[0243] 一側上肢の精緻な運動の学習が対側上肢脊髄神経機能への促通効果に及ぼす影響
Keywords:F波, 脊髄神経機能, 運動学習
【目的】運動適応学習の過程では,中枢神経系においてさまざまな可塑的変化が生じている。我々はこれまでに,困難度や複雑性の異なる一側上肢随意運動の適応学習の過程における対側上肢脊髄神経機能の興奮性の変化について検討し,簡単な運動では短時間で運動を効率的に行えるようになることで対側上肢への促通効果が減弱すると報告した。しかしながら,精緻な運動が要求される場合には,短時間で運動を効率的に行うことができず促通効果に変化はみられなかった。そこで本研究の目的は,一側上肢の精緻な運動を繰り返し練習することで生じる対側上肢脊髄神経機能の興奮性の変化についてF波を用いて検討することとした。
【方法】対象は右ききの健常成人14名(平均年齢26.6±6.2歳)とし,コントロール群7名と課題練習群7名の2群に無作為に割りつけた。きき手の判定にはエディンバラきき手調査を使用した。F波は,Viking Quest(Nicolet)を用いて,課題練習前後に各1回,左上肢による運動課題実施中に右短母指外転筋より導出した。運動課題は,左上肢の移動運動とし,椅子座位にて左手にボールペンを持ち,机上に左右20cm間隔で配置した2つの標的内にペン先が正確につくよう実施した。運動の頻度は1Hzとした。課題の困難度の指標となる標的幅は,幅0.5cm×長さ15cmとした。課題練習群とコントロール群は,2回のF波記録の間に異なる練習課題を実施した。課題練習群では,F波記録時と同様の移動運動30回を1セッションとし,これを5セッション実施した。コントロール群では,標的のない状態で左右への移動運動を5セッション実施した。各セッションの間には1分間の休息を与えた。F波導出の刺激条件は,強度をM波が最大となる刺激強度の120%,頻度を0.5Hz,持続時間を0.2msとして,右手関節部正中神経を連続30回刺激した。この電気刺激はすべて右側の標的への移動運動時に与えた。記録条件は,探査電極を右短母指外転筋の筋腹上,基準電極を右母指基節骨上に配置した。F波の分析項目は,振幅F/M比と立ち上がり潜時とした。また,F波記録時,運動課題において標的からペン先が外れた回数を調査し成功率を算出した。コントロール群と課題練習群の比較にはマン・ホイットニ検定を用いた。各群内の練習前後の比較にはウィルコクソン符号付順位和検定を用いた。なお,有意水準は5%とした。
【説明と同意】対象者には本研究の目的や方法などを十分に説明し,同意が得られた場合には研究同意書にサインを得た。なお,本研究は本学の倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】振幅F/M比は,コントロール群の練習前が1.53±0.50%,練習後が1.73±0.47%,課題練習群の練習前が1.38±0.53%,練習後が1.09±0.27%であった。課題練習群において練習前と比べ練習後で有意に低下した。また,コントロール群の練習後と比べ課題練習群の練習後において有意に低下した。立ち上がり潜時は,コントロール群の練習前が25.1±1.7ms,練習後が25.0±1.7ms,課題練習群の練習前が26.4±1.5ms,練習後が26.3±1.6msであった。立ち上がり潜時には有意差を認めなかった。課題成功率は,コントロール群の練習前が68.1±16.1%,練習後が72.8±16.7%,課題練習群の練習前が70.9±12.7%,練習後が86.2±15.0%であった。
【考察】F波は運動神経軸索の末梢部での刺激によるα運動ニューロンの逆行性興奮に由来すると考えられており,脊髄運動ニューロンプールの興奮性の指標として利用されている。本結果より,精緻な運動が要求される課題においても,練習前に比べ練習後は運動と対側の上肢脊髄神経機能の興奮性が減弱することが示唆された。一側上肢の運動課題遂行時に対側上肢脊髄神経機能の興奮性が増加する要因としては,上肢の随意運動にともなう固有感覚入力や上位中枢からの促通効果が考えられる。この促通効果は運動学習により減弱する可能性がある。先行研究では,運動学習に伴う賦活する皮質領域の減少や,課題の習得に伴う感覚入力の減弱が報告されている。本研究においても,課題練習群では練習により運動が効率的に遂行できるようになったことで,一側上肢の随意運動に伴う固有感覚入力や上位中枢から対側上肢脊髄神経機能への促通効果が減弱した可能性を考えた。
