[0222] 急性期病院における術後高齢大腿骨近位部骨折患者の自宅退院に関連する要因
キーワード:大腿骨近位部骨折, 自宅退院, 急性期病院
【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折は,荷重部位の骨折であることから,寝たきりの直接的な原因となる疾患である。また,受傷後の予後に関しての報告では,1年,5年生存率のいずれも低値を示しており,その死因として,骨折後に生じる二次的合併症が挙げられている。
2006年の診療報酬改定において,地域連携クリニカルパスの導入が推奨されるようになりつつある。これに伴い,大腿骨近位部骨折患者は,術後,回復期医療機関への転院が増加している。しかし,転帰先による死亡率やQuality of life(QOL)についての先行研究では,いずれも自宅退院のほうが良値であったと報告されている。これらのことから,入院治療後は自宅への早期退院が望まれる。
大腿骨近位部骨折患者の自宅退院に関連する要因として,先行研究では,Activities Daily of Living(以下ADL)能力,認知機能,年齢,性別,介護状況など,身体機能面のみならず,環境面も含め,数多くの要因が挙げられている。これらの要因を考慮し,大腿骨近位部骨折により,地域連携クリニカルパスを導入し,急性期病院にて手術した症例のうち,理学療法実施後,直接自宅に退院するために関連する要因を明らかにすることとした。
【方法】
2011年12月~2012年11月の間に手術した65歳以上の男女39例(平均年齢79.2±7.5歳)を対象とした。自宅退院を希望した症例に対して,性別,年齢,受傷機転,骨折型,術式,既往歴の有無,合併症の有無,介護状況,受傷前および退院時のADL能力,要介護認定の有無,認知機能についての情報収集を行った。ADL能力はFunctional Independence Measure(以下FIM)を用い,認知機能はMini Mental State Examination(MMSE)を用いた。
各項目と退院先の関係をχ2検定により分析した。ついで,退院先を従属変数とし,χ2検定にて有意差の認められた項目を独立変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,所属施設の倫理委員会にて承認を得た。
【結果】
39例のうち,17例が直接自宅へ退院していた。22例は非自宅退院となっており,全例が回復期リハビリテーション病院へ転院していた。χ2検定の結果,年齢,受傷機転,要介護認定の有無,キーパーソンの続柄,退院時FIMの運動項目と退院時FIM合計の6項目に有意差が認められた。多重ロジスティック回帰分析の結果,自宅退院に関連する要因として有効と認められたのは,キーパーソンの続柄と退院時FIM運動項目の2つで,キーパーソンの続柄が配偶者世代である場合,FIM運動項目が高値である場合に自宅退院の割合が高く,それぞれのオッズ比は26.5(95%CI:2.88~244.03)と14.5(95%CI:1.39~151.57)となっていた。
退院時FIM運動項目に関して,下位項目についても,各項目,5点以上と5点未満の2群に分類し,χ2検定を行った。その結果,有意差が認められたのは,清拭動作,更衣動作(下衣),排便自制,浴槽への移乗および階段昇降の5項目であった。これを独立変数とし,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,自宅退院に有効と認められた項目は階段昇降のみで,FIMが5点以上で自宅退院の割合が高く,そのオッズ比は24.0(95%CI:4.01~143.63)であった。
【考察】
キーパーソンが子供世代の群は,少しでもADL能力を向上させてから自宅に退院してきて欲しいという介助者の思いが強いと考えられた。また,地域連携クリニカルパスの導入により,術前に回復期医療機関への転院についてインフォームドコンセントがなされており,必ず転院するものだと思い込み,自宅退院の準備をしていない可能性も考えられた。
また,全例が自宅退院を希望していたにも関わらず,半数以上の22例が回復期医療機関へ転院していたことから,退院先に関しては,本人の希望よりもキーパーソンをはじめとする介助者の意見が尊重される傾向にあると考えられた。
一方,階段昇降は,FIMの中で唯一,「できるADL」を評価するとされていることから,最も難易度の高い動作であるといえる。そのため,FIMでは十分に評価できない応用動作能力の自立度が自宅退院に影響している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨近位部骨折受傷後,急性期病院から直接自宅退院を目指す際,階段昇降など応用動作能力の向上に努めると同時に,キーパーソンをはじめとする介護者に適切なインフォームドコンセントを行うことが重要であることが明らかとなり,この点に理学療法的意義があるものと考える。
