[0335] 加齢に伴う足タッピングのタイミングと筋出力制御の特徴
キーワード:足タッピング, タイミング, 筋出力制御
【はじめに】
随意運動におけるタイミングと力は動作協応の主要なパラメータであり,両パラメータを同時に評価するため先行研究では手指タッピング課題が用いられてきた。手指タッピング課題による知見として,Inuiら(1998, 2005)は若年者を対象とした検討でタイミング制御よりも力制御の方が難しく,目標発揮筋力が低いほど力発揮の変動が大きくなることを報告している。また,これらの制御能力は加齢とともに低下する(Sasakiら,2011)。一方で,我々の対象者の多くは高齢者が多く,加えて歩行能力の向上に寄与する機会が多い。手指タッピングによる知見は,普段より繰り返し歩行という周期運動を行っている下肢にも該当するのか,確認しておく必要があると思われる。以上のことから,今回は足タッピング課題を用いて加齢の要因に注目し,異なる力発揮がタイミングと力制御に及ぼす影響について検討したので報告する。
【方法】
対象は健常若年者8名(若年群:平均20.9±0.6歳),健常高齢者6名(高齢群:平均69.2±4.5歳)とし,Chapmanの利き足テストにより全対象者で利き足(測定肢)は右であった。対象者は,股・膝関節90°屈曲位,足関節底屈・背屈中間位の椅子坐位で,利き足の前足部直下に設置された筋力測定装置(フロンティアメディック社製)上に右足部を置いた。対象者は実験に先立ち,同肢位にて足関節底屈の等尺性最大随意収縮力(MVC)を測定した。運動課題は,MVCより算出した5%・10%・20%MVCを目標発揮筋力とした周期的な等尺性足底屈力発揮(以下,足タッピング)である。対象者は,電子メトロノーム(SEIKO社製)により与えられるテンポ音(テンポ間隔500ms)に同期するとともに,目前に設置されたPCモニターに表示される目標筋出力ライン(各%MVCのライン)と自身の筋出力値を視覚的に確認しながら足タッピングを実施した。各%MVCにつき60回の足タッピングを3セット行い,3セット目の50回(11~60回目)の足タッピングを解析対象とした。なお,筋力測定装置により得られたデータはAD変換し,サンプリング周波数1kHzでPCに取り込んだ。データ解析には,力量解析ソフト(エミールソフト開発社製)を用いて各足タッピングの筋出力ピーク値を検出し,2つの連続する筋出力ピーク値より求めたタッピング間隔とテンポ間隔(500ms)との絶対誤差(タッピング間隔誤差),またタッピング間隔の変動係数(CV)を求めた。また,各%MVCと筋出力ピーク値との絶対誤差(筋出力誤差),筋出力ピーク値のCVを求め検討指標とした。統計学的分析として,加齢や異なる目標発揮筋力が足タッピングのタイミングや力制御の正確さに及ぼす影響を検討するため,各検討指標について2(若年群,高齢群)×3(5%・10%・20%MVC)の二元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較検定を実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
すべての対象者に,実験に先立ち本研究の目的と方法を紙面にて説明し,同意を得た上で測定を行った。また,実験プロトコルは学内倫理委員会の承認を得た。
【結果】
タッピング間隔誤差について,年齢要因にのみ主効果を認めた(高齢群>若年群,p<0.01)。タッピング間隔の変動(CV)は,年齢要因にのみ主効果を認め(高齢群>若年群,p<0.01),目標発揮筋力が大きくなるほどその差が縮小する傾向であった。筋出力誤差については,主効果を認めなかった。筋出力ピーク値の変動(CV)は,年齢要因にのみ主効果を認めた(高齢群>若年群,p<0.01)。いずれの検討指標も目標発揮筋力の主効果は認められず,また交互作用も認めなかった。
【考察】
Brodal(2004)は,加齢に伴う黒質線条体の組織学的変化が皮質-基底核ループの機能不全を惹起し,正確なタイミングや安定した力発揮を低下させると説明している。今回も,高齢群の誤差や変動が大きかったことの背景にはこのような要因が考えられる。また,タッピング間隔の変動について目標発揮筋力が大きくなるほど群間差が縮小傾向にあったが,Tracyら(2007)は若年者では高い強度の力発揮を求められるほど力発揮の安定性が低下すると報告しており,これを示唆する結果となっている。一方で,筋出力誤差では加齢による影響が検出されなかった。これと類似した知見として,我々は第48回本学術大会において足タッピングでは若年者の筋出力誤差が大きくなることを報告した。今回は主効果こそ得られなかったものの,加齢に伴う足タッピングの特性を指し示す結果となった。
【理学療法学研究としての意義】
加齢の影響を踏まえ,周期的な運動課題条件下で異なる力発揮を求めたときのタイミングや力制御の特性を知ることは,歩行をはじめとした下肢周期運動の機能向上を目的とした介入条件設定の根拠になる。
