[0272] 頭頸部癌患者における頸部郭清術後の肩甲胸郭関節機能の経時的変化
Keywords:頸部郭清, 副神経麻痺, 肩甲胸郭関節
【はじめに,目的】
頭頸部癌患者の頸部リンパ節郭清術の実施において,副神経温存例でも術中操作による神経の牽引,拳上および電気メスによる刺激が誘引となって副神経麻痺を呈するとの報告がある。副神経の運動枝は僧帽筋を支配し,直接的に肩甲上腕関節には関与せず,肩甲胸郭関節に影響を及ぼすことで肩関節の機能低下が生じると考えられるが,肩甲胸郭関節機能の変化についての検討は見られない。そこで今回,この点に着目し,肩関節のみならず肩甲胸郭関節機能の経時的変化について検討することとした。
【方法】
2011年9月11日より2013年9月30日までに頭頸部癌の診断にて頸部リンパ節郭清術を施行し,副神経を温存し得た症例のうち,術前より理学療法が開始でき,かつ術後6ヶ月以降の評価が可能であった8名11肩(男性7名,年齢65.9±16.9歳)を対象とした。理学療法の内容として,まず術前に術後想定される肩関節機能低下を考慮した訓練プログラム(肩関節・肩甲胸郭関節可動域訓練,筋力強化訓練)を専用のパンフレットを用い指導した。術後,同プログラムに従って退院までは連日訓練を実践。退院後に外来通院での訓練継続ついて症例毎に検討した。
評価項目は,肩甲胸郭関節機能として肩甲骨自動挙上可動域(°)および内転移動距離を評価した。肩甲骨内転移動距離はDiVetaらの方法(第3胸椎棘突起から肩峰の後角までの距離を安静時・肩甲骨随意最大内転時に測定し,それぞれ肩甲棘内縁から肩峰後角までの距離で除した値の差)を使用した。肩関節機能は自動屈曲可動域(°)と自動外転可動域(°)を評価した。これらの評価項目を術前,術後(理学療法開始時),術後6ヶ月以降に測定し,それぞれの変化について検討した。統計処理にはSPSS(Ver.21)を使用,分散分析を用いて行い,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,本学臨床研究審査委員会の承認を得て,当院における臨床研究に関する倫理指針に沿って行った。
【結果】
術後訓練開始時期は15.5±4.6日であった。肩甲骨挙上可動域は術前,術後および術後6ヶ月以降でそれぞれ15.5±5.2°, 5.0±3.2°, 12.3±4.1°であり,術後低下するが,6ヶ月以降で有意に改善した(p<0.05)。肩甲骨内転移動距離は0.22±0.11,0.15±0.11,0.23±0.08と,6ヶ月以降で増加したが,統計学的に有意差はなかった。肩関節屈曲可動域は157.7±15.4°,124.1±16.9°,135.5±15.6°。外転可動域は164.5±18.0°,109.5±26.0°,125.0±24.3°といずれも術後有意に低下し,6ヶ月以降で改善した(p<0.05)。しかし,術前に比し術後6ヶ月以降でもなお,有意に可動域が低下していた(p<0.05)。
退院後に外来通院での理学療法を継続できた症例は3例で,頻度は月1~2回であった。退院後の継続が困難であった症例が5例と多く,その理由については原疾患の継続的加療,再発や転移などに対する加療,さらには肺炎などの合併症といった医学的管理の問題が主体であった。
【考察】
我々が着目した肩甲胸郭関節機能については,肩甲骨挙上の術後の増悪と6ヶ月以降での改善の経過が明確となった。この知見は,副神経麻痺によって生じた僧帽筋上部線維の筋力低下による肩甲胸郭関節機能を客観的に捉えられたという点で極めて重要である。このことは,筋電図検査を用いた検討による経時的な僧帽筋の機能回復の報告に一致すると考えられ,この時期の理学療法の実施は可動域拡大と筋力強化に寄与し重要と考えられた。
さて,肩関節屈曲および外転可動域は術後6ヶ月以降において,いずれもADL上支障のないレベルまで達していたが,術前と比較するとなおも有意に低下し,機能的には十分に回復しないという結果も浮き彫りとなった。このことは,退院後の継続的な理学療法の重要性を示唆した。一方で,肩関節機能の改善より原疾患の治療を主に考えて療養生活を送ることを強いられ,退院後の理学療法継続が容易でない頭頚部癌患者の特性も明らかであった。今後の課題として,医学的管理すなわち“がん治療”と外来通院での理学療法の継続をバランスよく両立させていく工夫や指導の重要性が示唆された。
【理学療法研究としての意義】
頚部郭清術副神経温存例における肩甲胸郭関節可動域の変化について術前から経時的に示した。肩甲胸郭関節機能は術後一時的に低下するが,入院中の理学療法介入や自主訓練指導により改善することが明らかとなった。しかし,肩関節機能は改善の傾向は示すものの十分とは言い難く,理学療法を如何にして継続していくかという“がん患者”特有の問題点もまた明確となった。
