第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防5

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:齋藤圭介(吉備国際大学保健医療福祉学部理学療法学科)

生活環境支援 ポスター

[0259] 地域在住高齢者における階段昇降の自立に関する要因の検討

福尾実人 (株式会社創心會創心会訪問看護ステーション)

Keywords:地域在住高齢者, 階段昇降, 要介護

【はじめに,目的】わが国は,諸外国に例をみないスピードで高齢化が進んでいる。このような状況のなか,団塊の世代が75歳以上となる2025年には国民の医療や介護の需要が更に増加することが見込まれている。平成22年度の国民基礎調査結果では,介護が必要となった原因をみると要支援者は第1位が「関節疾患」,第2位が「高齢による衰弱」,第4位が「転倒・骨折」とされている。これらの原因の多くは,在宅での生活活動の量や質の低下,転倒恐怖感による外出制限,加齢に伴う筋萎縮・筋力低下およびバランス能力の低下,主観的健康感による精神面が影響していることが考えられる。2008年に(社)日本整形外科学会は,ロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)という概念を提唱した。ロコモは,運動器の障害により要介護のリスクが高い状態になると定義されている。ロコモの診断として,7つのロコモーションチェックがあり,そのなかに「階段を上がるのに手すりが必要である」の項目がある。要介護高齢者では,階段昇降の自立が身体活動量や外出に関係すると報告されている。加えて,階段昇降の自立は,転倒予測にも関連する。本研究の目的は,地域在住高齢者を対象として,階段昇降自立の可否に関する要因を明らかにすることにより未然に要介護状態を予防できる評価方法を検討することである。
【方法】対象者は,中枢神経疾患や明らかな整形外科疾患を有さない介護予防教室に参加した地域在住高齢者37名(男性10名,女性27名,年齢74.7±5.6歳)とした。調査項目は,基礎情報として年齢,身体活動量の評価としてBakerらが提唱したLife-Space Assessment(LSA),転倒に対する自己効力感尺度として芳賀により簡便に改変されたFall Efficacy Scale(FES)を使用した。身体機能評価は,握力,等尺性膝伸展筋力,開眼片脚起立時間,Timed Up and Go Test(TUG),連続歩行距離とした。その他は,主観的健康感,転倒恐怖感の有無,転倒経験(過去1年間)の有無を聴取した。分析は,対象者を階段昇降自立と階段昇降に手すりが必要な者を階段昇降非自立に分割した。統計解析は,まず各評価項目の正規性をShapiro-Wilk検定にて確認した。その後,それぞれを群間比較するために,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定,名義尺度はFisherの正確確率検定を用いた。統計学的な有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,県立広島大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号M11-0050)。対象者には,十分な説明を行った後,書面にて研究参加の同意を得て実施した。
【結果】対象者37名中,階段昇降自立は22名,階段昇降非自立は15名であった。群間比較の結果(階段昇降自立/階段昇降非自立),LSA91(79.5-104)/74(62-90)点,FES40(40-40)/40(33-40)点,握力28.6±9.5/23.7±4.9kg,連続歩行距離6(6-6)/6(5-6)点,主観的健康感3(3-4)/3(2-3)点,転倒経験の有無において階段昇降非自立者は有意に低い値を示した。
【考察】先行研究においては階段昇降に関連する因子として,下肢筋力やバランス能力が必要となると報告されている。本研究の対象者は,会場まで自立して来た者がほとんどであり,運動機能が高く,Instrumental Activities of Daily Living(IADL)自立レベルと思われる。そのため,階段昇降自立の可否が下肢筋力およびバランス能力に有意差を示さなかったと考えられる。階段昇降動作は,歩行以外にもバスや電車などの公共交通機関を利用,乗り降りをするといった外出に関係している。加えて,階段昇降の低下はFES,転倒経験にも関係する。将来の高齢者における要介護認定の予測因子は,階段昇降ができない,外出頻度および身体活動量,握力,1km連続歩行,主観的健康感が低いことが報告されている。本研究より,地域在住高齢者における階段昇降自立の可否には,身体機能だけでなく,生活空間,自己効力感,連続歩行距離,健康心理面,転倒経験などの要因が関係することが明らかになった。今後は,階段昇降非自立者の要介護を未然に防ぐために身体機能以外の評価方法に着目する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究から,階段昇降自立の可否は身体機能以外の要因が将来の要介護の危険因子となる可能性が示唆された。今後の超高齢化社会に向けて,早期の介護予防を行える評価方法,プログラム作成の一助となればと考える。