[0347] 入院を機に嚥下機能低下をきたした医療・介護関連肺炎患者の特徴の検討
Keywords:医療・介護関連肺炎, 嚥下機能低下, 食事形態
【はじめに,目的】
2011年に日本呼吸器学会より医療・介護関連肺炎(NHCAP)という新しい疾患概念が提唱され,ガイドラインに沿った診療が開始されている。当院でも人口の高齢化,近隣の医療・介護施設の増加にともないNHCAPの患者受け入れが増加している。我々はこれまでにNHCAP患者のデータベースを作成し,患者の特徴,入院長期化の要因の検討を行い,嚥下機能の低下により入院中に食事形態を変更した患者が入院長期化する傾向を明らかにした。嚥下機能低下による入院長期化予防対策立案のため,本研究では入院中に嚥下機能低下したNHCAP患者の特徴について検討を行った。
【方法】
対象:2012年4月から同12月までに当院で入院加療および理学療法介入を行った75歳以上のNHCAP患者94名のうち入院前に経口食事摂取を行っていた65名(男性28名,女性37名,年齢88.1±6.7歳)である。
方法:患者背景,臨床経過をカルテより後方視的に調査した。評価項目は,年齢,性別,入院前の生活自立度,基礎疾患の有無,認知症の有無,食事中のむせの有無,入院時検査所見,理学療法介入までの日数,入院後初回座位実施までの日数,転帰とした。生活自立度はパフォーマンスステータス(PS)にて評価した(グレード1:歩行および軽作業が可能,グレード2:歩行および身辺動作が可能,グレード3:身辺動作の一部が可能,グレード4:体動困難および寝たきり)。退院時に食事の経口摂取が可能であった患者を食事形態維持群(維持群),経口摂取が困難と判断され食事形態を変更した群を食事形態変更群(変更群)とし,2群間で評価項目を比較した。各群の比較には対応のないt検定および,カイ二乗検定を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の内容は,当院倫理委員会の承認を得て実施した。ヘルシンキ宣言に基づき,個人情報の保護を厳守した。
【結果】
維持群は46名(男性18名),年齢88.1±7.5歳,変更群は19名(男性10名)で年齢88.0±4.6歳であった。年齢に有意差は認めなかった。入院前の生活自立度は維持群,低下群でそれぞれPSグレード1:(4名,0名),グレード2:(3名,0名),グレード3:(8名,2名),グレード4:(31名,17名)であった。基礎疾患に関しては,脳血管疾患の既往がある患者は維持群で28.2%,変更群で47.3%であった。認知症の有病率は維持群で84.8%,変更群で78.9%,入院前より食事中のむせが認められていた患者は維持群で43.5%,変更群で57.9%であった。入院時検査所見は,維持群と変更群でそれぞれ発熱:(37.6±0.9℃, 37.1±1.0℃),CRP値:(8.0±7.1mg/dl,7.4±7.4mg/dl),Alb値:(3.1±0.5g/dl,2.8±0.6g/dl)であり,各項目に有意差を認めなかった。入院後,理学療法介入までに要した日数は維持群で2.2±1.9日,変更群で2.3±3.0日,初回坐位実施までの日数は維持群で4.6±6.1日,変更群で8.0±12.4日であり,それぞれ両群間に有意差は認めなかった。3日以内に坐位実施できた患者の割合は維持群で56.5%,変更群で21.0%であった。
【考察】
本研究により,変更群で入院前の生活自立度が低い患者,既往に脳血管疾患をもつ患者,食事の際のむせを指摘されていた患者の割合が高かった。これらの背景を持つ患者は入院中に嚥下機能低下をきたす可能性が高く,早期からの機能低下予防対策が必要だと考えられる。両群間で理学療法介入までの日数,坐位実施までの日数に差は認めなかったが,変更群の多くが坐位実施までに4日以上かかっていた。臥床状態が嚥下機能低下に及ぼす影響については過去に報告があり,早期から坐位を実施できたことが嚥下機能低下の予防につながった可能性が示唆される。只,NHCAP患者はその背景が多彩であるため,嚥下機能低下の原因も様々であると予測される。今後,NHCAP患者への理学療法介入にあったては早期離床に加え,個々の患者に対する嚥下機能評価に基づいた機能維持・改善のためのアプローチを取り入れていくことが必要だと考える。例えば,脳血管疾患患者に対する呼吸筋トレーニングが嚥下機能の改善をもたらしたとの研究報告もあり,今後NHCAP患者に対する応用が期待できる
【理学療法学研究としての意義】
高齢肺炎患者は今後も増加すると考えられるが,本研究は肺炎治療に対する早期からの理学療法のエビデンス構築の一助になると思われる。また,今後のNHCAP患者に対する理学療法の課題を提示した。
