[0246] 視覚課題が先行随伴性姿勢調節へ与える影響について
キーワード:先行随伴性姿勢調節, 視覚課題, 歩行開始動作
【はじめに,目的】
歩行開始時は,下腿三頭筋の筋出力抑制・前脛骨筋の活動増加により足圧中心が運動脚後方に移動し,それによる床反力ベクトルの傾斜により重心が支持脚に移動し歩き始めるとされており,それらの働きは先行随伴性姿勢調節(以下:APA’s)によるものとされている。本研究は東の先行研究方法を元に視覚課題の有無が歩き出す際のAPA’sの働きにどう影響するのか検討した。前研究では視覚課題の有無による歩行開始時の筋活動(前脛骨筋・中殿筋)を解析し,視覚課題を与えた方が無い場合と比べ前脛骨筋・中殿筋の筋活動が高まる結果となった。第二報となる本研究は,視覚課題の有無が歩行開始時の筋活動と足圧中心移動にどう影響するのか検討した。
【方法】
被験者は,健康な成人男性8名とした。(平均年齢22.6±2.6歳,平均身長170.7±5.2cm,平均体重67.8±10.5kg,平均足長26.2±1.2cm)ボールを蹴る方の脚を運動脚として表面電極(NORAXON Telemyo2400T)を運動脚の前脛骨筋・中殿筋・支持脚の前脛骨筋に,運動脚の踵にフットセンサーを装着した。計測は床反力計(AMTI社製)上に,規程した安静立位から被験者のタイミングで運動脚からできるだけ素早く歩き出してもらった。視覚課題無し(以下A条件)は,目標物の設定無しにまっすぐ歩いてもらい,視覚課題有り(以下B条件)は,5m先に設置された椅子に座るまでとした。この2条件をランダムに2回行い,その平均値を採用した。データ解析は,フットセンサーにより踵離地(以下:HO)時点を計測し,HO以前の放電開始からHOまでの被験筋の放電時間(ms),平均放電量(%MVC),運動脚方向・後方の足圧中心移動幅(mm),足圧中心移動速度(m/s),を計測した。筋電図データは全波整流化を行い,被験筋は各被験者の等尺性最大随意収縮を測定し正規化した。筋活動開始の規程量は,筋放電が開始したとみられる地点から約300ms前までの50ms間(250ms前から300ms前まで)の平均放電量が1.5倍以上になった時点とした。各被験者の両群間の計測値を平均化し2条件(A,B)の値を対応のあるt検定にて検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の目的を説明し,同意が得られた健常成人を対象とした。また,当院の倫理員会の承認を得て実施した。
【結果】
両群間を比較した結果,運動脚の前脛骨筋の平均放電量(%MVC)にて,B条件(23.7±5.08)がA条件(10.8±6.8)に比べ有意に高い活動を示した(P<0.05)。それ以外の項目では有意差は認められなかったが,後方への足圧中心移動幅を除いてB条件がA条件に比べ大きな値を示す傾向となった。放電時間(ms):A条件にて,運動脚の前脛骨筋(436.4±60.5),中殿筋(408.6±88.2),支持脚の前脛骨筋(416.5±52.1)B条件にて,運動脚の前脛骨筋(476.6±90.1),中殿筋(486.0±75.2),支持脚の前脛骨筋(455.8±66.1)平均放電量(%MVC):A条件にて,運動脚の前脛骨筋(10.8±6.8),中殿筋(16.4±5.42),支持脚の前脛骨筋(25.6±3.69)B条件にて,運動脚の前脛骨筋(23.7±5.08),中殿筋(18.6±6.83),支持脚の前脛骨筋(28.2±9.85)足圧中心移動幅(mm):A条件(運動脚方向:75.0±30.2 後方:83.4±18.5),B条件(運動脚方向:116.5±20.5 後方:80.2±17.5),足圧中心移動速度(m/s):A条件(左右:0.59±0.1 前後:0.46±0.1),B条件(左右:0.60±0.1 前後:0.47±0.1)
【考察】
APA’sは主運動に先行した姿勢制御であり,制御とは「システムの出力が目的の状態になるようにシステム操作を加えること」とされている。「目の前の椅子に座りに行く」という視覚課題を達成するため,システム出力である運動脚の前脛骨筋の平均放電量・放電時間が増大し,後方への足圧中心移動の減少,運動脚への足圧中心移動の増大というシステム操作が起こったと考えられる。Baudyら(2000)は,前後方向の重心制御は比較的受動的なものであるのに対して,側方の重心制御は能動的なコントロールが必要であるとされる報告がある。本研究においても「ただ直線的に歩く」よりも「椅子に向かって座りに行く」という視覚課題を与えた場合に運動脚への足圧中心移動幅,いわゆる側方制御量が増大したことは視覚課題に対する何らかの能動的なコントロールが働いていると推察される。本研究の結果より,視覚課題の有無という環境の変化が歩行開始前の前脛骨筋の活動に関与し,足圧中心移動などのAPA’sに何らかの影響を及ぼしていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,視覚課題の有無により歩行開始時のAPA’sに変化を認めることが示唆された。臨床にて,歩行開始時にバランスを崩す場面が多くみられるが,視覚課題を用いることで歩行開始動作に必要な姿勢制御を向上させる手続きになると考える。
