第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動制御・運動学習7

Fri. May 30, 2014 2:25 PM - 3:15 PM ポスター会場 (基礎)

座長:上原信太郎(情報通信研究機構脳情報通信融合研究センター)

基礎 ポスター

[0334] リズム刺激と指タッピングの同期が運動リズムに及ぼす影響

伊藤正憲1, 嘉戸直樹1, 鈴木俊明2 (1.神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科, 2.関西医療大学大学院保健医療学研究科)

Keywords:タッピング, リズム, 聴覚刺激

【はじめに】リズミカルな運動を促すために聴覚刺激のような外的刺激をペーシングとして用いることがある。外的刺激のペーシングの効果を検討する方法のひとつに同期タッピングの継続パラダイムがある。このパラダイムは外的刺激のリズムに指タッピングを同期し,その後に外的刺激がなくなってもタッピングをそのままのリズムで維持する課題である。この課題ではペーシング相と継続相の運動能力が比較されるが,一方で本来有しているリズミカルな運動の能力と継続相の運動能力を比較することも重要である。また,外的刺激のペーシングをきっかけに運動のリズムをとる際には,刺激と運動を同期させたり,刺激に対して運動を裏打ちさせたりすることができる。本研究は外的刺激がない状況でおこなう自己ペースタッピング,同期および裏打ちタッピングの継続パラダイムを用いてリズミカルな運動の能力を比較し,外的刺激によるペーシングが運動リズムに及ぼす影響について検討した。
【方法】対象は右ききの健常者18名(女性10名,男性8名,平均年齢23.9歳)とした。きき手はエディンバラきき手テストを用いて判定した。被験者は3つの課題を実施した。課題1は自己ペースタッピングであり,外的刺激がない状況で15回の連続的なタッピングをおこなった。課題2は同期タッピングの継続パラダイムであり,15回の周期的な聴覚刺激に同期してタッピングをおこない(ペーシング相),その後に聴覚刺激がない状況で同じペースで15回のタッピングを継続した(継続相)。課題3は裏打ちタッピングの継続パラダイムであり,15回の周期的な聴覚刺激のそれぞれの中間時点に同期してタッピングをおこない(ペーシング相),その後に聴覚刺激がない状況で同じペースで15回のタッピングを継続した(継続相)。課題2,3で用いた聴覚刺激は,刺激強度65dB,刺激周波数750Hz,持続時間25msとした。2つの連続する刺激の開始時点の時間間隔(IOI:inter-onset interval)は1000msとし,自己ペースタッピングで指示する時間間隔も1000msとした。聴覚刺激の入力はViking Quest(Nicolet),聴覚刺激とタッピングの記録はVitalRecorder2(KISSEICOMTEC)を使用した。分析するパラメータは,連続するタッピングの開始時点の時間間隔(ITI:inter-tap interval)の平均値および変動係数とした。課題2と3のペーシング相の比較には対応のあるt検定を用いた。課題1と課題2,3の継続相の比較には反復測定一元配置分散分析とBonferroni法による多重比較を用いた。有意水準は5%に設定し,統計学的な有意差を判定した。
【倫理的配慮】研究の目的と方法,個人が特定できないよう配慮したうえで研究成果を公表することを説明した。本研究は本学の倫理委員会の承認を受けて実施した。
【結果】課題1のITI系列は半数以上の被験者が1000msより長くなっていた。課題2,3のペーシング相のITI系列は1000msに近接していた。継続相では課題2で1名,課題3で1名が1000msより長いインターバルに外れていた。ペーシング相のITIの平均値は課題2が996.3±3.7ms,課題3が997.3±4.4ms,変動係数は課題2が3.1±0.9%,課題3が3.0±1.3%であり,課題2と3の間に有意差を認めなかった。課題1と課題2,3の継続相のITIの平均値は課題1が1137.0±202.9ms,課題2が1000.7±51.7ms,課題3が1022.8±77.8msであり,課題1と比較して課題2,3が有意に小さくなり1000msにより近づいた。またITIの変動係数は課題1が4.0±1.2%,課題2が3.4±0.9%,課題3が4.0±1.7%であり,課題間に有意差を認めなかった。
【考察】同期タッピングはまさに予測に基づき,裏打ちタッピングは反応的要素を含むという相違があるが,ペーシング相では聴覚刺激と同じ周期のリズムを刻むことが優先され運動がなされたと考える。テンポは1分間に60から150回の範囲の刺激で感じるとされている。またMiyakeは注意資源に依存しないオートマチックな運動が1800msより短いIOIの場合に可能であるとしている。1000ms間隔の刺激はテンポを感じやすく,同期および裏打ちタッピングのいずれにおいてもペーシングによりオートマチックな周期運動がなされ,その後のリズミカルな運動の継続も容易であったのであろう。
【理学療法学研究としての意義】1秒間隔のペーシングは,1秒で繰り返される運動リズムの正確性を向上させるのに役立つであろう。