2011年に日本呼吸器学会より医療・介護関連肺炎(NHCAP)という新しい疾患概念が提唱され,ガイドラインに沿った診療が開始されている。当院でも人口の高齢化,近隣の医療・介護施設の増加にともないNHCAPの患者受け入れが増加している。我々はこれまでにNHCAP患者のデータベースを作成し,患者の特徴,入院長期化の要因の検討を行い,嚥下機能の低下により入院中に食事形態を変更した患者が入院長期化する傾向を明らかにした。嚥下機能低下による入院長期化予防対策立案のため,本研究では入院中に嚥下機能低下したNHCAP患者の特徴について検討を行った。
【方法】
対象:2012年4月から同12月までに当院で入院加療および理学療法介入を行った75歳以上のNHCAP患者94名のうち入院前に経口食事摂取を行っていた65名(男性28名,女性37名,年齢88.1±6.7歳)である。
方法:患者背景,臨床経過をカルテより後方視的に調査した。評価項目は,年齢,性別,入院前の生活自立度,基礎疾患の有無,認知症の有無,食事中のむせの有無,入院時検査所見,理学療法介入までの日数,入院後初回座位実施までの日数,転帰とした。生活自立度はパフォーマンスステータス(PS)にて評価した(グレード1:歩行および軽作業が可能,グレード2:歩行および身辺動作が可能,グレード3:身辺動作の一部が可能,グレード4:体動困難および寝たきり)。退院時に食事の経口摂取が可能であった患者を食事形態維持群(維持群),経口摂取が困難と判断され食事形態を変更した群を食事形態変更群(変更群)とし,2群間で評価項目を比較した。各群の比較には対応のないt検定および,カイ二乗検定を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の内容は,当院倫理委員会の承認を得て実施した。ヘルシンキ宣言に基づき,個人情報の保護を厳守した。
【結果】
維持群は46名(男性18名),年齢88.1±7.5歳,変更群は19名(男性10名)で年齢88.0±4.6歳であった。年齢に有意差は認めなかった。入院前の生活自立度は維持群,低下群でそれぞれPSグレード1:(4名,0名),グレード2:(3名,0名),グレード3:(8名,2名),グレード4:(31名,17名)であった。基礎疾患に関しては,脳血管疾患の既往がある患者は維持群で28.2%,変更群で47.3%であった。認知症の有病率は維持群で84.8%,変更群で78.9%,入院前より食事中のむせが認められていた患者は維持群で43.5%,変更群で57.9%であった。入院時検査所見は,維持群と変更群でそれぞれ発熱:(37.6±0.9℃, 37.1±1.0℃),CRP値:(8.0±7.1mg/dl,7.4±7.4mg/dl),Alb値:(3.1±0.5g/dl,2.8±0.6g/dl)であり,各項目に有意差を認めなかった。入院後,理学療法介入までに要した日数は維持群で2.2±1.9日,変更群で2.3±3.0日,初回坐位実施までの日数は維持群で4.6±6.1日,変更群で8.0±12.4日であり,それぞれ両群間に有意差は認めなかった。3日以内に坐位実施できた患者の割合は維持群で56.5%,変更群で21.0%であった。
【考察】
本研究により,変更群で入院前の生活自立度が低い患者,既往に脳血管疾患をもつ患者,食事の際のむせを指摘されていた患者の割合が高かった。これらの背景を持つ患者は入院中に嚥下機能低下をきたす可能性が高く,早期からの機能低下予防対策が必要だと考えられる。両群間で理学療法介入までの日数,坐位実施までの日数に差は認めなかったが,変更群の多くが坐位実施までに4日以上かかっていた。臥床状態が嚥下機能低下に及ぼす影響については過去に報告があり,早期から坐位を実施できたことが嚥下機能低下の予防につながった可能性が示唆される。只,NHCAP患者はその背景が多彩であるため,嚥下機能低下の原因も様々であると予測される。今後,NHCAP患者への理学療法介入にあったては早期離床に加え,個々の患者に対する嚥下機能評価に基づいた機能維持・改善のためのアプローチを取り入れていくことが必要だと考える。例えば,脳血管疾患患者に対する呼吸筋トレーニングが嚥下機能の改善をもたらしたとの研究報告もあり,今後NHCAP患者に対する応用が期待できる
【理学療法学研究としての意義】
高齢肺炎患者は今後も増加すると考えられるが,本研究は肺炎治療に対する早期からの理学療法のエビデンス構築の一助になると思われる。また,今後のNHCAP患者に対する理学療法の課題を提示した。