[0298] 訪問理学療法を利用する要介護高齢者を対象とした2.4m最速歩行時間に関連する運動機能要素
Keywords:訪問理学療法, 高齢者, 歩行
【はじめに,目的】
歩行能力は高齢者の代表的な運動能力指標であり,高齢者を対象とする理学療法において歩行能力の評価は不可欠である。医療機関や施設において歩行能力を評価する場合,5mから10mの歩行路が用いられることが多い。しかしながら,高齢者の自宅でそのようなスペースを確保することは困難であり,短い歩行路で歩行能力を評価する方法が必要である。
Guralnik JMらは,自宅で高齢者の歩行能力を評価することを目的として,2.4mの距離を歩く所要時間を測定するテスト(2.4m歩行テスト)を開発した。我々は,この2.4m歩行テストを本邦の訪問理学療法の分野に応用することを目指し,訪問理学療法を利用する要介護高齢者を対象として,測定の信頼性,ならびに,実際に高齢者の自宅で測定できるか否かその実現可能性について報告してきた。今回,2.4m歩行テストの基準関連妥当性を検討するべく,2.4m歩行テストの成績に関連する運動機能要素を検討したので報告する。
【方法】
対象者は,2012年1月から2013年8月までの間に新規で訪問理学療法を開始した在宅要介護高齢者連続127名の中で,取り込み基準(65歳以上,かつ,自宅内歩行が可能である)を満たし,除外基準(Mental State Questionnaireの誤解答数が9以上の者,Brunnstrom Recovery StageがStageIV以下の重度の運動麻痺を有する者,神経筋疾患を有する者,後述する運動機能測定が不可能な者)に該当しない41名(男性16名,女性25名,平均年齢81.0歳)であった。介護度は要支援が17名,要介護1-2が15名,要介護3-5が9名であった。主たる疾患の内訳は,脳血管疾患4名,骨関節疾患23名,内科疾患5名,呼吸循環器疾患5名,その他4名であった。
測定項目は2.4m歩行テストと運動機能の指標であり,訪問理学療法開始時に担当理学療法士が測定を行った。2.4m歩行テストはGuralnik JMらの方法に準じて実施し,最速歩行による歩行所要時間を2回測定した。最も所要時間が短かった値(2.4m最速歩行時間)を採用した。運動機能の指標として,等尺性膝伸展筋力体重比(膝筋力)とModified-Functional Reach Test(MFRT)の測定を行った。膝筋力は,両下肢の測定値の中で低い値を示した方を障害側膝筋力,高い方を健常側膝筋力,両側の平均値を平均膝筋力と定義した。MFRTは,3回測定したうちの最大値を採用した。統計解析は,まず,2.4m最速歩行時間と一般属性,運動機能の相関関係を明らかにするために単変量解析(Pearsonの積率相関係数とSpearmanの順位相関係数の算出)を行った。次に,2.4m最速歩行時間に関連する運動機能要素を明らかにするために重回帰分析を行った。年齢と性別は調整変数として強制投入し,2.4m最速歩行時間を従属変数,単変量解析で有意な相関関係を認めた運動機能を独立変数とするステップワイズ法を用いた。統計解析には,IBM SPSS Statistics(Version21)を用い,両側検定にて危険率5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,訪問理学療法の概要およびデータの学術的利用について事前に対象者に対して説明し,同意を得て実施した。
【結果】
2.4m最速歩行時間と有意な相関関係を認めた変数は,障害側膝筋力(r=-0.51,p=0.001),健常側膝筋力(r=-0.46,p=0.003),平均膝筋力(r=-0.52,p=0.001),MFRT(r=-0.49,p=0.001)であった。性別(r=-0.14,p=0.39)と年齢(r=-0.20,p=0.22)は,2.4m最速歩行時間と有意な相関関係を認めなかった。次に,独立変数に平均膝筋力とMFRTを採用した重回帰分析を行った結果,2.4m最速歩行時間と有意な関連が認められた項目は,MFRT(β=-0.48),平均膝筋力(β=-0.36)であった。自由度調整済み決定係数は0.41であった。
【考察】
膝伸展筋力と立位バランス能力は,2.4m最速歩行時間に独立して影響を及ぼす運動機能であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,2.4m最速歩行時間が訪問理学療法を利用する在宅要介護高齢者の膝伸展筋力と立位バランス能力を反映する歩行能力の指標であることを示したことである。これは,膝伸展筋力と立位バランス能力を向上させる運動療法が,訪問理学療法を利用する在宅要介護高齢者の歩行能力の改善に寄与することを示唆している。
