第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防8

Fri. May 30, 2014 2:25 PM - 3:15 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:小林丈人(小諸厚生総合病院リハビリテーション科)

生活環境支援 ポスター

[0360] 維持期医療機関における入院高齢者の転倒発生予測についての検討

十鳥献司1, 中原義人1, 原田和宏2 (1.医療法人慈恵会聖ヶ丘病院リハビリテーションセンター, 2.吉備国際大学大学院保健科学研究科理学療法学専攻)

Keywords:転倒, リスク評価, 維持期

【はじめに,目的】
病院や施設における患者の転倒は発生頻度の高い問題である。中でも維持期医療機関においては,急性期や回復期と同様の転倒率が発生していることが近年の調査によって伺われており見逃すことは出来ない。近年の入院患者は高齢化が顕著となり,急性期病院の入院患者の7割近くが高齢者で,受け皿となる回復期や維持期医療機関も高齢化の傾向を辿らざるをえない現状にある。転倒リスクが高まるとされる入院高齢者の転倒防止には特に注意しなればならない。医療従事者が転倒予防に務める為には,入院時における転倒リスク者選別が簡便にかつ効果的に行われる事が必要である。国外では転倒リスクアセスメントツールSt. Thomas’s Risk Assessment Tool in Falling Elderly Inpatients(以下STRATIFY)が開発されており,大学病院入院後の転倒発生の90%以上を入院時に識別できるツールである事が検証されている。日本においてSTRATIFYは,これまでに日本語版翻訳と予測精度の統計学的検討が行われているが,回復期病院での有用性が検討されているのみで,維持期の入院高齢者での有用性は検討されていなかった。本研究の目的は,維持期医療機関における入院高齢者に対して日本語版STRATIFYの予測妥当性を明らかにすることとした。
【対象および方法】
対象は維持期医療機関1施設に2011年7月1日からの1年の間に,新規入院する65歳以上の高齢者とした。観察期間は,転倒群は入院から初回転倒発生までの日数を,非転倒群は入院から退院日もしくは調査期間の最終日2012年6月30日までの日数とした。入院時の調査項目は,年齢,性別,身長,体重の他,入院時の主病名,既往症,投薬状況,座位・立位状況,入院直前の生活場所,日常生活自立度,認知症の有無,認知症自立度,視力低下の有無,不穏行動の有無等及び日本語版STRATIFYとした。日本語版STRATIFYの転倒発生における予測精度を検討する為に,Kaplan-Meirer法を用い検討した。また従来のカットオフ値が有意な転倒判別能を有しない場合には,χ²検定および対応のないt検定にて調査項目群と転倒発生の有無の関連性を検討し,関連性を示した項目について変数選択法(尤度比に基づく変数増加法)によるCox比例ハザード解析にて転倒発生のハザード比を検討した。調整変数として年齢,性別,FIMの運動項目における合計得点,および認知FIMにおける合計得点を設定した。
【倫理的配慮,説明と同意】調査実施にあたり,得られた結果の公表について十分配慮することを条件に,調査対象病院の内諾を得,倫理的な配慮を行った。本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】調査を行った1年間の入院患者は346名であり,そのうち64歳以下18名,寝返り困難者112名を除外した合計216名を解析対象として選定した。STRATIFYは平均2.7±1.6点,転倒発生者は45名であった。高リスク群は162名となり転倒発生38名,低リスク群は54名となり転倒発生7名であった。生存分析ではLog-rank検定で有意確率が0.18となり,時間を考慮した転倒発生にSTRATIFYによる群化は影響を有しなかった。予測精度は感度84.1%,特異度27.5%,陽性尤度比1.16,陰性尤度比0.57となり,感度以外は不良値を示した。転倒発生の関連要因を探した結果として,感覚障害(転倒発生群29/45名,非転倒発生群56/171名,p=0.0001),突進歩行(6/45名,7/171名,p=0.034),見当識障害(24/45名,55/171名,p=0.010),向精神薬(18/45名,34/171名,p=0.007),降圧剤(13/45名,80/171名,p=0.028),2種類以上の投薬(41/45名,126/171名,p=0.007)であり,これらの項目についてχ²検定の結果より転倒発生に有意差を認めた。Cox比例ハザード解析では,感覚障害(ハザード比2.476,95%CI:1.173~5.224,p=0.017),向精神薬の服用(2.470,1.287~4.741,p=0.007),降圧剤の非服用(0.313,0.150~0.655,p=0.002)が転倒発生に関連する要因として抽出された。
【考察】日本語版STRATIFYの予測妥当性は回復期とは異なり,本研究での維持期医療機関入院高齢者に対しては支持されなかった。回復期や急性期では入院後に1週間以内の転倒発生が顕著とされるが,本研究については更なる詳細なデータ解析が必要と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】維持期高齢者の転倒発生に関与する要因について,感覚障害を有すること,向精神薬の服用,降圧剤の非服用といった独自の予測項目が存在し得ることが示唆され,今後の研究課題と考える。