[0249] せん断波エラストグラフィー機能による胸郭コンプライアンスの評価
キーワード:胸郭拡張性, 肋間筋, せん断波エラストグラフィー
【目的】
胸郭可動域に制限がある場合,肺のコンプライアンスが正常でも胸郭を拡張させるための弾性抵抗に抗したエネルギーが必要となり,呼吸運動に伴う呼吸仕事量や酸素消費量の増加を招く。肺移植手術においては,術後,移植肺は良好に機能するものの,術前から起こっている胸郭コンプライアンスの低下による肺活量回復の遷延や呼吸困難の持続などを多く経験する。胸郭に対する治療的介入が重要であることを痛感するものの,その効果の検証や評価方法自体が確立されていない。胸郭の構成体である肋間筋の柔軟性低下は胸郭コンプライアンスを低下させる原因となり,また呼吸障害の結果としても現れる。本研究では,肋間筋の柔軟性に着目し,せん断波エラストグラフィー機能を用いた肋間筋の弾性率測定による胸郭コンプライアンスの定量的評価の妥当性について検証することを目的とした。
【方法】
喫煙歴のない健常若年男性15名を対象とし,せん断波エラストグラフィー機能付き超音波診断装置による肋間筋の弾性率評価と胸郭拡張性の評価を行った。評価肢位は端座位とした。肋間筋の弾性率評価は,右鎖骨内側1/3から下ろした垂線上の第2肋間および同側の前腋窩線上の第6肋間を測定部位とし,肋骨に対して垂直に超音波診断装置のプローブをあて,肋間筋を描出し,弾性率を測定した。本測定を安静吸気位(rest in),呼気位(rest ex),最大吸気位(max in),最大呼気位(max ex),最大吸気量の50%位(50 in),最大呼気量の50%位(50 ex)の6つの肺気量位にて実施した。各肺気量位はスパイロメーターを用いて視覚的フィードバックを行い設定した。胸郭拡張性の評価は,腋窩レベルと剣状突起レベルで最大呼気位・吸気位の胸郭周径を測定し,その変化率を胸郭拡張率とした。全ての評価は2回ずつ実施し,平均値を算出した。また弾性率評価については,測定の信頼性を分析する為に,2ヶ所の測定部位における級内相関係数(ICC)を算出した。肺気量位の違いによる肋間筋弾性率に与える影響を一元配置分散分析および多重比較検定を用いて分析し,更に各対象の第2・6肋間における6つの肺気量位での肋間筋弾性率と腋窩・剣状突起レベルでの胸郭拡張率の関係をピアソンの積率相関係数を用いて分析した。両検定ともに有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の主旨および方法に関するインフォームド・コンセントを行い,署名と同意を得ている。
【結果】
せん断波エラストグラフィー機能による肋間筋弾性率評価のICCは第2肋間で0.779-0.915,第6肋間で0.769-0.976であり,検者内再現性は良好であった。各肺気量位での肋間筋の弾性率は,第2肋間ではrest in 24.9±8.1kPa,50in 29.8±9.2kPa,max in 45.6±15.9kPa,rest ex 27.7±8.0kPa,50ex 32.3±11.0kPa,max ex 43.7±14.8kPaであった。第6肋間ではrest in 17.7±7.4kPa,50in 17.7±5.7kPa,max in 26.4±8.3kPa,rest ex 19.2±11.1kPa,50ex 26.0±9.6kPa,max ex 50.5±19.8kPaであった。全ての肺気量位での弾性率を比較すると,第2,6肋間ともにmax inおよびmax exが他の肺気量位と比較して有意に高い値を示した。肋間筋弾性率と胸郭拡張率の関係については,第2肋間におけるrest in,rest exの弾性率と腋窩レベルの胸郭拡張率との間,第6肋間におけるrest in,rest exの弾性率と剣状突起レベルの胸郭拡張率との間に有意な負の相関関係(第2肋間-腋窩レベルr=-0.70,-0.52,第6肋間-剣状突起レベルr=-0.65,-0.57)を認めた。
【考察】
せん断波エラストグラフィー機能による弾性率測定の妥当性に関しては,上下肢筋を対象としたものが報告されており,筋の弾性率と伸張程度や筋張力との関係性が示されている。今回,肋間筋を対象として測定した結果,高い測定再現性が得られた。肋間筋の弾性率が最大吸気位・呼気位で有意に高くなった結果については,健常若年男性を対象としたため,安静吸気・呼気位および最大吸気・呼気の50%の肺気量位では肋間筋が収縮することがなく,また伸張されることもほとんどなかったことが原因と考えられる。一方,最大吸気時には肋間筋が伸張され,弾性率が高くなり,最大呼気時には肋間筋が収縮することによってそれぞれ張力が発生し,弾性率が高くなったと考えられる。更には,安静吸気位・呼気位での肋間筋弾性率と胸郭拡張率との間に関連性を認めたことからも,せん断波エラストグラフィー機能での肋間筋弾性率測定による胸郭コンプライアンスの定量的評価の妥当性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は新たな手法を用いて肋間筋の弾性率を指標に胸郭のコンプライアンスを評価することができる可能性を示し,今後呼吸器疾患症例を対象とした検証を進める上で貴重な基礎的データとなる。
