[0302] 地域に在住する一般の高齢者と比較した場合の大腿骨近位部骨折患者の退院時の歩行
キーワード:10m歩行テスト, 理学療法, 大腿骨近位部骨折
【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折後(以下骨折後)の歩行能力については,歩行の補助具の有無や種類,自立度といった質的な変化の報告が多い。その歩行の客観的なデータを測定し報告したものは少ない。骨折後の患者の退院直前の歩行能力を歩行速度・歩幅・歩行率・歩行比を用いて地域に在住する一般の高齢者(以下地域高齢者)と比較することにより,骨折後の歩行の特徴を明確にできると考えられた。また年齢は骨折後の歩行能力の改善に影響を与える因子とされているが,獲得された歩行の年齢による違いは検証されていない。骨折後の歩行の特徴が明確になることで評価に基づいたプログラムの立案だけでなく,前方視的に戦略をもったアプローチが可能になり,理学療法の効果の検証やプログラムの妥当性の検証につながると考えられた。そこで骨折後の患者の退院直前の歩行能力を10m歩行テストで得られたデータを使用して評価し,年齢による差異の検証と,地域高齢者との比較によりその特徴を把握することとした。又,その結果より骨折後の理学療法について検討することとした。
【方法】
対象者:2010年4月~2013年3月までに大腿骨近位部骨折の診断で当院に入院し理学療法を施行した患者のうち,10m以上の実用的な歩行が獲得でき,かつ10m歩行テストを行っていた75名。脳血管疾患・反対側の骨折の既往がある患者は除外。測定方法:カルテより後方視的に退院直前に測定された自由歩行における10m歩行の所要時間・歩数を調査し,歩行速度・歩幅・歩行率・歩行比を算出。10m歩行の測定回数は1回。地域高齢者の歩行のデータについては古名ら(1995)のデータを利用した。統計学的手法:対象者を64歳以下と80歳以上,65~79歳までは5歳ごとで区切りグループ化。測定項目ごとに年齢による違いを一元配置分散分析を用いて検証。地域高齢者との比較は,データをグラフ化し視覚的に行った。64歳以下の歩行データについて報告が見つからなかったために対象者と地域高齢者との比較は行わなかった。
【倫理的配慮,説明と同意】
入院時にカルテの情報を学会等で利用されることについて説明し同意を得た。
【結果】
歩行速度,歩幅,歩行比では年齢による有意差を認め(0.6±0.2m/秒F(4,70)=2.552 p=0.047 CI95%=0.0017-0.49,0.4±0.1m F(4,70)=4.130 p=0.005 CI95%=0.0139-0.22,0.0043±0.0011 F(4,70)=2.709 p=0.037 CI95%=0.00007-0.0023),歩行率では有意差を認めなかった(90.3±18.3歩/秒F(4,70)=0.499 p=0.737)。グラフを用いて地域高齢者と比較すると,男女ともに骨折により歩行速度・歩幅・歩行率が低下していた。しかしいずれの項目も80歳以上の男性では地域高齢者との差が少なかった。また歩行比も低下傾向を示すが,男性で低下が著明で,女性では地域高齢者と差が少なかった。
【考察】
10m歩行テストの結果を用いて,骨折後の患者の歩行を評価することができた。地域高齢者と比較し,骨折により歩行速度,歩幅,歩行率が低下することが判明した。その低下の仕方には,性別と年齢による違いがある可能性があった。女性では骨折してもすべての項目が地域高齢者と同じような加齢による低下傾向を示した。男性では,79歳以下では女性と同様の傾向を示すが,80歳以上では地域高齢者と同程度の値であった。歩行比では,女性は骨折による低下をほとんど認めず,男性でのみ低下していた。以上のことから,骨折による歩行能力の低下の要因は,歩幅の縮小による影響が大きいと考えられた。女性では,すべての年代で歩幅を延長させることを目標にアプローチすることにより歩行能力の向上が期待できる。男性では,79歳以下と80歳以上で戦略を変更する必要があると考えられた。79歳以下では歩幅の延長と歩行率の向上を目指すことが重要であり,80歳以上ではこれまでの理学療法を継続するだけで地域高齢者と同等の歩行能力が獲得できる可能性があった。つまり,79歳以下の男性と女性では,歩幅の延長に繋がるような立位での筋力増強トレーニングや動作練習が有効で,合わせて歩行率の向上のために早期からの歩行練習を実施することが能力向上につながると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
10m歩行テストの結果を地域高齢者と比較することにより,骨折後の歩行の特徴を歩行速度だけにとどまらない視点で評価することができた。その特徴には性別と年齢による違いがあり,性別と年齢を考慮して理学療法の方針を立案する必要性が示された。女性と79歳以下の男性においては歩幅の延長と歩行率の向上を目指すことが歩行能力の向上につながると考えられた。80歳以上の男性では,これまでの理学療法を継続することで地域高齢者と同等の能力が獲得できると考えられた。
