[0322] 知覚・痛覚定量分析装置を用いた疼痛評価
キーワード:疼痛評価, QOL, 変形性膝関節症
【はじめに,目的】近年QOLの重要性が認識されているが,疼痛はQOLを低下させる大きな要因となりうる。嶋津らが疼痛を定量的に評価する方法として開発した知覚・痛覚定量分析装置Pain Vision PS-2100(ニプロ株式会社)は,新しい疼痛評価として期待されている。我々は本学会において,下肢症状を有する腰部疾患患者39名に対して,疾患特異的QOL評価であるRDQと疼痛評価との関連性を報告した。その結果,RDQとPain Visionにより算出された痛み度には有意な相関を認めた。また,RDQとNumeric Rating Scale(以下NRS)にも有意な相関を認めた。これらの結果から,下肢痛を有する腰部疾患患者に対してPain Visionが有用であると考察した。腰部疾患由来の下肢症状は侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛が混在する例が多いのに対して,変形性膝関節症などの関節由来の疼痛は純粋な侵害受容性疼痛に分類される。そこで今回は,膝関節痛を有する変形性膝関節症患者を対象に,Pain Visionの有用性に関して調査した。
【方法】変形性膝関節症患者37名(男性11名,女性26名,平均年齢60.7±13.8)とした。症状持続期間は16.1±35.2カ月であった。Kellgren-Lawrenceの分類(以下K-L)はgradeIが12名,gradeIIが15名,gradeIIIが7名,gradeIVが3名であった。それらの患者に対し,変形性膝関節症の疾患特異的QOL評価であるJapanese Knee Osteoarthritis Measure(以下JKOM),Pain Visionにより算出した痛み度,NRS,Range Of Motion(以下ROM)を調査した。Pain Visionの測定は,はじめに電極を前腕内側に装着し,最小感知電流値を測定した。次いで,対象者が感じている疼痛と電気刺激の平衡を感知した値から,痛み対応電流値を得た。これらの値から(痛み対応電流-最小感知電流)/最小感知電流×100の式に当てはめ痛み度を算出した。解析は,JKOMと各測定項目の関係をPearsonの相関係数にて検討した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に同意を得た上で測定した。
【結果】それぞれの測定結果はJKOM 24.1±13.7点,NRS 4.1±2.5,痛み度193.1±179.9,ROMは屈曲140.3±8.9,伸展-2.9±4.0であった。JKOMとの相関係数はNRS(r=0.64),屈曲ROM(r=-0.62),伸展ROM(r=-0.45)でありそれぞれ有意な相関(p<0.01)を認めた。またJKOMとK-Lの相関係数はr=0.38であり有意な相関(p<0.05)を認めた。JKOMと痛み度の相関係数はr=-0.13であり相関は認めなかった。
【考察】我々は本学会において,下肢症状を有する腰部疾患患者において疾患特異的QOL評価と痛み度の関連性を報告した。今回の変形性膝関節症患者を対象とした調査結果では,疾患特異的QOL評価であるJKOMと痛み度は相関を認めなかった。一方,JKOMと相関を認めた項目はNRS,屈曲ROM,伸展ROM,K-Lであった。Pain VisionはAβ線維とAδ線維を刺激すると言われている。変形性膝関節症のような関節原性の運動器の痛みは,障害組織の侵害受容器が機械的な刺激や炎症性発痛物質などに刺激をされて疼痛を生じる。また,器質的変化による軟骨下骨や半月板などに由来する疼痛は一次痛と二次痛を含んでいるのに対し,筋や靭帯,関節包などの軟部組織由来の疼痛はほとんどが二次痛である。この二次痛を受容するのはポリモーダル受容器であり,刺激伝達線維は主にC線維である。二次痛は局在が不明瞭であることや鈍い疼痛を感じる事を特徴としている。これらの事から,関節原性の疼痛は二次痛の関与が大きく,Aδ線維を刺激するPain Visionでは実際の疼痛を再現できなかった可能性が示唆された。