[0286] 書字課題におけるメンタルプラクティスの有効性
キーワード:メンタルプラクティス, 課題特異性, 転移効果
【はじめに,目的】
脳卒中患者や切断後に幻肢を有する患者に対するリハビリテーションの一手段としてメンタルプラクティス(Mental Practice:以下,MP)が挙げられる。MPの戦略には,運動課題に対して自分自身が運動するようにイメージする運動覚イメージ法(Kinesthetic Imagery:以下,KI),鏡を使って運動錯覚を生成するミラーセラピー(Mirror Therapy:以下,MT)に代表される視覚的イメージ法などがある。一般に,課題特異的練習により課題に特異的な効果が得られると同時に関連した動作の改善,すなわち転移効果も期待できるとされている。MPの有効性に関しては,書字課題時の課題遂行時間や心的時間の変化といった課題特異的評価のみで検討された報告が多く,上肢・手指機能への転移効果との関連から検討された報告は少ない。本研究は,MPの課題特異的評価と上肢機能への転移効果の評価による有効性とMPの戦略間の効果の差について検証することを目的とした。
【方法】
対象は右利きの健常大学生18名(平均年齢21.9±0.5歳)とした。対象者は無作為にKI群,MT群,対照(Control:以下,CON)群に6名ずつ振り分けた。なお,KI群とMT群をまとめてMP群と総称した。練習課題は書字課題とし,非利き手による一~十の漢数字10文字とし,文字の大きさに関する規定は設けず,自由に書字することとした。被験者は机に向かって座り,ペンを把持し「できるだけ早く,正確に書いてください」という指示の後,書字を開始した。介入場所は静かな集中しやすい部屋とした。介入方法は,はじめに3群ともに10分間の書字課題を実施する。続いて,KI群(閉眼にて書字課題のイメージを心的に実施する)とMT群(利き手の鏡映像のみが視覚入力されるミラーボックスを使用し,書字課題を実施する)のみ10分間の練習を実施した。介入期間は各群ともに4週間とし,1週間に3回の頻度にて合計12回実施した。測定は,①課題特異的評価:書字遂行時間測定,Optical Character Recognition評価法による文字の認識率(正確性)の測定,②上肢機能評価:簡易上肢機能検査(以下,STEF)の遂行時間測定,の2項目とし,介入期間前後に実施した。
データ解析には,対応のあるt検定を用いてMPの効果判定とMPの戦略間の効果の差について検証した。書字遂行時間変化とSTEF遂行時間変化の関係はPearsonの相関係数を用いて解析した。いずれも有意水準を5%に設定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には,事前に本研究の目的と方法を書面および口頭で十分に説明し,参加の同意を得た。なお,本研究は埼玉県立大学倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
MPの有効性に関して,書字遂行時間測定(秒)(MP群:CON群 介入前24.6:23.6,介入後20.1:21.9),文字認識率(%)(MP群:CON群 介入前42.1:44.2,介入後47.1:48.6),STEF所要時間(秒)(MP群:CON群 介入前7.3:7.3,介入後6.5:7.1)のすべての項目でMP群が有意に改善した(p<.05)。戦略間の検討では,書字遂行時間測定(秒)(KI群:MT群 介入前22.1:23.2,介入後21.4:20.8),STEF所要時間(秒)(KI群:MT群 介入前7.2:7.0,介入後6.9:6.4)であり,MT群に有意な短縮を認めた(p<.05)。しかし,文字認識率(%)(KI群:MT群 介入前40.2:44.1,介入後40.8:45.5)は両群間に有意差を認めなかった。
【考察】
1)MPの有効性について
本研究の結果,MPは介入前後の測定において課題特異的評価(書字遂行時間)と上肢機能評価にそれぞれ有意な改善を認めた。さらに,書字遂行時間とSTEF遂行時間に有意な相関を認めたことから,上肢機能への転移効果が生じているものと推測された。このことは,非利き手の書字動作により大脳皮質一次運動野が興奮した結果,巧緻性の改善をもたらしSTEF遂行時間の短縮に波及したことが示唆された。また,MPによる文字認識率の変化に介入前後で有意差を認めなかったのは,本研究の介入期間や頻度,書字課題の選択が不十分だった可能性がある。
2)MPの戦略間の効果の差について
本研究の結果,KI群と比較してMT群で有意な課題特異的評価,上肢機能評価の改善を認めた。MTの有効性に関しては,鏡像による視覚的フィードバックがリアルな運動イメージ形成を可能にし,非利き手における運動の企画・遂行過程に影響を与えると報告されている。このことから,MT群ではKI群におけるイメージを心的に実施するよりも改善したことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
大脳の半球間抑制の不均衡が生じている脳卒中急性期において,MPによる運動錯覚の誘起が可能であり,MPの中でもMTによる非麻痺側使用による麻痺側への転移効果が期待できるかもしれない。