頭頸部癌患者の頸部リンパ節郭清術の実施において,副神経温存例でも術中操作による神経の牽引,拳上および電気メスによる刺激が誘引となって副神経麻痺を呈するとの報告がある。副神経の運動枝は僧帽筋を支配し,直接的に肩甲上腕関節には関与せず,肩甲胸郭関節に影響を及ぼすことで肩関節の機能低下が生じると考えられるが,肩甲胸郭関節機能の変化についての検討は見られない。そこで今回,この点に着目し,肩関節のみならず肩甲胸郭関節機能の経時的変化について検討することとした。
【方法】
2011年9月11日より2013年9月30日までに頭頸部癌の診断にて頸部リンパ節郭清術を施行し,副神経を温存し得た症例のうち,術前より理学療法が開始でき,かつ術後6ヶ月以降の評価が可能であった8名11肩(男性7名,年齢65.9±16.9歳)を対象とした。理学療法の内容として,まず術前に術後想定される肩関節機能低下を考慮した訓練プログラム(肩関節・肩甲胸郭関節可動域訓練,筋力強化訓練)を専用のパンフレットを用い指導した。術後,同プログラムに従って退院までは連日訓練を実践。退院後に外来通院での訓練継続ついて症例毎に検討した。
評価項目は,肩甲胸郭関節機能として肩甲骨自動挙上可動域(°)および内転移動距離を評価した。肩甲骨内転移動距離はDiVetaらの方法(第3胸椎棘突起から肩峰の後角までの距離を安静時・肩甲骨随意最大内転時に測定し,それぞれ肩甲棘内縁から肩峰後角までの距離で除した値の差)を使用した。肩関節機能は自動屈曲可動域(°)と自動外転可動域(°)を評価した。これらの評価項目を術前,術後(理学療法開始時),術後6ヶ月以降に測定し,それぞれの変化について検討した。統計処理にはSPSS(Ver.21)を使用,分散分析を用いて行い,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,本学臨床研究審査委員会の承認を得て,当院における臨床研究に関する倫理指針に沿って行った。
【結果】
術後訓練開始時期は15.5±4.6日であった。肩甲骨挙上可動域は術前,術後および術後6ヶ月以降でそれぞれ15.5±5.2°, 5.0±3.2°, 12.3±4.1°であり,術後低下するが,6ヶ月以降で有意に改善した(p<0.05)。肩甲骨内転移動距離は0.22±0.11,0.15±0.11,0.23±0.08と,6ヶ月以降で増加したが,統計学的に有意差はなかった。肩関節屈曲可動域は157.7±15.4°,124.1±16.9°,135.5±15.6°。外転可動域は164.5±18.0°,109.5±26.0°,125.0±24.3°といずれも術後有意に低下し,6ヶ月以降で改善した(p<0.05)。しかし,術前に比し術後6ヶ月以降でもなお,有意に可動域が低下していた(p<0.05)。
退院後に外来通院での理学療法を継続できた症例は3例で,頻度は月1~2回であった。退院後の継続が困難であった症例が5例と多く,その理由については原疾患の継続的加療,再発や転移などに対する加療,さらには肺炎などの合併症といった医学的管理の問題が主体であった。
【考察】
我々が着目した肩甲胸郭関節機能については,肩甲骨挙上の術後の増悪と6ヶ月以降での改善の経過が明確となった。この知見は,副神経麻痺によって生じた僧帽筋上部線維の筋力低下による肩甲胸郭関節機能を客観的に捉えられたという点で極めて重要である。このことは,筋電図検査を用いた検討による経時的な僧帽筋の機能回復の報告に一致すると考えられ,この時期の理学療法の実施は可動域拡大と筋力強化に寄与し重要と考えられた。
さて,肩関節屈曲および外転可動域は術後6ヶ月以降において,いずれもADL上支障のないレベルまで達していたが,術前と比較するとなおも有意に低下し,機能的には十分に回復しないという結果も浮き彫りとなった。このことは,退院後の継続的な理学療法の重要性を示唆した。一方で,肩関節機能の改善より原疾患の治療を主に考えて療養生活を送ることを強いられ,退院後の理学療法継続が容易でない頭頚部癌患者の特性も明らかであった。今後の課題として,医学的管理すなわち“がん治療”と外来通院での理学療法の継続をバランスよく両立させていく工夫や指導の重要性が示唆された。
【理学療法研究としての意義】
頚部郭清術副神経温存例における肩甲胸郭関節可動域の変化について術前から経時的に示した。肩甲胸郭関節機能は術後一時的に低下するが,入院中の理学療法介入や自主訓練指導により改善することが明らかとなった。しかし,肩関節機能は改善の傾向は示すものの十分とは言い難く,理学療法を如何にして継続していくかという“がん患者”特有の問題点もまた明確となった。