第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節6

2014年5月30日(金) 13:30 〜 14:20 ポスター会場 (運動器)

座長:工藤波子(大阪市立大学医学部附属病院リハビリテーション部)

運動器 ポスター

[0278] 低侵襲人工股関節全置換術(MIS-THA)前後の精神状態の変移に影響を及ぼす因子の検討

二宮一成1, 池田崇1,2, 鈴木浩次1, 多門史仁1, 平川和男1 (1.湘南鎌倉人工関節センター, 2.東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科リハビリテーション医学分野)

キーワード:人工股関節全置換術(THA), 日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(JHEQ), 精神状態

【はじめに,目的】
近年,「患者主体」の主観的評価が注目され本邦において日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(JHEQ)が作成された。JHEQの特徴は,股関節疾患患者に対してメンタル尺度(JHEQメンタル)を設けて精神状態の評価を可能としたことである。これまでに人工股関節全置換術(THA)前後にShort-Form 36-Item Health Surveyを用いて患者の主観的評価を検討した報告は多くある。しかしTHA術前後患者に対してJHEQの経時的変化を調査した報告は少ない。そこでJHEQの中でも特徴的なJHEQメンタルに注目し,THA前後患者のJHEQメンタルの推移に影響を及ぼす因子を明らかにすることとした。
【方法】
対象は,平成25年1月から平成25年5月までに本研究の同意が得られ低侵襲人工股関節全置換術(MIS-THA)を予定している片側変形性股関節症女性患者49名49関節(平均年齢61.5±9.1歳,BMI22.5±2.9kg/m2)とした。評価項目は,術前とMIS-THA後2ヶ月,6ヶ月のJHEQ下位3尺度(疼痛・動作・メンタル),股関節外転筋力(外転筋力),10m歩行時間,UCLA Activity Score(UCLAAS)とした。取り込み基準は,術前,術後2ヶ月,6ヶ月において身体機能評価およびJHEQアンケートに不備なく回答が可能であり,かつ当院のクリティカルパスに準じて理学療法を行い術後5日間で退院となった者とした。外転筋の測定は,ハンドヘルドダイナモメーターを用い,最大等尺性収縮筋力をトルク体重比(Nm/kg)に算出して採用した。10m歩行時間は,出来るだけ速く歩くよう指示し測定を行った。術前後の推移は,術後2ヶ月・6ヶ月の数値から術前の数値を減じた変化量(2M-pre)(6M-pre)を算出し分析を行った。
統計解析は,JHEQメンタルの推移を従属変数とし,年齢,BMI,JHEQ疼痛・動作,外転筋力,10m歩行時間,UCLAASの推移を独立変数としてStepwise重回帰分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究内容,目的について十分な説明を行い,同意を得られた者に対して実施した。
【結果】
各評価項目を(術前,術後2ヶ月,術後6ヶ月)の順で示す。外転筋力(0.61±0.17Nm/kg,0.75±0.22Nm/kg,0.89±0.24Nm/kg),10m歩行時間(8.68±2.32秒,8.06±1.85秒,6.99±1.55秒,)UCLAAS(4.5±1.3,4.6±1.1,5.6±0.8,)JHEQ疼痛(8.4±4.8点,22.6±5.1点,23.3±4.8点)JHEQ動作(4.6±4.0点,11.2±5.7点,12.9±6.0点)JHEQメンタル(9.0±5.6点,17.9±6.7点,20.8±5.9点)であった。
またStepwise重回帰分析の結果,術後2ヶ月までの推移(2M-pre)におけるJHEQメンタルへの影響因子は,第1にJHEQ疼痛,第2に外転筋力,第3に10m歩行時間,第4にBMI,第5にJHEQ動作が有意な影響因子であった(標準偏回帰係数:JHEQ疼痛0.387,外転筋力0.398,10m歩行時間0.290,BMI0.219,JHEQ動作0.216)。また術後6ヶ月までの推移(6M-pre)においては,第1にUCLAAS,第2にJHEQ疼痛が有意な影響因子であった(標準偏回帰係数:UCLAAS0.519,JHEQ疼痛0.380)。
【考察】
本研究の結果からTHA後患者の精神状態の変移は,術前から術後2ヶ月は疼痛や外転筋力,10m歩行時間,ADL困難感の改善が影響因子であり術後6ヶ月には生活活動強度を示すUCLAASや疼痛の改善が影響因子であるということが明らかとなった。
これまでTHA後患者に対する理学療法は時期に関わらず,筋力や歩行能力の向上を中心とした内容や関節保護を念頭とし積極的な運動は避けるよう制限を強いた指導が主であった。しかし,今回の結果を踏まえると患者の精神状態の移り変わりにより沿う理学療法は,継時的変化によって異なることが考えられる。術後2ヶ月までの時期には術創部の疼痛が筋発揮や歩行,ADLの妨げになり,この結果として精神状態に影響を及ぼすという因果モデルが考えられる。よってこの時期には,創傷治癒を阻害しないようなトレーニングやADL動作指導を行い「疼痛のない日常生活の確立」が重要であると思われる。また先行研究から生活活動強度は,股関節機能よりも社会的要因と関連があると報告されている。このことを踏まえると術後2ヶ月以降には,股関節機能だけでなく仕事や余暇活動に対する参加を促していくことが重要であると思われる。
今後の課題として,THA術後において許容できる生活活動強度を明確にしていくことが必要と思われる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,MIS-THA術前後のJHEQの経時的な変化を調査し患者の精神状態の変移に影響する因子を明らかにした。これは患者の精神状態により沿う理学療法を提供するために有用である。