[0226] 体幹後屈時痛の有無と股関節・体幹可動域の関係について
Keywords:腰痛, 体幹後屈, 骨盤傾斜角
【目的】体幹後屈動作は,腰椎伸展運動に股関節伸展運動と骨盤前後傾運動が同時かつ相補的に行われる複合動作である。臨床上,後屈時に腰痛を有する患者に対し,脊椎への負担改善を目的に骨盤後傾や前方移動を徒手誘導することで疼痛が軽減することを経験する。しかし,後屈時痛の有無と各関節の動きに関する詳細な報告は少ない。そこで,本研究の目的は羽田らが作成した角度測定ソフトMotion Measurement Program(以下,MMP)を用いて体幹後屈時の体幹・骨盤の角度,体幹・股関節の可動域を測定し,体幹後屈時痛の有無との相関について調査し,後屈時腰痛に関する因子を検討することである。
【方法】対象は,最大体幹後屈時に腰痛を有する者10名(以下腰痛群),最大体幹後屈時に腰痛がない者13名(以下コントロール群)とした。年齢は平均26.3±3.5歳である。検討項目は,後屈動作時の後屈角,伸展角,骨盤後傾角度と,他動的要素として他動体幹伸展角度,股関節伸展角度,踵殿距離とした。後屈動作の測定は,被験者に,被験者の左側肩峰・上前腸骨棘(以下ASIS)・上後腸骨棘(以下PSIS)・外果の合計4箇所にマーカーを貼付した状態で,手を胸の前で交差した立位姿勢から体幹後屈し,最大後屈位で2秒静止するように指示し,一連の動作を矢状面よりデジタルビデオカメラで動画撮影を行った。撮影した動画は静止画に変換し,最大後屈時の画像を選出した。選出した画像からMMPを用いて,最大体幹後屈時の後屈角,伸展角,骨盤傾斜角度を測定した。本研究における後屈角を最大体幹後屈時の肩峰・ASISを結んだ線とASIS・外果を結んだ線がなす角度,伸展角は肩峰・ASISを結んだ線と床との平行線がなす角度と定義した。骨盤傾斜角度はASISとPSISを結んだ線と床との平行線がなす角度とした。他動体幹伸展角度は腹臥位から両手でベッドを押し最大体幹伸展位で矢状面より撮影した画像から,肩峰・ASISを結ぶ線と床との平行線がなす角度をMMPで測定した。股関節伸展可動域は側臥位にて日整会の基準に準じてゴニオメーターで測定した。踵殿距離は腹臥位でメジャーを用いて測定した。統計解析は,体幹後屈時痛の有無と各項目の関連性について相関係数を求めた。
【説明と同意】対象者全員には本研究の趣旨と内容について説明し理解を得た上で協力を求めたが,研究への参加は自由意志であり被験者にならなくとも不利益にならないことを十分に説明し,同意を得た後研究を開始した。
【結果】他動体幹伸展角度(r=-0.50),骨盤後傾角度(r=-0.46),右股関節伸展角度(r=-0.45)でやや強い負の相関が見られた。後屈角,伸展角,踵殿距離では,相関は見られなかった。
【考察】結果より,コントロール群に比べ腰痛群の後屈動作では後屈角・伸展角にはばらつきがみられ,骨盤後傾が小さくなる傾向となった。本研究で設定した後屈角は体幹伸展と骨盤前方移動距離を示す。骨盤前方移動距離に関する報告は様々であるが,今回後屈角に相関が見られなかったことは,個々の動作戦略の違いによる影響と考える。伸展角についても相関はなかったことから,体幹伸展角度の大小が後屈時痛に与える影響は小さいと考える。腰痛の有無と骨盤後傾角度,股関節伸展可動域にやや強い負の相関が見られたことから,股関節前面の硬さによる骨盤後傾角度の減少が腰椎に対して伸展ストレスを与え,疼痛の発生因子として影響することが予想された。さらに,他動体幹伸展角度でも腰痛群で角度が小さい傾向にあることから,脊柱の可動性の重要性も示唆された。以上のことから,後屈動作において,体幹伸展角度の大小や骨盤前方移動距離よりも,特に体幹伸展可動域,股関節伸展可動域の獲得が重要であり,その上で体幹の土台である骨盤の後傾を伴った後屈動作を獲得することが必要であると考えられる。体幹後屈時痛に対する理学療法として,股関節伸展可動域,体幹伸展可動域,動作に伴う骨盤後傾の3項目を評価し,さらにそれぞれの動きが同時かつ相補的に行われるよう動作を改善していくことが求められると考えられる。今後は,前向き研究を行い,一連の体幹後屈動作における各関節の動きに対する経時的変化を追い,疼痛の原因についてさらに追求していきたい。本研究で使用したMMPはEXCELとデジタルビデオカメラを使用することで,臨床の場面で撮影した画像から簡便に角度の測定が行える。さらに,必要に応じてプログラム内容を変更することが可能なため,臨床現場の要望にも対応が可能である。
