倒経験者の特性を検討することとした。
【方法】
対象は2013年5月から同年11月において理学療法特化型通所介護施設を利用している地域在住高齢者58名(男性16名,女性42名)とした。調査項目は,一般情報として性別,年齢,身長,体重,同居人の有無および転倒の有無,身体機能として歩行様式,LSA,Timed Up and Go test(以下TUG),片脚立位時間とした。これらを用いてLSAを従属変数,年齢,性別,同居人の有無,歩行様式,TUG,片脚立位時間を説明変数としたディシジョンツリー分析を行い,LSA予測モデル(以下予測モデル)を作成し,予測LSAの値から低活動,中活動,高活動の3グループに分類した。さらに,全対象者58名を予測モデルに投入し,実際のLSA scoreが予測モデルのグループより高い場合を過信群,低い場合を慎重群,適合している場合を適合群として3群に分類した。その3群における過去6か月以内の転倒経験者の割合をカイ二乗検定を用いて分析し,どの群に転倒経験者が多いのかを検討した。すべての統計解析はSAS Institute Japan社製jmp7を使用し,統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮】
本研究は共同演者が属する大学の倫理委員会の指針および臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)に則り,対象者に対して文書での説明および同意が得て行った。また,個人情報を目的達成に必要な範囲を越えて取り扱わず,匿名化したデータベースにして解析を行った。
【結果】
対象者の平均年齢は80.0歳,要介護度の内訳は,要支援1:22名,要支援2:18名,要介護1:5名,要介護2:5名,要介護3:5名,要介護4:3名であった。LSA scoreの平均は54.5±21.8点であった。
ディシジョンツリーの最も上位の項目は“TUG”であり,以降を矢印を用いて示すと“TUG≧13.2秒”→“同居人の有り”でLSA score39.1点となり,このモデルを低活動グループとした。“TUG≧13.2秒”→“同居人のなし”が49.1点と“TUG<13.2秒”→“歩行様式(T cane歩行)”59点となりこれら2モデルを中活動グループ,“TUG<13.2秒”→“歩行様式(独歩)”は85.7点となりこの1モデルを高活動グループとして分類した。
上記の予測モデルに全対象者を投入した結果,過信群は16名,慎重群7名,適合群35名であった。各群の転倒経験者の割合はそれぞれ,9名,2名,7名であり,過信群の転倒者の割合が有意に高い結果となった(p>0.05)。
【考察】
過信群に転倒経験者の割合が多いという本研究の結果は,基本属性や身体機能が実際の生活活動範囲に一致していないことを表すものであり,転倒経験者の特性を表していると考えられる。ディシジョンツリー分析によって算出されたTUG13.2秒というカットオフ値は,これまでの多くの先行研究によって示されてきた転倒リスクとなる値に近いものとなっており,さらにその値を境に予測LSA scoreが平均29点以上の差があることから,転倒経験とLSAの関連性を示す先行研究の報告と矛盾せず,本研究において作成した予測モデルが有用である可能性が示された。
本研究の限界は,被験者数が少ないためディシジョンツリー分析において,最良の分岐が行えていない可能性がある。実際に,片脚立位時間は投入したが分岐項目には挙がらなかった。これらの問題を解決することでより精度の高い予測モデルの構築が可能になると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
LSA予測モデルを活用することによって,転倒の可能性を予測することに寄与すると考えられ,転倒予防対策のスクリーニングとしての活用が考えられる。また,対象者の生活活動範囲を広げる際の数値を用いた目標設定にも活用が期待できる。
さらに,この結果は質問紙による調査とTUG,片脚立位といった,採取が比較的簡便な項目だけで得られたものであることから,コミュニティーのニーズに沿った方法であると考えられ,明日の臨床にすぐ活かせる研究という点で一定の意義があると考える。