第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

呼吸4

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 第5会場 (3F 303)

座長:山下康次(市立函館病院中央医療技術部リハビリ技術科)

内部障害 口述

[0307] 徳島県における理学療法士の吸引行為に関する実態調査

柳澤幸夫1, 中村武司1, 松尾善美2 (1.徳島県鳴門病院リハビリテーション部, 2.武庫川女子大学健康運動科学研究所)

キーワード:理学療法士, 吸引, 実態調査

【はじめに】平成22年4月30日に厚生労働省医政局より「痰の吸引」の医療行為が認められた。この吸引行為(以下,吸引)の認可によって,理学療法士は痰喀出練習を実施する際に喀痰吸引が認められたことから,対象者に対する呼吸ケアがより包括的にアプローチすることができることになり,さらなる積極的な介入が期待されるようになった。しかし,現場では吸引に対して不安を感じている理学療法士も少なくなく,認可されてから3年となるが,実際にどの程度,吸引を実施しているのか,また実施しない理由などについての報告は少ない。したがって,本研究では理学療法士にアンケートを行い,臨床現場における吸引の現状および吸引と関連要因との関係を明らかにすることを目的とした。本研究は,大同生命厚生事業団の助成を受けた研究の一部として実施した。
【方法】対象は徳島県理学療法士会に所属し,病院,施設登録の理学療法士715名を対象とした。アンケート調査期間は,平成25年3月1日からの2週間とし,同意を得た上で無記名にて記入後郵送にて回収した。調査内容は,対象者の属性,経験年数,吸引の有無,吸引をしていない理由,吸引ができれば良かった場面の有無,今後の吸引技術習得の希望の有無,日本理学療法士協会の吸引プロトコルおよび日本呼吸療法医学会の気管吸引ガイドラインの認知度,3学会合同呼吸療法認定士資格の有無,BLS受講の有無とした。統計解析は,SPSS17.0Jを用いて,各回答に対して単純集計を行い,さらに吸引実施の有無と経験年数(5年未満と5年以上の2群),吸引プロトコルや気管吸引ガイドラインの認知度,3学会合同呼吸療法認定士資格の有無,BLS受講の有無との各関連をχ2検定を用いて検討した。なお,危険率5%未満を有意差判定の基準とした。
【説明と同意】本研究の開始にあたり,当院倫理審査委員会の承認を得た(承認番号1302)。また,研究概要を紙面にて説明し,同意を得た上で返信を依頼した。
【結果】715名中,540名から回答を得た(回収率75.5%)。経験年数は,5年未満42.6%,10年未満75.1%であった。吸引の実施は,経験有は115名(21.3%)で425名(78.7%)が経験無であった。吸引をしていない理由では,看護師に依頼342名(81.6%),吸引に関する専門的知識がない196名(46.8%),所属施設での吸引の制限108名(25.1%),吸引が必要な対象者がいない88名(21.0%),緊急時対応に不安86名(20.5%),リスク管理に自信がない74名(17.7%),家族やヘルパーに依頼37名(8.8%)であった。吸引ができれば良かった場面の有無は,202名(49.1%)が有であった。現在,吸引が非実施の方での今後の吸引技術習得の希望の有無は,365名(87.5%)が有であった。吸引実施の有無との各関連では,経験年数は有意差を認めず(p=0.594),吸引プロトコル(p<0.05)や気管吸引ガイドラインの認知度(p<0.01),3学会合同呼吸療法認定士資格の有無は有意差を認めた(p<0.01)。BLS受講の有無とは有意差を認めなかった(p=0.506)。
【考察】本調査から,吸引の実施状況は認可されてから3年が経過しているが,実施経験は21.3%と低い結果であった。これは徳島県のみを対象としているため,本県の傾向がでているともいえるが,他県やさらに大規模での調査と比較が必要である。吸引をしていない理由には,専門的な知識不足やリスク管理に自信がないこと,緊急時対応に不安があることなどが挙げられており,これらの課題に関しては吸引に関する専門研修などで解決可能な部分と考えられた。他には所属施設によって吸引を制限しており,上記の課題を解決することや所属施設内での吸引マニュアル作成などの取り組みが必要である。また,吸引の経験がない方にも,これまでに吸引が必要な場面が多くあったことや吸引技術の習得を希望する方が多いことから,臨床現場では吸引に関する教育的な支援対策が急務であることが明らかとなった。吸引の実施に関しては吸引プロトコルや気管吸引ガイドラインの認知度をさらに向上させることや各学術団体の呼吸器系の専門的資格の取得を促すことは吸引に関心を持ち,安全な技術習得にむけての動機付けになるのではないかと考えられた。今後,吸引に関する技術講習は,所属施設内で研修を受けることが望ましいが,実際には設備や消耗品などが必要であり,施設の規模によっては研修が実施できない施設も多くあることから,地域規模で各施設が連携し,吸引に関する専門的研修会を継続的に開催することが必要である。
【理学療法学研究としての意義】本調査によって,臨床現場では吸引の実施率は低く,課題も多くあることから,解決に向けた地域規模での研修会開催などの支援が必要であることが明らかとなった。