第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

呼吸4

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 第5会場 (3F 303)

座長:山下康次(市立函館病院中央医療技術部リハビリ技術科)

内部障害 口述

[0303] 人工呼吸器の抜管前評価の有効性の検討

平山晃介1,2, 辻村康彦3, 片岡竹弘1, 戸部一隆1, 江里健太1, 中川慎也1, 安藤守秀4, 田平一行5 (1.大垣市民病院医療技術部リハビリテーションセンター, 2.畿央大学畿央大学大学院健康科学研究科, 3.小牧市民病院リハビリテーション科, 4.大垣市民病院呼吸器内科, 5.畿央大学畿央大学健康科学部理学療法学科)

キーワード:人工呼吸器, 抜管, 去痰不全

【はじめに,目的】ICUにおける挿管人工呼吸管理患者における抜管の失敗は人工呼吸管理症例の13-19%にみられると報告されており,人工呼吸管理日数,ICU在室日数の延長や,高い死亡率につながることが知られている。このため抜管失敗を防ぐことはICUにおける呼吸管理の重要な課題の一つであると考えられる。抜管失敗の防止のためには以前より系統的な抜管前評価に基づく計画抜管の重要性が指摘されている。当院では以前より理学療法士がICUに常駐し,急性期の呼吸管理に対して積極的なサポートを行っており,抜管の支援も重要な職務の一つとなっている。私たちは今回,抜管前の系統的評価のために新たに抜管前評価表を作成し,それが抜管失敗防止にどのように寄与するかを前向きに検証することとした。
【方法】平成24年1月より平成25年6月に当院ICUにて挿管人工呼吸管理を実施し,計画抜管に至った症例41例を検討対象とした。このうち平成24年1月から12月に入室した23例(T1群:年齢67.8±15.8才,男性12例,女性11例)はRASSで評価した覚醒度およびカフリークテストによる上気道評価によって抜管の可否を判断し,平成25年1月から6月までの18例(T2群:年齢65.3±11.7才,男性13例,女性5例)については覚醒度とカフリークテストの基準を厳格化するとともに自発呼吸テストによる呼吸状態,循環動態の評価および咳嗽能力評価を加えた新たな系統的評価表を用いて抜管前評価を実施した。このT1群,T2群間で再挿管率,再挿管に至った理由について比較検討を行った。また抜管成功例,失敗例の間で評価指標にどのような差があったかについても合わせ検討を行った。統計学的解析にはFisher検定およびt検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究の内容および意義,危険性などについては患者本人または家族に対して文書による説明を行い口頭にて同意を得た。また本研究の内容については当院治験審査委員会の承認を得た。
【結果】再挿管率はT1群で26.1%,T2群では11.1%で,T2群で低下の傾向がみられたが差は有意ではなかった。再挿管の理由はT1群では去痰不全4例,胸部の創部離開1例,循環不全が1例であったが,T2群では気道出血1例,反回神経麻痺による誤嚥が1例であった。抜管成功例と失敗例での比較では酸素化,換気パターン,意識レベル,心拍数変動などの指標には有意差を認めなかった。
【考察】新たな系統的評価表を抜管前評価に用いたT2群ではT1群と比較して再挿管率に低下の傾向がみられ,系統的評価表の使用が有用であったことが示唆された。T2群ではT1群と比較し去痰不全による抜管失敗がみられず,これは咳嗽能力評価が有効であった可能性が考えられた。また覚醒度評価の厳格化は指示理解を良好にし,排痰などの術後呼吸管理に好影響を与えたものと思われた。抜管成功,失敗例の間で酸素化や換気パターンなどの背景に差を認めなかったのは検討期間を通してこれらの指標についての評価が厳格に行われており,抜管の成否を分ける因子として作用しなかったことを示すものと思われた。
【理学療法学としての意義】集中治療室における理学療法士の役割は単なる胸部理学療法の実施のみではなく,病態の評価や呼吸管理のサポートなど多岐にわたる。抜管の失敗はICUでの呼吸管理における最も重大なトラブルの一つであり,その防止に対して理学療法士が行う抜管前評価が寄与し得る可能性を示した本研究はICUでの呼吸管理における理学療法士の役割の重要性を示す上で大きな貢献があるものと思われる。