脳卒中患者や切断後に幻肢を有する患者に対するリハビリテーションの一手段としてメンタルプラクティス(Mental Practice:以下,MP)が挙げられる。MPの戦略には,運動課題に対して自分自身が運動するようにイメージする運動覚イメージ法(Kinesthetic Imagery:以下,KI),鏡を使って運動錯覚を生成するミラーセラピー(Mirror Therapy:以下,MT)に代表される視覚的イメージ法などがある。一般に,課題特異的練習により課題に特異的な効果が得られると同時に関連した動作の改善,すなわち転移効果も期待できるとされている。MPの有効性に関しては,書字課題時の課題遂行時間や心的時間の変化といった課題特異的評価のみで検討された報告が多く,上肢・手指機能への転移効果との関連から検討された報告は少ない。本研究は,MPの課題特異的評価と上肢機能への転移効果の評価による有効性とMPの戦略間の効果の差について検証することを目的とした。
【方法】
対象は右利きの健常大学生18名(平均年齢21.9±0.5歳)とした。対象者は無作為にKI群,MT群,対照(Control:以下,CON)群に6名ずつ振り分けた。なお,KI群とMT群をまとめてMP群と総称した。練習課題は書字課題とし,非利き手による一~十の漢数字10文字とし,文字の大きさに関する規定は設けず,自由に書字することとした。被験者は机に向かって座り,ペンを把持し「できるだけ早く,正確に書いてください」という指示の後,書字を開始した。介入場所は静かな集中しやすい部屋とした。介入方法は,はじめに3群ともに10分間の書字課題を実施する。続いて,KI群(閉眼にて書字課題のイメージを心的に実施する)とMT群(利き手の鏡映像のみが視覚入力されるミラーボックスを使用し,書字課題を実施する)のみ10分間の練習を実施した。介入期間は各群ともに4週間とし,1週間に3回の頻度にて合計12回実施した。測定は,①課題特異的評価:書字遂行時間測定,Optical Character Recognition評価法による文字の認識率(正確性)の測定,②上肢機能評価:簡易上肢機能検査(以下,STEF)の遂行時間測定,の2項目とし,介入期間前後に実施した。
データ解析には,対応のあるt検定を用いてMPの効果判定とMPの戦略間の効果の差について検証した。書字遂行時間変化とSTEF遂行時間変化の関係はPearsonの相関係数を用いて解析した。いずれも有意水準を5%に設定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には,事前に本研究の目的と方法を書面および口頭で十分に説明し,参加の同意を得た。なお,本研究は埼玉県立大学倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
MPの有効性に関して,書字遂行時間測定(秒)(MP群:CON群 介入前24.6:23.6,介入後20.1:21.9),文字認識率(%)(MP群:CON群 介入前42.1:44.2,介入後47.1:48.6),STEF所要時間(秒)(MP群:CON群 介入前7.3:7.3,介入後6.5:7.1)のすべての項目でMP群が有意に改善した(p<.05)。戦略間の検討では,書字遂行時間測定(秒)(KI群:MT群 介入前22.1:23.2,介入後21.4:20.8),STEF所要時間(秒)(KI群:MT群 介入前7.2:7.0,介入後6.9:6.4)であり,MT群に有意な短縮を認めた(p<.05)。しかし,文字認識率(%)(KI群:MT群 介入前40.2:44.1,介入後40.8:45.5)は両群間に有意差を認めなかった。
【考察】
1)MPの有効性について
本研究の結果,MPは介入前後の測定において課題特異的評価(書字遂行時間)と上肢機能評価にそれぞれ有意な改善を認めた。さらに,書字遂行時間とSTEF遂行時間に有意な相関を認めたことから,上肢機能への転移効果が生じているものと推測された。このことは,非利き手の書字動作により大脳皮質一次運動野が興奮した結果,巧緻性の改善をもたらしSTEF遂行時間の短縮に波及したことが示唆された。また,MPによる文字認識率の変化に介入前後で有意差を認めなかったのは,本研究の介入期間や頻度,書字課題の選択が不十分だった可能性がある。
2)MPの戦略間の効果の差について
本研究の結果,KI群と比較してMT群で有意な課題特異的評価,上肢機能評価の改善を認めた。MTの有効性に関しては,鏡像による視覚的フィードバックがリアルな運動イメージ形成を可能にし,非利き手における運動の企画・遂行過程に影響を与えると報告されている。このことから,MT群ではKI群におけるイメージを心的に実施するよりも改善したことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
大脳の半球間抑制の不均衡が生じている脳卒中急性期において,MPによる運動錯覚の誘起が可能であり,MPの中でもMTによる非麻痺側使用による麻痺側への転移効果が期待できるかもしれない。