第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法3

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM 第13会場 (5F 503)

座長:松田淳子(医療法人同仁会(社団)京都九条病院リハビリテーション部)

神経 口述

[0234] 拡散テンソルtractographyを用いた脳卒中後の神経線維変化の検討

猪村剛史1, 長澤由季1, 今田直樹1, 出海弘章2, 前田忠紀2, 沖修一3, 江本克也3, 山崎弘幸3, 谷到3, 鮄川哲二3, 荒木攻3 (1.医療法人光臨会荒木脳神経外科病院リハビリテーション部, 2.医療法人光臨会荒木脳神経外科病院検査部診療放射線科, 3.医療法人光臨会荒木脳神経外科病院診療部)

Keywords:脳卒中, 拡散テンソルtractography, 運動神経線維

【はじめに,目的】
脳卒中患者に対する理学療法介入により運動機能が改善しうることが示されているが,その回復機構は明らかでない。その理由として,脳卒中後の脳内変化を捉える客観的な評価手法に欠けることが挙げられる。脳機能の画像解析技術の進歩に伴いfunctional magnetic resonance imaging(以下,fMRI)やpositron emission tomography(以下,PET)などが広く応用されている。その中で,脳卒中後の機能回復過程において非損傷側の皮質活動が機能回復に貢献することが報告されている。しかし,それらの報告では測定機器の限界により皮質活動を捉えるのみであり,錐体路を始めとする運動神経線維の変化は明らかにされていない。近年,脳内における水分子の拡散現象から脳白質線維の走行を予測する拡散テンソルtractography(以下,tractography)が注目され,運動機能の予後予測としての有用性が示されてきた。tractographyを応用することで,皮質活動を捉えるのみでなく,空間的・時間的に神経線維レベルでの変化を捉えられる可能性がある。そこで本研究では,tractographyを使用し,脳卒中後の機能回復過程における運動神経線維の変化について検討した。
【方法】
当院に脳梗塞もしくは脳出血の診断で入院し,入院時にtractographyの撮影が可能であった症例を対象とした。Tractographyの撮影にはPhilips社製の3.0Tesla-MRI装置を使用し,解析にはPhilips社製のFiberTrakを用いた。運動神経線維は,大脳脚を起点,中心前回を終点に関心領域を設定し,描出した。入院時における損傷側・非損傷側の描出線維数およびFractional anisotopy(以下,FA値)を算出した。また,主治医指示により,発症約1ヶ月後にもtractography撮影を行った症例においては,発症約1ヶ月後の描出線維も解析対象とした。機能評価として,tractography撮影時にMotricity Index,Brunnstrom stage,Barthel Index,Functional Independence Measure-motor items(FIM-M)を使用し,描出線維やFA値との関連を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院の医道倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
入院時のtractographyにより,非損傷側と比較して損傷側の描出線維数は減少した。また,損傷側で描出される線維のFA値は下肢のMotoricity Indexと正の相関がみられた。さらに,再検査時のtractographyにより,損傷側だけでなく非損傷側においても描出される線維数の変化が生じることが示された。
【考察】
脳卒中後の大脳皮質活動の変化として,損傷側の活動が低下することが報告されており,本研究のtractographyによって確認された神経線維レベルでの変化が皮質活動を反映している可能性が示された。また,発症約1ヶ月後における描出線維変化は損傷側のみでなく,非損傷側でも確認され,大脳皮質ネットワークの再編成が生じている可能性が考えられる。今後は,機能回復の程度,年齢等を多角的に考慮し,損傷後の神経線維変化を詳細に検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中患者の運動機能障害に対する効果的な理学療法介入を確立するためには,回復過程における運動神経線維レベルでの変化を解明することは必須であり,本研究は脳卒中患者に対する理学療法の発展に寄与するものと考える。