随意運動におけるタイミングと力は動作協応の主要なパラメータであり,両パラメータを同時に評価するため先行研究では手指タッピング課題が用いられてきた。手指タッピング課題による知見として,Inuiら(1998, 2005)は若年者を対象とした検討でタイミング制御よりも力制御の方が難しく,目標発揮筋力が低いほど力発揮の変動が大きくなることを報告している。また,これらの制御能力は加齢とともに低下する(Sasakiら,2011)。一方で,我々の対象者の多くは高齢者が多く,加えて歩行能力の向上に寄与する機会が多い。手指タッピングによる知見は,普段より繰り返し歩行という周期運動を行っている下肢にも該当するのか,確認しておく必要があると思われる。以上のことから,今回は足タッピング課題を用いて加齢の要因に注目し,異なる力発揮がタイミングと力制御に及ぼす影響について検討したので報告する。
【方法】
対象は健常若年者8名(若年群:平均20.9±0.6歳),健常高齢者6名(高齢群:平均69.2±4.5歳)とし,Chapmanの利き足テストにより全対象者で利き足(測定肢)は右であった。対象者は,股・膝関節90°屈曲位,足関節底屈・背屈中間位の椅子坐位で,利き足の前足部直下に設置された筋力測定装置(フロンティアメディック社製)上に右足部を置いた。対象者は実験に先立ち,同肢位にて足関節底屈の等尺性最大随意収縮力(MVC)を測定した。運動課題は,MVCより算出した5%・10%・20%MVCを目標発揮筋力とした周期的な等尺性足底屈力発揮(以下,足タッピング)である。対象者は,電子メトロノーム(SEIKO社製)により与えられるテンポ音(テンポ間隔500ms)に同期するとともに,目前に設置されたPCモニターに表示される目標筋出力ライン(各%MVCのライン)と自身の筋出力値を視覚的に確認しながら足タッピングを実施した。各%MVCにつき60回の足タッピングを3セット行い,3セット目の50回(11~60回目)の足タッピングを解析対象とした。なお,筋力測定装置により得られたデータはAD変換し,サンプリング周波数1kHzでPCに取り込んだ。データ解析には,力量解析ソフト(エミールソフト開発社製)を用いて各足タッピングの筋出力ピーク値を検出し,2つの連続する筋出力ピーク値より求めたタッピング間隔とテンポ間隔(500ms)との絶対誤差(タッピング間隔誤差),またタッピング間隔の変動係数(CV)を求めた。また,各%MVCと筋出力ピーク値との絶対誤差(筋出力誤差),筋出力ピーク値のCVを求め検討指標とした。統計学的分析として,加齢や異なる目標発揮筋力が足タッピングのタイミングや力制御の正確さに及ぼす影響を検討するため,各検討指標について2(若年群,高齢群)×3(5%・10%・20%MVC)の二元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較検定を実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
すべての対象者に,実験に先立ち本研究の目的と方法を紙面にて説明し,同意を得た上で測定を行った。また,実験プロトコルは学内倫理委員会の承認を得た。
【結果】
タッピング間隔誤差について,年齢要因にのみ主効果を認めた(高齢群>若年群,p<0.01)。タッピング間隔の変動(CV)は,年齢要因にのみ主効果を認め(高齢群>若年群,p<0.01),目標発揮筋力が大きくなるほどその差が縮小する傾向であった。筋出力誤差については,主効果を認めなかった。筋出力ピーク値の変動(CV)は,年齢要因にのみ主効果を認めた(高齢群>若年群,p<0.01)。いずれの検討指標も目標発揮筋力の主効果は認められず,また交互作用も認めなかった。
【考察】
Brodal(2004)は,加齢に伴う黒質線条体の組織学的変化が皮質-基底核ループの機能不全を惹起し,正確なタイミングや安定した力発揮を低下させると説明している。今回も,高齢群の誤差や変動が大きかったことの背景にはこのような要因が考えられる。また,タッピング間隔の変動について目標発揮筋力が大きくなるほど群間差が縮小傾向にあったが,Tracyら(2007)は若年者では高い強度の力発揮を求められるほど力発揮の安定性が低下すると報告しており,これを示唆する結果となっている。一方で,筋出力誤差では加齢による影響が検出されなかった。これと類似した知見として,我々は第48回本学術大会において足タッピングでは若年者の筋出力誤差が大きくなることを報告した。今回は主効果こそ得られなかったものの,加齢に伴う足タッピングの特性を指し示す結果となった。
【理学療法学研究としての意義】
加齢の影響を踏まえ,周期的な運動課題条件下で異なる力発揮を求めたときのタイミングや力制御の特性を知ることは,歩行をはじめとした下肢周期運動の機能向上を目的とした介入条件設定の根拠になる。