[0348] 摂食・嚥下障害患者に対する前頸部へのアプローチ
キーワード:嚥下, 前頸部, 反復唾液嚥下テスト
【はじめに,目的】
摂食・嚥下訓練には食物を使用する直接訓練と食物を使用しない間接訓練がある。理学療法士が臨床において摂食・嚥下障害患者に対してアプローチするのは主に間接訓練であることが多い。摂食・嚥下障害に対して頚椎の可動性など咽頭圧に関与する要素に対して治療介入する場面は多いが喉頭蓋と解剖学的に連続性がある舌骨の挙上が関与する前頸部への介入に関する報告は少ない。今回,筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)患者に対して14ヶ月の介入期間中,前頸部に対して徒手的介入と電気治療を行い反復唾液嚥下テスト(以下RSST)を指標として継続的に嚥下機能を評価したのでここに報告する。
【方法】対象は筋萎縮性側索硬化症,74歳男性。平成20年に発症し人工呼吸器管理。楽しみ程度の嚥下を希望されている。平成24年8月から週2回の訪問リハビリを開始。開始1年後より徐々にALS症状進行してきた。現在,端座位は監視で可能。ADLは更衣部分介助でその他は全介助。なお,介入前は前頸部に対するアプローチは行っていなかった。
実施期間は14ヶ月,実施回数計62回であった。口腔ケア・呼吸理学療法にて排痰を行った後,イトーEMS-360伊藤超短波株式会社製にてEMSモード45~50mAで10分間の治療を行った。その後,下顎先端後面の顎二腹筋付着部に対して検者の2,3指で緊張の緩みを感じるまで約1~2分程度の圧迫を行った。同様に顎下腺,耳下腺に対しても同様の徒手的アプローチを行った。一連のアプローチ後RSSTを測定した。RSSTの可能回数を正常範囲とされる3回以上と2回以下の2通りに分け,①それぞれの遂行回数と総実施回数に対する割合(遂行率)と介入後の持続効果の指標として実施期間である14ヶ月をそれぞれ前・後期7ヶ月毎に分け,②RSST3回遂行可能率を前・後期ごとに抽出した
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき被検者に研究内容や目的について説明を行い,同意を得てから行った。訪問時,本人の意向での拒否や痰が多い場合は手技そのものを行わなかった。
【結果】
14ヶ月間,実施回数計62回の結果,RSST2回遂行回数は34回,RSST3回遂行回数は28回でありRSST2回遂行率56%,RSST3回遂行率44%であった。また,3回遂行可能率は前期25%,後期で54%であった。
【考察】
進行性疾患であるALSは嚥下機能も球麻痺症状を呈し誤嚥のリスクが多いとされる。今回人工呼吸器管理ではあるが嚥下の希望があり楽しみ程度の嚥下は行えていた症例に対して徒手的介入と物理療法でアプローチした結果,正常範囲であるRSST3回遂行可能率が44%であった。また,後期に3回遂行可能回数が多いことからアプローチの効果も徐々に出現してきたとも考えられる。咀嚼筋は赤筋が多く疲労しにくい特性はあるが,収縮しない状態が続くと伸張性の低下のリスクもある。介入前は前頸部へのアプローチを行っていなかったことを考慮すると廃用性の収縮不全があり,14ヶ月間の前頸部へのアプローチにより舌骨挙上に有利な環境が整えられたとも考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
高齢化社会が加速する現在,摂食・嚥下障害に対して様々な職種が関与している時代になった。今後,訪問リハビリでも理学療法士が摂食・嚥下障害者を担当するケースが増加してくることも考えられる。その一方で摂食・嚥下障害の要因は多様性を呈しており,その改善方法も多様であり個人差がありエビデンスが確立しにくい分野であることも日々感じている。
今回のように理学療法士の専門性でもある徒手的・物理療法的にアプローチし改善する例も今後考えられるのではないだろうか。今後は誤嚥性肺炎の予防も含めた各職種の包括的なアプローチの中で専門職として摂食・嚥下障害患者に介入していくことが肝用と考える。