【理学療法学研究としての意義】理学療法を行う際に一側上肢の随意運動が対側の上肢脊髄神経機構へ及ぼす影響について把握することは重要である。本研究より,上肢の随意運動による対側上肢脊髄神経機能への促通効果は運動適応学習により減少することが示唆された。
【方法】対象は右ききの健常成人14名(平均年齢26.6±6.2歳)とし,コントロール群7名と課題練習群7名の2群に無作為に割りつけた。きき手の判定にはエディンバラきき手調査を使用した。F波は,Viking Quest(Nicolet)を用いて,課題練習前後に各1回,左上肢による運動課題実施中に右短母指外転筋より導出した。運動課題は,左上肢の移動運動とし,椅子座位にて左手にボールペンを持ち,机上に左右20cm間隔で配置した2つの標的内にペン先が正確につくよう実施した。運動の頻度は1Hzとした。課題の困難度の指標となる標的幅は,幅0.5cm×長さ15cmとした。課題練習群とコントロール群は,2回のF波記録の間に異なる練習課題を実施した。課題練習群では,F波記録時と同様の移動運動30回を1セッションとし,これを5セッション実施した。コントロール群では,標的のない状態で左右への移動運動を5セッション実施した。各セッションの間には1分間の休息を与えた。F波導出の刺激条件は,強度をM波が最大となる刺激強度の120%,頻度を0.5Hz,持続時間を0.2msとして,右手関節部正中神経を連続30回刺激した。この電気刺激はすべて右側の標的への移動運動時に与えた。記録条件は,探査電極を右短母指外転筋の筋腹上,基準電極を右母指基節骨上に配置した。F波の分析項目は,振幅F/M比と立ち上がり潜時とした。また,F波記録時,運動課題において標的からペン先が外れた回数を調査し成功率を算出した。コントロール群と課題練習群の比較にはマン・ホイットニ検定を用いた。各群内の練習前後の比較にはウィルコクソン符号付順位和検定を用いた。なお,有意水準は5%とした。
【説明と同意】対象者には本研究の目的や方法などを十分に説明し,同意が得られた場合には研究同意書にサインを得た。なお,本研究は本学の倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】振幅F/M比は,コントロール群の練習前が1.53±0.50%,練習後が1.73±0.47%,課題練習群の練習前が1.38±0.53%,練習後が1.09±0.27%であった。課題練習群において練習前と比べ練習後で有意に低下した。また,コントロール群の練習後と比べ課題練習群の練習後において有意に低下した。立ち上がり潜時は,コントロール群の練習前が25.1±1.7ms,練習後が25.0±1.7ms,課題練習群の練習前が26.4±1.5ms,練習後が26.3±1.6msであった。立ち上がり潜時には有意差を認めなかった。課題成功率は,コントロール群の練習前が68.1±16.1%,練習後が72.8±16.7%,課題練習群の練習前が70.9±12.7%,練習後が86.2±15.0%であった。
【考察】F波は運動神経軸索の末梢部での刺激によるα運動ニューロンの逆行性興奮に由来すると考えられており,脊髄運動ニューロンプールの興奮性の指標として利用されている。本結果より,精緻な運動が要求される課題においても,練習前に比べ練習後は運動と対側の上肢脊髄神経機能の興奮性が減弱することが示唆された。一側上肢の運動課題遂行時に対側上肢脊髄神経機能の興奮性が増加する要因としては,上肢の随意運動にともなう固有感覚入力や上位中枢からの促通効果が考えられる。この促通効果は運動学習により減弱する可能性がある。先行研究では,運動学習に伴う賦活する皮質領域の減少や,課題の習得に伴う感覚入力の減弱が報告されている。本研究においても,課題練習群では練習により運動が効率的に遂行できるようになったことで,一側上肢の随意運動に伴う固有感覚入力や上位中枢から対側上肢脊髄神経機能への促通効果が減弱した可能性を考えた。
【理学療法学研究としての意義】理学療法を行う際に一側上肢の随意運動が対側の上肢脊髄神経機構へ及ぼす影響について把握することは重要である。本研究より,上肢の随意運動による対側上肢脊髄神経機能への促通効果は運動適応学習により減少することが示唆された。