胸郭可動域に制限がある場合,肺のコンプライアンスが正常でも胸郭を拡張させるための弾性抵抗に抗したエネルギーが必要となり,呼吸運動に伴う呼吸仕事量や酸素消費量の増加を招く。肺移植手術においては,術後,移植肺は良好に機能するものの,術前から起こっている胸郭コンプライアンスの低下による肺活量回復の遷延や呼吸困難の持続などを多く経験する。胸郭に対する治療的介入が重要であることを痛感するものの,その効果の検証や評価方法自体が確立されていない。胸郭の構成体である肋間筋の柔軟性低下は胸郭コンプライアンスを低下させる原因となり,また呼吸障害の結果としても現れる。本研究では,肋間筋の柔軟性に着目し,せん断波エラストグラフィー機能を用いた肋間筋の弾性率測定による胸郭コンプライアンスの定量的評価の妥当性について検証することを目的とした。
【方法】
喫煙歴のない健常若年男性15名を対象とし,せん断波エラストグラフィー機能付き超音波診断装置による肋間筋の弾性率評価と胸郭拡張性の評価を行った。評価肢位は端座位とした。肋間筋の弾性率評価は,右鎖骨内側1/3から下ろした垂線上の第2肋間および同側の前腋窩線上の第6肋間を測定部位とし,肋骨に対して垂直に超音波診断装置のプローブをあて,肋間筋を描出し,弾性率を測定した。本測定を安静吸気位(rest in),呼気位(rest ex),最大吸気位(max in),最大呼気位(max ex),最大吸気量の50%位(50 in),最大呼気量の50%位(50 ex)の6つの肺気量位にて実施した。各肺気量位はスパイロメーターを用いて視覚的フィードバックを行い設定した。胸郭拡張性の評価は,腋窩レベルと剣状突起レベルで最大呼気位・吸気位の胸郭周径を測定し,その変化率を胸郭拡張率とした。全ての評価は2回ずつ実施し,平均値を算出した。また弾性率評価については,測定の信頼性を分析する為に,2ヶ所の測定部位における級内相関係数(ICC)を算出した。肺気量位の違いによる肋間筋弾性率に与える影響を一元配置分散分析および多重比較検定を用いて分析し,更に各対象の第2・6肋間における6つの肺気量位での肋間筋弾性率と腋窩・剣状突起レベルでの胸郭拡張率の関係をピアソンの積率相関係数を用いて分析した。両検定ともに有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の主旨および方法に関するインフォームド・コンセントを行い,署名と同意を得ている。
【結果】
せん断波エラストグラフィー機能による肋間筋弾性率評価のICCは第2肋間で0.779-0.915,第6肋間で0.769-0.976であり,検者内再現性は良好であった。各肺気量位での肋間筋の弾性率は,第2肋間ではrest in 24.9±8.1kPa,50in 29.8±9.2kPa,max in 45.6±15.9kPa,rest ex 27.7±8.0kPa,50ex 32.3±11.0kPa,max ex 43.7±14.8kPaであった。第6肋間ではrest in 17.7±7.4kPa,50in 17.7±5.7kPa,max in 26.4±8.3kPa,rest ex 19.2±11.1kPa,50ex 26.0±9.6kPa,max ex 50.5±19.8kPaであった。全ての肺気量位での弾性率を比較すると,第2,6肋間ともにmax inおよびmax exが他の肺気量位と比較して有意に高い値を示した。肋間筋弾性率と胸郭拡張率の関係については,第2肋間におけるrest in,rest exの弾性率と腋窩レベルの胸郭拡張率との間,第6肋間におけるrest in,rest exの弾性率と剣状突起レベルの胸郭拡張率との間に有意な負の相関関係(第2肋間-腋窩レベルr=-0.70,-0.52,第6肋間-剣状突起レベルr=-0.65,-0.57)を認めた。
【考察】
せん断波エラストグラフィー機能による弾性率測定の妥当性に関しては,上下肢筋を対象としたものが報告されており,筋の弾性率と伸張程度や筋張力との関係性が示されている。今回,肋間筋を対象として測定した結果,高い測定再現性が得られた。肋間筋の弾性率が最大吸気位・呼気位で有意に高くなった結果については,健常若年男性を対象としたため,安静吸気・呼気位および最大吸気・呼気の50%の肺気量位では肋間筋が収縮することがなく,また伸張されることもほとんどなかったことが原因と考えられる。一方,最大吸気時には肋間筋が伸張され,弾性率が高くなり,最大呼気時には肋間筋が収縮することによってそれぞれ張力が発生し,弾性率が高くなったと考えられる。更には,安静吸気位・呼気位での肋間筋弾性率と胸郭拡張率との間に関連性を認めたことからも,せん断波エラストグラフィー機能での肋間筋弾性率測定による胸郭コンプライアンスの定量的評価の妥当性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は新たな手法を用いて肋間筋の弾性率を指標に胸郭のコンプライアンスを評価することができる可能性を示し,今後呼吸器疾患症例を対象とした検証を進める上で貴重な基礎的データとなる。