大腿骨近位部骨折は,荷重部位の骨折であることから,寝たきりの直接的な原因となる疾患である。また,受傷後の予後に関しての報告では,1年,5年生存率のいずれも低値を示しており,その死因として,骨折後に生じる二次的合併症が挙げられている。
2006年の診療報酬改定において,地域連携クリニカルパスの導入が推奨されるようになりつつある。これに伴い,大腿骨近位部骨折患者は,術後,回復期医療機関への転院が増加している。しかし,転帰先による死亡率やQuality of life(QOL)についての先行研究では,いずれも自宅退院のほうが良値であったと報告されている。これらのことから,入院治療後は自宅への早期退院が望まれる。
大腿骨近位部骨折患者の自宅退院に関連する要因として,先行研究では,Activities Daily of Living(以下ADL)能力,認知機能,年齢,性別,介護状況など,身体機能面のみならず,環境面も含め,数多くの要因が挙げられている。これらの要因を考慮し,大腿骨近位部骨折により,地域連携クリニカルパスを導入し,急性期病院にて手術した症例のうち,理学療法実施後,直接自宅に退院するために関連する要因を明らかにすることとした。
【方法】
2011年12月~2012年11月の間に手術した65歳以上の男女39例(平均年齢79.2±7.5歳)を対象とした。自宅退院を希望した症例に対して,性別,年齢,受傷機転,骨折型,術式,既往歴の有無,合併症の有無,介護状況,受傷前および退院時のADL能力,要介護認定の有無,認知機能についての情報収集を行った。ADL能力はFunctional Independence Measure(以下FIM)を用い,認知機能はMini Mental State Examination(MMSE)を用いた。
各項目と退院先の関係をχ2検定により分析した。ついで,退院先を従属変数とし,χ2検定にて有意差の認められた項目を独立変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,所属施設の倫理委員会にて承認を得た。
【結果】
39例のうち,17例が直接自宅へ退院していた。22例は非自宅退院となっており,全例が回復期リハビリテーション病院へ転院していた。χ2検定の結果,年齢,受傷機転,要介護認定の有無,キーパーソンの続柄,退院時FIMの運動項目と退院時FIM合計の6項目に有意差が認められた。多重ロジスティック回帰分析の結果,自宅退院に関連する要因として有効と認められたのは,キーパーソンの続柄と退院時FIM運動項目の2つで,キーパーソンの続柄が配偶者世代である場合,FIM運動項目が高値である場合に自宅退院の割合が高く,それぞれのオッズ比は26.5(95%CI:2.88~244.03)と14.5(95%CI:1.39~151.57)となっていた。
退院時FIM運動項目に関して,下位項目についても,各項目,5点以上と5点未満の2群に分類し,χ2検定を行った。その結果,有意差が認められたのは,清拭動作,更衣動作(下衣),排便自制,浴槽への移乗および階段昇降の5項目であった。これを独立変数とし,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,自宅退院に有効と認められた項目は階段昇降のみで,FIMが5点以上で自宅退院の割合が高く,そのオッズ比は24.0(95%CI:4.01~143.63)であった。
【考察】
キーパーソンが子供世代の群は,少しでもADL能力を向上させてから自宅に退院してきて欲しいという介助者の思いが強いと考えられた。また,地域連携クリニカルパスの導入により,術前に回復期医療機関への転院についてインフォームドコンセントがなされており,必ず転院するものだと思い込み,自宅退院の準備をしていない可能性も考えられた。
また,全例が自宅退院を希望していたにも関わらず,半数以上の22例が回復期医療機関へ転院していたことから,退院先に関しては,本人の希望よりもキーパーソンをはじめとする介助者の意見が尊重される傾向にあると考えられた。
一方,階段昇降は,FIMの中で唯一,「できるADL」を評価するとされていることから,最も難易度の高い動作であるといえる。そのため,FIMでは十分に評価できない応用動作能力の自立度が自宅退院に影響している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨近位部骨折受傷後,急性期病院から直接自宅退院を目指す際,階段昇降など応用動作能力の向上に努めると同時に,キーパーソンをはじめとする介護者に適切なインフォームドコンセントを行うことが重要であることが明らかとなり,この点に理学療法的意義があるものと考える。