第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動制御・運動学習5

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM ポスター会場 (基礎)

座長:野嶌一平(名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻)

基礎 ポスター

[0236] 下肢運動皮質領域への経頭蓋直流電気刺激がバランス機能へ与える影響

米田一也, 梅本翔, 有吉祐亮, 江口雅彦 (国際医療福祉大学福岡保健医療学部)

Keywords:経頭蓋直流電気刺激, バランス機能, 足趾(指)把持筋力

【はじめに,目的】
経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)は,脳に電流を流すことで非侵襲的に脳に可塑的変化を与え,大脳皮質の興奮性を変化させることが可能である。近年,tDCSによる運動機能,感覚機能,高次脳機能に関する研究が進んでいる。しかし,運動機能に関する研究では上肢領域と比較し,下肢機能に関する研究は少ない。また,tDCSがバランス機能へ与える影響に関しても,その報告は少ない。バランス機能は単一のシステムで調節されているのではなく,筋骨格系要素,感覚系などの多数のシステムにおける相互交流により生じるとされる。一般に,臨床において,バランス機能向上を目的にタオルギャザーなどを用い,足趾把持力の向上により,その改善を図ることが多い。そこで本研究の目的は,下肢運動皮質領域へのtDCSが足趾把持力とバランス機能に与える影響を明らかにすることである。
【方法】
本研究に同意を得られた健常成人男性9名(平均年齢:21.4±0.53歳,平均身長:174.6±5.68cm,平均体重:69.1±9.85kg)を対象とし,研究デザインはシングルブラインドクロスオーバーコントロール研究とした。なお中枢神経系に異常のない者を対象とし,利き足は全て右足のものとした。tDCSは刺激群,偽刺激群の2群とし,各被験者に対してランダムな順序で実施した。tDCS刺激装置はDC定電流刺激装置(UNIQUE MEDICAL社製)を使用した。電極の設置位置は国際10-20法に準じて,陽極電極を正中中心部(Cz)と左運動関連領域上(C3)の間に設置し,陰極電極は右前頭眼窩領域に設置した。刺激電極のサイズは5×7cm(35cm2)とし,刺激群では刺激強度2mAで10分間刺激した。偽刺激群では刺激群と同様の設定で,最初の10秒間のみを通電し,それ以降は0mAで実施。バランス機能の測定は重心動揺計(ANIMA社製ツイングラビコーダG6100)を用いた。tDCS刺激前,刺激後に総軌跡長を計測した。重心動揺計は,開眼片脚立位を30秒間保持し測定した。足趾把持力の測定は足趾把持力計(竹井機器工業社製,T.K.K.3360)を用いた。測定肢位は端座位とし,体幹垂直位,股,膝関節を90度屈曲位で,足関節は中間位とした。足趾把持力は2回ずつ測定し,その最大値を採用した。統計的手法は総軌跡長,足趾把持力の刺激前後に刺激群,偽刺激群それぞれに対応のあるt検定を使用した。なお有意水準は全て5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究に先立ち,全対象者に文書及び口頭にて研究の趣旨を説明し,同意書への署名をもって同意を得た。なお本研究は本学倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
重心動揺計による総軌跡長では,刺激群は刺激前148.0±17.54cm,刺激後130.0±25.87cmであり,刺激後に有意な低下が認められた(p<0.05)。一方,偽刺激群では偽刺激前126.8±30.25cm,偽刺激後133.1±25.62cmであり,有意差は認められなかった。足趾把持力では刺激群,偽刺激群ともに有意差は認められなかった。
【考察】
今回の研究結果からtDCSにより足趾把持力の向上はみられなかったが,バランス機能の向上は認められた。足趾把持力に有意差は認められなかったため,足趾把持力がバランス機能向上に影響を与えたかどうかは明らかとなっていない。今回,刺激した領域は一次運動野下肢領域を中心としていたが,足趾領域は内側にあるため,刺激が上手く伝わらなかったことが足趾把持力に変化を与えなかったと考える。バランス機能を向上させた要因は足趾領域より外側にある下肢・体幹領域が興奮することが関与していると考える。バランス機能は筋骨格系要素,感覚系などの多数のシステムが影響するとされており,下肢・体幹領域が興奮し,筋骨格系要素が高まることでバランス機能を向上させたと考える。また,電極サイズは35cm2と大きいため,運動領域のみならず運動野周辺の体性感覚領域などが興奮し,感覚系要素が高まることで,バランス機能を向上させたと考える。今回の研究ではそれらの要因を明確にすることはできなかったが,バランス機能が向上することは示唆された。今後の課題として,tDCSの経時的効果やバランス機能を向上させた要因を明らかにするために,下肢筋力や感覚野への刺激などを詳細に追及していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はtDCSによりバランス機能が向上する可能性を示唆したことに理学療法学研究としての意義がある。tDCSの安全性は高いとされることから,今後,神経リハビリテーションにおいて,tDCSと運動療法を組み合わせた臨床応用が期待される。