第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防7

Fri. May 30, 2014 2:25 PM - 3:15 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:小野玲(神戸大学大学院保健学研究科)

生活環境支援 ポスター

[0352] 疼痛を有する後期高齢者の身体活動量と活動強度の特性

村瀬裕志1,2, 古名丈人3, 井平光3, 水本淳4, 牧野圭太郎4 (1.医療法人尚仁会真栄病院リハビリテーション部, 2.札幌医科大学保健医療学部理学療法学科第一講座訪問研究員, 3.札幌医科大学保健医療学部理学療法学科, 4.札幌医科大学大学院保健医療学研究科)

Keywords:高齢者, 疼痛, 身体活動量

【はじめに,目的】
高齢期における習慣的な身体活動は,身体機能の低下を予防し,QOLの保持および増進に効果的である。しかし,高齢期では心身機能の低下をはじめとした内的要因やソーシャルサポートなどの外的要因の変化に伴い身体活動量や活動強度が低下することが知られている。特に,身体各部に現れる骨関節系の疼痛は,身体活動量を減少させ,身体機能低下の原因となることが報告されている。腰部や膝関節を中心として多くの高齢者が慢性的な疼痛を経験していることは国民生活基礎調査の結果からも示されており,疼痛を有する高齢者の日常的な身体活動特性について,より詳細に調査する必要がある。しかしながら,疼痛を有する後期高齢者がどの程度の身体活動量と活動強度で生活しているのかは明らかにされていない。本研究では,疼痛を有する75歳以上の高齢者における身体活動特性を解明することを目的とした。
【方法】
対象は,北海道A市在住の後期高齢者234名(平均年齢79.2±3.5歳,男性97名,女性137名)とした。除外基準は,測定日の3か月以内に急性の脳血管疾患および整形外科的疾患を発症したこと,測定日の1か月以内に急性疼痛を発症したこと,認知症の疑いがあることとした。疼痛の有無は,高齢者の主要な疼痛部位である膝関節および腰部について,それぞれ「はい」または「いいえ」のどちらかを質問紙によって聴取し,疼痛なし,どちらか一方に痛みがある,両方とも痛みがある,の3群に分類した。身体活動量は加速度センサー付き生活習慣記録機(ライフコーダ;スズケン社製)を用いて記録し,調査日から1週間,起床から就寝まで(水中活動以外)装着するよう求めた。1週間後に返却された記録機からデータを取得し,各活動強度別に1日あたりの平均活動時間(単位;分)を算出した。なお,得られる活動強度は0~9に分けられ,数値が高くなるにつれてその活動強度も増加する。綾部らの研究から活動強度4以上は3METs以上の活動強度であると報告されており,本研究では運動強度1~3を低強度の身体活動,4以上を中等度以上の身体活動として定義し,それぞれの合算値を分析に使用した。統計学的解析は各強度別の身体活動量に対して,疼痛なし群,どちらか一方に痛みがある群,両方とも痛みがある群の3群において一元配置分散分析を行い,多重比較検定にはTukeyの検定を用いた。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨に沿い本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,書面にて同意を得た。なお,本研究は著者所属機関の倫理審査委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
質問紙の結果から,疼痛なし群は82名(78.6±3.3歳),どちらか一方に痛みがある群は69名(79.3±3.6歳),両方痛みがある群は83名(79.7±3.5歳)であった。一元配置分散分析の結果,低強度の身体活動量では有意な主効果は認められなかったが,中等度以上の活動強度において有意な主効果が認められた(p<0.05)。さらに,多重比較検定の結果から,疼痛なし群は両方痛みがある群と比較して有意に中等度以上の身体活動量が高かった(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果から,75歳以上の高齢者における低強度の身体活動量には疼痛の有無による差は認められなかった。一方で,中等度以上の身体活動量に関しては,膝関節と腰部の両方に疼痛を有する高齢者は,両方に疼痛がない高齢者と比較して身体活動量が低下していることが示された。健康日本21では,健康の保持および増進のためには「息が少し弾む」程度の運動が必要であると提唱されている。息が少し弾む程度の運動を中等度の運動と仮定すると,膝関節と腰部の両方に疼痛を有する高齢者は必要とされている以上の身体活動量を確保できない可能性がある。このような高齢者に対しては,サポーターやコルセットの導入,関節負荷を考慮した姿勢での運動など,疼痛をコントロールした状態での運動指導を行うことで身体活動を確保し,身体機能低下を予防していく介入が必要であると考える。なお,本研究の限界として,今回は疼痛の有無のみ聴取し,疼痛の強さや罹患期間まで聴取していないため,これらの要因がどの程度身体活動量に影響を与えているのかまでは検討できなかった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究から疼痛を有する後期高齢者の身体活動特性の一部が解明された。この知見は,疼痛を有する後期高齢者の身体活動増進へ向けた取り組みの一助となると考える。