[0353] 慢性疼痛を有する高齢者における痛みの心理面,主観的強度,疼痛期間,部位数と運動機能との関連
キーワード:慢性疼痛, 破局化思考, 自己効力感
【はじめに,目的】
加齢に伴い変形性関節症や神経痛の慢性疼痛は増加し,運動機能に大きく影響を与える。痛みには様々な側面があり,先行研究によると痛みの主観的強度,痛みの期間,部位数が運動機能と関連する。しかし痛みを評価する上で,これらの他に心理面の評価も重要であるとされ,中でも痛みを有していながらもある事柄に対して自分がどの程度対処することができるかという感覚を言う痛みに対する自己効力感や,痛みの経験をネガティブにとらえる傾向のことを言う痛みに対する破局化思考について,運動機能との関連が近年報告されている。以上のように痛みと運動機能との関連を調査する上で,痛みに関しては検討するべき項目は多数あるにもかかわらず,これらを同時に検討した研究はない。
本研究の目的は慢性疼痛を有する高齢者における痛みの各側面と運動機能との関連を横断的に調査することである。
【方法】
対象は歩行速度を測定するため腰部や下肢の慢性疼痛を有し,通所介護施設を利用する地域在住高齢者39名であり,Mini-Mental State Examination 21点未満と慢性疼痛の扱いとして痛みの持続期間が6か月未満,急性炎症を繰り返すとされている関節リウマチの既往を有する者は除外した。
調査項目として,痛みの主観的強度を示す指標であるNumeric Rating Scale(NRS),痛みの破局化思考の指標であるPain Catastrophizing Scale(PCS),痛みに対する自己効力感の指標であるPain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ),また腰部や下肢の痛みの期間,痛みの部位数を調査した。痛みを複数箇所に有している対象者に関してはNRS,痛みの期間それぞれについて数値の最も大きい値を採用した。また,運動機能の指標として歩行速度を測定した。
統計解析は歩行速度とNRS,PCS,PSEQ,痛みの期間,痛みの部位数についてSpearmanの順位相関分析を行なった。その後,目的変数に歩行速度,説明変数に年齢,性別,NRS,PCS,PSEQ,痛みの期間,痛みの部位数を強制投入した重回帰分析を行なった。統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は神戸大学大学院保健学倫理委員会の承認を得た後に実施された。事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明して同意を得た者を対象者とし,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。
【結果】
対象者は39名(男性8名,女性31人,平均年齢84.5±6.0歳)。痛みの期間は,6か月以上1年未満3人,1年以上3年未満14人,3年以上5年未満2人,5年以上が20人であった。痛みの部位については,腰部24名,股関節1名,膝関節20名,足関節1名,足趾1名,その他7名であり,下肢や腰部の痛みの部位数は2か所が16名,1か所が23名であった。Spearmanの順位相関においてPSEQは歩行速度と関連がみられたものの(ρ=0.45,p<0.01),NRS,PCS,痛みの期間,痛みの部位数は歩行速度と関連がみられなかった(NRS:ρ=-0.23,p=0.16;PCS:ρ=-0.08,p=0.62;痛みの期間:ρ=-0.18,p=0.25;痛みの部位数:ρ=-0.08,p=0.63)。重回帰分析では,PSEQと歩行速度のみにおいて有意な関連がみられた(標準化β=0.46,p<0.01,自由度調整R2=0.29,p=0.01)。
【考察】
本研究の結果よりNRS,PCS,痛みの期間,痛みの部位数と歩行速度には有意な関連が見られず,PSEQのみにおいて有意な関連が見られた。先行研究において腰痛患者や筋線維痛患者の運動機能と自己効力感の関連が報告されているが,本研究で慢性疼痛を有する高齢者においても歩行速度と痛みに対する自己効力感との関連が示唆され,痛みを有する患者に対する自己効力感の重要性を支持,拡大する結果が得られたと考える。しかし,本研究はサンプル数が少なく他の変数が選択されるのに十分な検出力を有していない可能性がある。また,横断研究であり関連性を述べるにとどまるため,今後サンプル数を増やして前向きに検討をする必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法士が慢性疼痛を有する高齢者の運動機能を考える際には,痛みの主観的強度を評価するだけではなく痛みに対する自己効力感も評価することが重要である可能性が示唆された。