よって,Pain Visionによる疼痛評価は関節原性の侵害受容性疼痛に対しての有用性は低いが,神経障害性疼痛に対してはQOLを反映した評価として有用な疼痛評価であると考えられる。本研究結果から,疼痛を正確に評価するためには,疼痛が神経障害性疼痛であるか,侵害受容性疼痛であるかによって,Pain Visionの適応を判断する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】疼痛を正確にとらえる事は,治療の効果判定を行うために極めて重要な評価である。Pain Visionの有用性を検討する事は,効果的な理学療法プログラムを進めるための一助となると考えられる。
【方法】変形性膝関節症患者37名(男性11名,女性26名,平均年齢60.7±13.8)とした。症状持続期間は16.1±35.2カ月であった。Kellgren-Lawrenceの分類(以下K-L)はgradeIが12名,gradeIIが15名,gradeIIIが7名,gradeIVが3名であった。それらの患者に対し,変形性膝関節症の疾患特異的QOL評価であるJapanese Knee Osteoarthritis Measure(以下JKOM),Pain Visionにより算出した痛み度,NRS,Range Of Motion(以下ROM)を調査した。Pain Visionの測定は,はじめに電極を前腕内側に装着し,最小感知電流値を測定した。次いで,対象者が感じている疼痛と電気刺激の平衡を感知した値から,痛み対応電流値を得た。これらの値から(痛み対応電流-最小感知電流)/最小感知電流×100の式に当てはめ痛み度を算出した。解析は,JKOMと各測定項目の関係をPearsonの相関係数にて検討した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に同意を得た上で測定した。
【結果】それぞれの測定結果はJKOM 24.1±13.7点,NRS 4.1±2.5,痛み度193.1±179.9,ROMは屈曲140.3±8.9,伸展-2.9±4.0であった。JKOMとの相関係数はNRS(r=0.64),屈曲ROM(r=-0.62),伸展ROM(r=-0.45)でありそれぞれ有意な相関(p<0.01)を認めた。またJKOMとK-Lの相関係数はr=0.38であり有意な相関(p<0.05)を認めた。JKOMと痛み度の相関係数はr=-0.13であり相関は認めなかった。
【考察】我々は本学会において,下肢症状を有する腰部疾患患者において疾患特異的QOL評価と痛み度の関連性を報告した。今回の変形性膝関節症患者を対象とした調査結果では,疾患特異的QOL評価であるJKOMと痛み度は相関を認めなかった。一方,JKOMと相関を認めた項目はNRS,屈曲ROM,伸展ROM,K-Lであった。Pain VisionはAβ線維とAδ線維を刺激すると言われている。変形性膝関節症のような関節原性の運動器の痛みは,障害組織の侵害受容器が機械的な刺激や炎症性発痛物質などに刺激をされて疼痛を生じる。また,器質的変化による軟骨下骨や半月板などに由来する疼痛は一次痛と二次痛を含んでいるのに対し,筋や靭帯,関節包などの軟部組織由来の疼痛はほとんどが二次痛である。この二次痛を受容するのはポリモーダル受容器であり,刺激伝達線維は主にC線維である。二次痛は局在が不明瞭であることや鈍い疼痛を感じる事を特徴としている。これらの事から,関節原性の疼痛は二次痛の関与が大きく,Aδ線維を刺激するPain Visionでは実際の疼痛を再現できなかった可能性が示唆された。よって,Pain Visionによる疼痛評価は関節原性の侵害受容性疼痛に対しての有用性は低いが,神経障害性疼痛に対してはQOLを反映した評価として有用な疼痛評価であると考えられる。本研究結果から,疼痛を正確に評価するためには,疼痛が神経障害性疼痛であるか,侵害受容性疼痛であるかによって,Pain Visionの適応を判断する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】疼痛を正確にとらえる事は,治療の効果判定を行うために極めて重要な評価である。Pain Visionの有用性を検討する事は,効果的な理学療法プログラムを進めるための一助となると考えられる。