【理学療法学研究としての意義】体幹後屈時痛に対して,他動体幹伸展角度,股関節伸展角,体幹後屈時の骨盤後傾角度を評価することは,理学療法を行う上で有用であると考えられる。MMPは臨床の場面で動作分析を行う一手段であると考えられる。
【方法】対象は,最大体幹後屈時に腰痛を有する者10名(以下腰痛群),最大体幹後屈時に腰痛がない者13名(以下コントロール群)とした。年齢は平均26.3±3.5歳である。検討項目は,後屈動作時の後屈角,伸展角,骨盤後傾角度と,他動的要素として他動体幹伸展角度,股関節伸展角度,踵殿距離とした。後屈動作の測定は,被験者に,被験者の左側肩峰・上前腸骨棘(以下ASIS)・上後腸骨棘(以下PSIS)・外果の合計4箇所にマーカーを貼付した状態で,手を胸の前で交差した立位姿勢から体幹後屈し,最大後屈位で2秒静止するように指示し,一連の動作を矢状面よりデジタルビデオカメラで動画撮影を行った。撮影した動画は静止画に変換し,最大後屈時の画像を選出した。選出した画像からMMPを用いて,最大体幹後屈時の後屈角,伸展角,骨盤傾斜角度を測定した。本研究における後屈角を最大体幹後屈時の肩峰・ASISを結んだ線とASIS・外果を結んだ線がなす角度,伸展角は肩峰・ASISを結んだ線と床との平行線がなす角度と定義した。骨盤傾斜角度はASISとPSISを結んだ線と床との平行線がなす角度とした。他動体幹伸展角度は腹臥位から両手でベッドを押し最大体幹伸展位で矢状面より撮影した画像から,肩峰・ASISを結ぶ線と床との平行線がなす角度をMMPで測定した。股関節伸展可動域は側臥位にて日整会の基準に準じてゴニオメーターで測定した。踵殿距離は腹臥位でメジャーを用いて測定した。統計解析は,体幹後屈時痛の有無と各項目の関連性について相関係数を求めた。
【説明と同意】対象者全員には本研究の趣旨と内容について説明し理解を得た上で協力を求めたが,研究への参加は自由意志であり被験者にならなくとも不利益にならないことを十分に説明し,同意を得た後研究を開始した。
【結果】他動体幹伸展角度(r=-0.50),骨盤後傾角度(r=-0.46),右股関節伸展角度(r=-0.45)でやや強い負の相関が見られた。後屈角,伸展角,踵殿距離では,相関は見られなかった。
【考察】結果より,コントロール群に比べ腰痛群の後屈動作では後屈角・伸展角にはばらつきがみられ,骨盤後傾が小さくなる傾向となった。本研究で設定した後屈角は体幹伸展と骨盤前方移動距離を示す。骨盤前方移動距離に関する報告は様々であるが,今回後屈角に相関が見られなかったことは,個々の動作戦略の違いによる影響と考える。伸展角についても相関はなかったことから,体幹伸展角度の大小が後屈時痛に与える影響は小さいと考える。腰痛の有無と骨盤後傾角度,股関節伸展可動域にやや強い負の相関が見られたことから,股関節前面の硬さによる骨盤後傾角度の減少が腰椎に対して伸展ストレスを与え,疼痛の発生因子として影響することが予想された。さらに,他動体幹伸展角度でも腰痛群で角度が小さい傾向にあることから,脊柱の可動性の重要性も示唆された。以上のことから,後屈動作において,体幹伸展角度の大小や骨盤前方移動距離よりも,特に体幹伸展可動域,股関節伸展可動域の獲得が重要であり,その上で体幹の土台である骨盤の後傾を伴った後屈動作を獲得することが必要であると考えられる。体幹後屈時痛に対する理学療法として,股関節伸展可動域,体幹伸展可動域,動作に伴う骨盤後傾の3項目を評価し,さらにそれぞれの動きが同時かつ相補的に行われるよう動作を改善していくことが求められると考えられる。今後は,前向き研究を行い,一連の体幹後屈動作における各関節の動きに対する経時的変化を追い,疼痛の原因についてさらに追求していきたい。本研究で使用したMMPはEXCELとデジタルビデオカメラを使用することで,臨床の場面で撮影した画像から簡便に角度の測定が行える。さらに,必要に応じてプログラム内容を変更することが可能なため,臨床現場の要望にも対応が可能である。
【理学療法学研究としての意義】体幹後屈時痛に対して,他動体幹伸展角度,股関節伸展角,体幹後屈時の骨盤後傾角度を評価することは,理学療法を行う上で有用であると考えられる。MMPは臨床の場面で動作分析を行う一手段であると考えられる。