加齢に伴い変形性関節症や神経痛の慢性疼痛は増加し,運動機能に大きく影響を与える。痛みには様々な側面があり,先行研究によると痛みの主観的強度,痛みの期間,部位数が運動機能と関連する。しかし痛みを評価する上で,これらの他に心理面の評価も重要であるとされ,中でも痛みを有していながらもある事柄に対して自分がどの程度対処することができるかという感覚を言う痛みに対する自己効力感や,痛みの経験をネガティブにとらえる傾向のことを言う痛みに対する破局化思考について,運動機能との関連が近年報告されている。以上のように痛みと運動機能との関連を調査する上で,痛みに関しては検討するべき項目は多数あるにもかかわらず,これらを同時に検討した研究はない。
本研究の目的は慢性疼痛を有する高齢者における痛みの各側面と運動機能との関連を横断的に調査することである。
【方法】
対象は歩行速度を測定するため腰部や下肢の慢性疼痛を有し,通所介護施設を利用する地域在住高齢者39名であり,Mini-Mental State Examination 21点未満と慢性疼痛の扱いとして痛みの持続期間が6か月未満,急性炎症を繰り返すとされている関節リウマチの既往を有する者は除外した。
調査項目として,痛みの主観的強度を示す指標であるNumeric Rating Scale(NRS),痛みの破局化思考の指標であるPain Catastrophizing Scale(PCS),痛みに対する自己効力感の指標であるPain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ),また腰部や下肢の痛みの期間,痛みの部位数を調査した。痛みを複数箇所に有している対象者に関してはNRS,痛みの期間それぞれについて数値の最も大きい値を採用した。また,運動機能の指標として歩行速度を測定した。
統計解析は歩行速度とNRS,PCS,PSEQ,痛みの期間,痛みの部位数についてSpearmanの順位相関分析を行なった。その後,目的変数に歩行速度,説明変数に年齢,性別,NRS,PCS,PSEQ,痛みの期間,痛みの部位数を強制投入した重回帰分析を行なった。統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は神戸大学大学院保健学倫理委員会の承認を得た後に実施された。事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明して同意を得た者を対象者とし,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。
【結果】
対象者は39名(男性8名,女性31人,平均年齢84.5±6.0歳)。痛みの期間は,6か月以上1年未満3人,1年以上3年未満14人,3年以上5年未満2人,5年以上が20人であった。痛みの部位については,腰部24名,股関節1名,膝関節20名,足関節1名,足趾1名,その他7名であり,下肢や腰部の痛みの部位数は2か所が16名,1か所が23名であった。Spearmanの順位相関においてPSEQは歩行速度と関連がみられたものの(ρ=0.45,p<0.01),NRS,PCS,痛みの期間,痛みの部位数は歩行速度と関連がみられなかった(NRS:ρ=-0.23,p=0.16;PCS:ρ=-0.08,p=0.62;痛みの期間:ρ=-0.18,p=0.25;痛みの部位数:ρ=-0.08,p=0.63)。重回帰分析では,PSEQと歩行速度のみにおいて有意な関連がみられた(標準化β=0.46,p<0.01,自由度調整R2=0.29,p=0.01)。
【考察】
本研究の結果よりNRS,PCS,痛みの期間,痛みの部位数と歩行速度には有意な関連が見られず,PSEQのみにおいて有意な関連が見られた。先行研究において腰痛患者や筋線維痛患者の運動機能と自己効力感の関連が報告されているが,本研究で慢性疼痛を有する高齢者においても歩行速度と痛みに対する自己効力感との関連が示唆され,痛みを有する患者に対する自己効力感の重要性を支持,拡大する結果が得られたと考える。しかし,本研究はサンプル数が少なく他の変数が選択されるのに十分な検出力を有していない可能性がある。また,横断研究であり関連性を述べるにとどまるため,今後サンプル数を増やして前向きに検討をする必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法士が慢性疼痛を有する高齢者の運動機能を考える際には,痛みの主観的強度を評価するだけではなく痛みに対する自己効力感も評価することが重要である可能性が示唆された。