摂食・嚥下訓練には食物を使用する直接訓練と食物を使用しない間接訓練がある。理学療法士が臨床において摂食・嚥下障害患者に対してアプローチするのは主に間接訓練であることが多い。摂食・嚥下障害に対して頚椎の可動性など咽頭圧に関与する要素に対して治療介入する場面は多いが喉頭蓋と解剖学的に連続性がある舌骨の挙上が関与する前頸部への介入に関する報告は少ない。今回,筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)患者に対して14ヶ月の介入期間中,前頸部に対して徒手的介入と電気治療を行い反復唾液嚥下テスト(以下RSST)を指標として継続的に嚥下機能を評価したのでここに報告する。
【方法】対象は筋萎縮性側索硬化症,74歳男性。平成20年に発症し人工呼吸器管理。楽しみ程度の嚥下を希望されている。平成24年8月から週2回の訪問リハビリを開始。開始1年後より徐々にALS症状進行してきた。現在,端座位は監視で可能。ADLは更衣部分介助でその他は全介助。なお,介入前は前頸部に対するアプローチは行っていなかった。
実施期間は14ヶ月,実施回数計62回であった。口腔ケア・呼吸理学療法にて排痰を行った後,イトーEMS-360伊藤超短波株式会社製にてEMSモード45~50mAで10分間の治療を行った。その後,下顎先端後面の顎二腹筋付着部に対して検者の2,3指で緊張の緩みを感じるまで約1~2分程度の圧迫を行った。同様に顎下腺,耳下腺に対しても同様の徒手的アプローチを行った。一連のアプローチ後RSSTを測定した。RSSTの可能回数を正常範囲とされる3回以上と2回以下の2通りに分け,①それぞれの遂行回数と総実施回数に対する割合(遂行率)と介入後の持続効果の指標として実施期間である14ヶ月をそれぞれ前・後期7ヶ月毎に分け,②RSST3回遂行可能率を前・後期ごとに抽出した
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき被検者に研究内容や目的について説明を行い,同意を得てから行った。訪問時,本人の意向での拒否や痰が多い場合は手技そのものを行わなかった。
【結果】
14ヶ月間,実施回数計62回の結果,RSST2回遂行回数は34回,RSST3回遂行回数は28回でありRSST2回遂行率56%,RSST3回遂行率44%であった。また,3回遂行可能率は前期25%,後期で54%であった。
【考察】
進行性疾患であるALSは嚥下機能も球麻痺症状を呈し誤嚥のリスクが多いとされる。今回人工呼吸器管理ではあるが嚥下の希望があり楽しみ程度の嚥下は行えていた症例に対して徒手的介入と物理療法でアプローチした結果,正常範囲であるRSST3回遂行可能率が44%であった。また,後期に3回遂行可能回数が多いことからアプローチの効果も徐々に出現してきたとも考えられる。咀嚼筋は赤筋が多く疲労しにくい特性はあるが,収縮しない状態が続くと伸張性の低下のリスクもある。介入前は前頸部へのアプローチを行っていなかったことを考慮すると廃用性の収縮不全があり,14ヶ月間の前頸部へのアプローチにより舌骨挙上に有利な環境が整えられたとも考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
高齢化社会が加速する現在,摂食・嚥下障害に対して様々な職種が関与している時代になった。今後,訪問リハビリでも理学療法士が摂食・嚥下障害者を担当するケースが増加してくることも考えられる。その一方で摂食・嚥下障害の要因は多様性を呈しており,その改善方法も多様であり個人差がありエビデンスが確立しにくい分野であることも日々感じている。
今回のように理学療法士の専門性でもある徒手的・物理療法的にアプローチし改善する例も今後考えられるのではないだろうか。今後は誤嚥性肺炎の予防も含めた各職種の包括的なアプローチの中で専門職として摂食・嚥下障害患者に介入していくことが肝用と考える。