歩行開始時は,下腿三頭筋の筋出力抑制・前脛骨筋の活動増加により足圧中心が運動脚後方に移動し,それによる床反力ベクトルの傾斜により重心が支持脚に移動し歩き始めるとされており,それらの働きは先行随伴性姿勢調節(以下:APA’s)によるものとされている。本研究は東の先行研究方法を元に視覚課題の有無が歩き出す際のAPA’sの働きにどう影響するのか検討した。前研究では視覚課題の有無による歩行開始時の筋活動(前脛骨筋・中殿筋)を解析し,視覚課題を与えた方が無い場合と比べ前脛骨筋・中殿筋の筋活動が高まる結果となった。第二報となる本研究は,視覚課題の有無が歩行開始時の筋活動と足圧中心移動にどう影響するのか検討した。
【方法】
被験者は,健康な成人男性8名とした。(平均年齢22.6±2.6歳,平均身長170.7±5.2cm,平均体重67.8±10.5kg,平均足長26.2±1.2cm)ボールを蹴る方の脚を運動脚として表面電極(NORAXON Telemyo2400T)を運動脚の前脛骨筋・中殿筋・支持脚の前脛骨筋に,運動脚の踵にフットセンサーを装着した。計測は床反力計(AMTI社製)上に,規程した安静立位から被験者のタイミングで運動脚からできるだけ素早く歩き出してもらった。視覚課題無し(以下A条件)は,目標物の設定無しにまっすぐ歩いてもらい,視覚課題有り(以下B条件)は,5m先に設置された椅子に座るまでとした。この2条件をランダムに2回行い,その平均値を採用した。データ解析は,フットセンサーにより踵離地(以下:HO)時点を計測し,HO以前の放電開始からHOまでの被験筋の放電時間(ms),平均放電量(%MVC),運動脚方向・後方の足圧中心移動幅(mm),足圧中心移動速度(m/s),を計測した。筋電図データは全波整流化を行い,被験筋は各被験者の等尺性最大随意収縮を測定し正規化した。筋活動開始の規程量は,筋放電が開始したとみられる地点から約300ms前までの50ms間(250ms前から300ms前まで)の平均放電量が1.5倍以上になった時点とした。各被験者の両群間の計測値を平均化し2条件(A,B)の値を対応のあるt検定にて検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の目的を説明し,同意が得られた健常成人を対象とした。また,当院の倫理員会の承認を得て実施した。
【結果】
両群間を比較した結果,運動脚の前脛骨筋の平均放電量(%MVC)にて,B条件(23.7±5.08)がA条件(10.8±6.8)に比べ有意に高い活動を示した(P<0.05)。それ以外の項目では有意差は認められなかったが,後方への足圧中心移動幅を除いてB条件がA条件に比べ大きな値を示す傾向となった。放電時間(ms):A条件にて,運動脚の前脛骨筋(436.4±60.5),中殿筋(408.6±88.2),支持脚の前脛骨筋(416.5±52.1)B条件にて,運動脚の前脛骨筋(476.6±90.1),中殿筋(486.0±75.2),支持脚の前脛骨筋(455.8±66.1)平均放電量(%MVC):A条件にて,運動脚の前脛骨筋(10.8±6.8),中殿筋(16.4±5.42),支持脚の前脛骨筋(25.6±3.69)B条件にて,運動脚の前脛骨筋(23.7±5.08),中殿筋(18.6±6.83),支持脚の前脛骨筋(28.2±9.85)足圧中心移動幅(mm):A条件(運動脚方向:75.0±30.2 後方:83.4±18.5),B条件(運動脚方向:116.5±20.5 後方:80.2±17.5),足圧中心移動速度(m/s):A条件(左右:0.59±0.1 前後:0.46±0.1),B条件(左右:0.60±0.1 前後:0.47±0.1)
【考察】
APA’sは主運動に先行した姿勢制御であり,制御とは「システムの出力が目的の状態になるようにシステム操作を加えること」とされている。「目の前の椅子に座りに行く」という視覚課題を達成するため,システム出力である運動脚の前脛骨筋の平均放電量・放電時間が増大し,後方への足圧中心移動の減少,運動脚への足圧中心移動の増大というシステム操作が起こったと考えられる。Baudyら(2000)は,前後方向の重心制御は比較的受動的なものであるのに対して,側方の重心制御は能動的なコントロールが必要であるとされる報告がある。本研究においても「ただ直線的に歩く」よりも「椅子に向かって座りに行く」という視覚課題を与えた場合に運動脚への足圧中心移動幅,いわゆる側方制御量が増大したことは視覚課題に対する何らかの能動的なコントロールが働いていると推察される。本研究の結果より,視覚課題の有無という環境の変化が歩行開始前の前脛骨筋の活動に関与し,足圧中心移動などのAPA’sに何らかの影響を及ぼしていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,視覚課題の有無により歩行開始時のAPA’sに変化を認めることが示唆された。臨床にて,歩行開始時にバランスを崩す場面が多くみられるが,視覚課題を用いることで歩行開始動作に必要な姿勢制御を向上させる手続きになると考える。