第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

生体評価学1

Fri. May 30, 2014 2:25 PM - 3:15 PM 第4会場 (3F 302)

座長:中山恭秀(東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科)

基礎 口述

[0299] 脳卒中片麻痺者における感覚操作の立位保持能力に及ぼす影響と歩行能力との関連性

大河原七生1,2, 臼田滋2 (1.公立七日市病院, 2.群馬大学大学院保健学研究科保健学専攻)

Keywords:脳卒中片麻痺, 立位バランス, 歩行

【はじめに,目的】
立位バランスと歩行能力との関連性はこれまで多くの研究でその重要性が示唆されてきた。昨年の本学会にて,脳卒中片麻痺者を対象に,閉眼や発泡素材を用いることで,視覚や下肢体性感覚情報を操作した際の静的立位保持能力と,機能障害や動的バランス,歩行能力との関連性について報告した。感覚を操作した際の立位保持能力は,下肢の表在,深部感覚や動的バランス,歩行能力と相関を認め,閉眼や発泡素材を使用した立位保持能力評価の有用性が示唆された。今回は,感覚情報を操作した際の静的立位保持能力の評価による歩行能力の判別精度を検討することを目的とする。
【方法】
対象は日高病院回復期病棟入院患者および通所リハビリテーションを利用している脳卒中片麻痺者66名であった。取り込み基準は研究趣旨が理解可能で,上肢支持なしで立位保持が15秒以上可能であることとした。
本研究では立位バランス指標として,硬い床面(Firm Floor;FF)と発泡素材による軟らかい床面(Foam Rubber;FR)にて,各開眼,閉眼(Eyes Open;EO,Eyes Closed;EC)の4条件で,静的立位保持時間を測定した。各条件において30秒間の立位保持の可否から,以下の5段階のStageに分類した:Stage1;全条件で立位保持不可能,Stage2;FFEOのみ可能,Stage3;FFEOとFFECは可能だがFREOは不可能,Stage4;FRECのみ不可能,Stage5;全条件で立位保持可能。また,全ての対象者の下肢の表在感覚と振動感覚を検査し,麻痺側下肢運動機能としてBrunnstrom Recovery Stage(Br.Stage),動的バランス及び歩行能力の指標としてTimed Up and Go Test(TUG),Functional Ambulation Category(FAC)を測定した。歩行能力の判別精度の検討には,Andersonら(2006)の報告から脳卒中片麻痺患者におけるTUGのカットオフ値14.0秒を基準とした転倒の危険性の低い対象と,FAC4以上の平地歩行が自立している対象の,静的立位バランスのStageによる判別精度について,それぞれの感度,特異度を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は日高病院倫理委員会の承認を得ており,対象者には口頭にて研究の説明を十分に行い,書面にて同意を得た上で測定を実施した。
【結果】
対象者の平均年齢は69.4±11.2歳(平均±標準偏差),罹患期間は1408.6±1834.3日であった。各Stageの人数はStage1が2名,Stage2が7名,Stage3が14名,Stage4が20名,Stage5が23名であった。
FAC4以上の平地歩行自立度を判別する際の各Stageの感度,特異度は,Stage2で感度53.1%,特異度100%,Stage3でそれぞれ59.6%,100%,Stage4で72.1%,87.0%,Stage5で87.0%,67.4%であり,Stage4で感度,特異度ともに高い結果が得られた。また,TUGのカットオフ値による転倒の危険の低い対象を判別する際の各Stageの感度,特異度はそれぞれ,Stage2は感度30.0%,特異度100%,Stage3でそれぞれ31.6%。100%,Stage4で41.5%,95.2%,Stage5で56.5%,87.5%であり,Stage5の対象でも,TUGがカットオフ値の14.0秒より高値である対象が23名中10名に認められた。この10名の平均年齢は66.3±13.0歳,罹患期間は959.9±1474.8日であり,全体に比して年齢が若く,罹患期間が短い対象を多く認めた。転倒の危険の低い対象の判別においては,歩行自立度と比較して,その判別精度はやや低かった。
【考察】
本研究の結果から,今回用いた感覚情報を操作した際の静的立位バランスのStageによって歩行自立度や転倒リスクの判別がある程度可能であった。歩行自立度に関しては,FFECとFREOの可否を評価することで,その判別が可能であった。また,TUGのカットオフ値による転倒の危険の低い対象の判別に関しては,FREOとFRECの可否を評価することで,その判別がある程度可能であった。しかし,歩行自立度に比して,その判別精度は低く,本研究のような静的立位バランス評価結果だけでは,転倒リスクを十分に評価できず,個別的,総合的に評価を行う必要があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で検討した立位バランス評価のStageによって,FACやTUGを基準とした歩行自立度や転倒リスクの判別が可能である。立位保持条件に閉眼や発泡素材を使用した軟らかな床面上での立位を含めた静的立位保持能力評価は,非常に簡便で,短時間に安全に実施可能である。今回使用した静的立位バランスのStageは,各条件の立位保持の可否を順序尺度で段階付けしたものであり,その信頼性や妥当性をさらに検証することで,今後の臨床適用が期待される。