大腿骨近位部骨折後(以下骨折後)の歩行能力については,歩行の補助具の有無や種類,自立度といった質的な変化の報告が多い。その歩行の客観的なデータを測定し報告したものは少ない。骨折後の患者の退院直前の歩行能力を歩行速度・歩幅・歩行率・歩行比を用いて地域に在住する一般の高齢者(以下地域高齢者)と比較することにより,骨折後の歩行の特徴を明確にできると考えられた。また年齢は骨折後の歩行能力の改善に影響を与える因子とされているが,獲得された歩行の年齢による違いは検証されていない。骨折後の歩行の特徴が明確になることで評価に基づいたプログラムの立案だけでなく,前方視的に戦略をもったアプローチが可能になり,理学療法の効果の検証やプログラムの妥当性の検証につながると考えられた。そこで骨折後の患者の退院直前の歩行能力を10m歩行テストで得られたデータを使用して評価し,年齢による差異の検証と,地域高齢者との比較によりその特徴を把握することとした。又,その結果より骨折後の理学療法について検討することとした。
【方法】
対象者:2010年4月~2013年3月までに大腿骨近位部骨折の診断で当院に入院し理学療法を施行した患者のうち,10m以上の実用的な歩行が獲得でき,かつ10m歩行テストを行っていた75名。脳血管疾患・反対側の骨折の既往がある患者は除外。測定方法:カルテより後方視的に退院直前に測定された自由歩行における10m歩行の所要時間・歩数を調査し,歩行速度・歩幅・歩行率・歩行比を算出。10m歩行の測定回数は1回。地域高齢者の歩行のデータについては古名ら(1995)のデータを利用した。統計学的手法:対象者を64歳以下と80歳以上,65~79歳までは5歳ごとで区切りグループ化。測定項目ごとに年齢による違いを一元配置分散分析を用いて検証。地域高齢者との比較は,データをグラフ化し視覚的に行った。64歳以下の歩行データについて報告が見つからなかったために対象者と地域高齢者との比較は行わなかった。
【倫理的配慮,説明と同意】
入院時にカルテの情報を学会等で利用されることについて説明し同意を得た。
【結果】
歩行速度,歩幅,歩行比では年齢による有意差を認め(0.6±0.2m/秒F(4,70)=2.552 p=0.047 CI95%=0.0017-0.49,0.4±0.1m F(4,70)=4.130 p=0.005 CI95%=0.0139-0.22,0.0043±0.0011 F(4,70)=2.709 p=0.037 CI95%=0.00007-0.0023),歩行率では有意差を認めなかった(90.3±18.3歩/秒F(4,70)=0.499 p=0.737)。グラフを用いて地域高齢者と比較すると,男女ともに骨折により歩行速度・歩幅・歩行率が低下していた。しかしいずれの項目も80歳以上の男性では地域高齢者との差が少なかった。また歩行比も低下傾向を示すが,男性で低下が著明で,女性では地域高齢者と差が少なかった。
【考察】
10m歩行テストの結果を用いて,骨折後の患者の歩行を評価することができた。地域高齢者と比較し,骨折により歩行速度,歩幅,歩行率が低下することが判明した。その低下の仕方には,性別と年齢による違いがある可能性があった。女性では骨折してもすべての項目が地域高齢者と同じような加齢による低下傾向を示した。男性では,79歳以下では女性と同様の傾向を示すが,80歳以上では地域高齢者と同程度の値であった。歩行比では,女性は骨折による低下をほとんど認めず,男性でのみ低下していた。以上のことから,骨折による歩行能力の低下の要因は,歩幅の縮小による影響が大きいと考えられた。女性では,すべての年代で歩幅を延長させることを目標にアプローチすることにより歩行能力の向上が期待できる。男性では,79歳以下と80歳以上で戦略を変更する必要があると考えられた。79歳以下では歩幅の延長と歩行率の向上を目指すことが重要であり,80歳以上ではこれまでの理学療法を継続するだけで地域高齢者と同等の歩行能力が獲得できる可能性があった。つまり,79歳以下の男性と女性では,歩幅の延長に繋がるような立位での筋力増強トレーニングや動作練習が有効で,合わせて歩行率の向上のために早期からの歩行練習を実施することが能力向上につながると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
10m歩行テストの結果を地域高齢者と比較することにより,骨折後の歩行の特徴を歩行速度だけにとどまらない視点で評価することができた。その特徴には性別と年齢による違いがあり,性別と年齢を考慮して理学療法の方針を立案する必要性が示された。女性と79歳以下の男性においては歩幅の延長と歩行率の向上を目指すことが歩行能力の向上につながると考えられた。80歳以上の男性では,これまでの理学療法を継続することで地域高齢者と同等の能力が獲得できると考えられた。