歩行能力は高齢者の代表的な運動能力指標であり,高齢者を対象とする理学療法において歩行能力の評価は不可欠である。医療機関や施設において歩行能力を評価する場合,5mから10mの歩行路が用いられることが多い。しかしながら,高齢者の自宅でそのようなスペースを確保することは困難であり,短い歩行路で歩行能力を評価する方法が必要である。
Guralnik JMらは,自宅で高齢者の歩行能力を評価することを目的として,2.4mの距離を歩く所要時間を測定するテスト(2.4m歩行テスト)を開発した。我々は,この2.4m歩行テストを本邦の訪問理学療法の分野に応用することを目指し,訪問理学療法を利用する要介護高齢者を対象として,測定の信頼性,ならびに,実際に高齢者の自宅で測定できるか否かその実現可能性について報告してきた。今回,2.4m歩行テストの基準関連妥当性を検討するべく,2.4m歩行テストの成績に関連する運動機能要素を検討したので報告する。
【方法】
対象者は,2012年1月から2013年8月までの間に新規で訪問理学療法を開始した在宅要介護高齢者連続127名の中で,取り込み基準(65歳以上,かつ,自宅内歩行が可能である)を満たし,除外基準(Mental State Questionnaireの誤解答数が9以上の者,Brunnstrom Recovery StageがStageIV以下の重度の運動麻痺を有する者,神経筋疾患を有する者,後述する運動機能測定が不可能な者)に該当しない41名(男性16名,女性25名,平均年齢81.0歳)であった。介護度は要支援が17名,要介護1-2が15名,要介護3-5が9名であった。主たる疾患の内訳は,脳血管疾患4名,骨関節疾患23名,内科疾患5名,呼吸循環器疾患5名,その他4名であった。
測定項目は2.4m歩行テストと運動機能の指標であり,訪問理学療法開始時に担当理学療法士が測定を行った。2.4m歩行テストはGuralnik JMらの方法に準じて実施し,最速歩行による歩行所要時間を2回測定した。最も所要時間が短かった値(2.4m最速歩行時間)を採用した。運動機能の指標として,等尺性膝伸展筋力体重比(膝筋力)とModified-Functional Reach Test(MFRT)の測定を行った。膝筋力は,両下肢の測定値の中で低い値を示した方を障害側膝筋力,高い方を健常側膝筋力,両側の平均値を平均膝筋力と定義した。MFRTは,3回測定したうちの最大値を採用した。統計解析は,まず,2.4m最速歩行時間と一般属性,運動機能の相関関係を明らかにするために単変量解析(Pearsonの積率相関係数とSpearmanの順位相関係数の算出)を行った。次に,2.4m最速歩行時間に関連する運動機能要素を明らかにするために重回帰分析を行った。年齢と性別は調整変数として強制投入し,2.4m最速歩行時間を従属変数,単変量解析で有意な相関関係を認めた運動機能を独立変数とするステップワイズ法を用いた。統計解析には,IBM SPSS Statistics(Version21)を用い,両側検定にて危険率5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,訪問理学療法の概要およびデータの学術的利用について事前に対象者に対して説明し,同意を得て実施した。
【結果】
2.4m最速歩行時間と有意な相関関係を認めた変数は,障害側膝筋力(r=-0.51,p=0.001),健常側膝筋力(r=-0.46,p=0.003),平均膝筋力(r=-0.52,p=0.001),MFRT(r=-0.49,p=0.001)であった。性別(r=-0.14,p=0.39)と年齢(r=-0.20,p=0.22)は,2.4m最速歩行時間と有意な相関関係を認めなかった。次に,独立変数に平均膝筋力とMFRTを採用した重回帰分析を行った結果,2.4m最速歩行時間と有意な関連が認められた項目は,MFRT(β=-0.48),平均膝筋力(β=-0.36)であった。自由度調整済み決定係数は0.41であった。
【考察】
膝伸展筋力と立位バランス能力は,2.4m最速歩行時間に独立して影響を及ぼす運動機能であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,2.4m最速歩行時間が訪問理学療法を利用する在宅要介護高齢者の膝伸展筋力と立位バランス能力を反映する歩行能力の指標であることを示したことである。これは,膝伸展筋力と立位バランス能力を向上させる運動療法が,訪問理学療法を利用する在宅要介護高齢者の歩行能力の改善に寄与することを示唆している。