[0361] 咀嚼回数の増加は咬合力と平衡機能に影響を与えるのか
Keywords:咬合力, 重心動揺, 咀嚼
【はじめに】
咀嚼とは,嚥下の前段階であり,食物を噛み砕き,唾液を混ぜて嚥下に適した食塊を形成することである。十分な咀嚼をすることは,唾液分泌の促進による健康の保全,肥満による生活習慣病の抑制と改善など様々なことに効果があると言われている。このように,十分な咀嚼をすることはあらゆる年代において大切であるが,近年の食生活は,食事時間が短くなり,軟らかいものが好まれ,ファーストフードの摂取過剰,栄養補助食品やサプリメントなどの多用,朝食の欠如など咀嚼回数を減らす要因が増えている。このことから咀嚼による作用の減少や咬合力の低下が予測され,身体機能改善や向上を目的とした理学療法を行う上で,咬合力も考慮する必要があると考えられる。しかし,これらの研究は歯科領域で行われているのがほとんどで,理学療法領域ではあまりみられない。
そこで今回,咀嚼回数を増やすと咬合力は向上するか,また身体機能への影響について,バランス機能の評価法の一つである重心動揺を用いて検討した。
【方法】
本研究への参加に同意の得られた,本学の理学療法学科男子学生30名中,体調不良などにより測定不足者,歯科治療開始者等を除いた23名(平均年齢20.2±0.7歳,平均身長170.8±4.1cm,平均体重66.9±12.6kg)を対象とした。また,咀嚼回数を増やす介入群14名と対象群9名の2群に分け検討した。測定項目は咬合力と重心動揺とした。咬合力測定は,対象者の第2大臼歯の咬合力を咬合力計オクルーザルフォースメータGM10(長野計器社製)にて測定した。測定姿勢は代償を防ぐために立位で,頭部は可能な限り壁にあて,足底は床に置いた足型に合わせた。上肢は体側に合わせた下垂位とした。測定は右から左右交互に2~3回行い,左右それぞれの最大値の平均を咬合力とした。また,重心動揺測定はwii board(任天堂社製)及び,本学の吉田研究室が開発した重心動揺測定システムを用いて測定した。測定条件は,日本平衡神経科学会による重心動揺検査の基準に可及的に準拠し実施した。測定条件として開眼閉脚位・閉眼閉脚位・開眼片脚位の3パターンで行い,各2回測定し,測定時間は30秒とした。矩形面積と総移動距離を算出し,矩形面積が小さい方を採用した。
咬合力の測定は初期(1回目),約2週間後(2回目),初期から約5週間後(3回目)の3回実施し,重心動揺の測定を2回目と3回目に実施した。
介入群には,測定2回目の後に1日の咀嚼回数を増やすために,ガム咀嚼課題を与えた。課題は,1日に2時間以上,2~3週間行うことを指示し,記録票に1日のガム咀嚼時間を記入させた。使用ガムは硬さを統一するために,ガムガムキシリッズ(co-op社製)を用いた。
統計処理は,統計ソフトPASW Stastics18を用いて,咬合力と重心動揺の介入前後の比較を対応のあるt検定,各群間の比較を対応のないt検定およびFriedman検定を用いて検討した。
【説明と同意】
本研究の実施にあたり,研究の目的を口頭にて説明し,本人の同意および承諾を文書にて得た。また文書で得られた承諾については,いつでも口頭で撤回できる事も説明した。
【結果】
咬合力は,介入群では1回目:561.4±150.1N,2回目:590.6±140.7N,3回目:666.0±131.2Nとなり,介入前と比べ3回目が有意水準(p<0.05)で高値を示した。対象群ではそれぞれ有意な変化はみられなかった。
重心動揺は,介入群では開眼閉脚時と閉眼閉脚時の総軌跡長が介入後に有意(p<0.05)に減少していた。対象群では開眼閉脚時の矩形面積と総軌跡長が有意(p<0.05)に減少していた。
【考察】
介入群でガム咀嚼を約3週間行い,咬合力が有意に向上した。これは柿谷らのチューインガムによる咀嚼訓練により咬合力が増加したとの報告やYurkstasや河村らは咀嚼訓練開始2週目で訓練効果が表れるとの報告と同様の結果を示した。このことから,咀嚼回数を増やすことで咬合力の向上は可能であると考えられる。
今回,重心動揺においては開眼閉脚において2群ともに有意な減少がみられ,測定の馴れによる変化も予測できるが,閉眼閉脚位が介入群の課題後に減少したこと,また石上は,咀嚼筋群も抗重力筋として働く可能性があり,咬合力筋である咀嚼筋が筋力向上することで,バランス機能も向上するのではないか,また咀嚼運動による刺激が内耳迷路を刺激し,姿勢の反射制御が促進されるのではないかと推察していることから,咀嚼回数を増やすことでバランス機能も向上する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果から咀嚼回数を増やすことで咬合力やバランス機能の向上が示されたことから,咀嚼回数減少傾向にある現代において,理学療法を実施するうえで,四肢筋力のみではなく咀嚼筋を含め筋力向上を図ることの重要性が示唆された。
咀嚼とは,嚥下の前段階であり,食物を噛み砕き,唾液を混ぜて嚥下に適した食塊を形成することである。十分な咀嚼をすることは,唾液分泌の促進による健康の保全,肥満による生活習慣病の抑制と改善など様々なことに効果があると言われている。このように,十分な咀嚼をすることはあらゆる年代において大切であるが,近年の食生活は,食事時間が短くなり,軟らかいものが好まれ,ファーストフードの摂取過剰,栄養補助食品やサプリメントなどの多用,朝食の欠如など咀嚼回数を減らす要因が増えている。このことから咀嚼による作用の減少や咬合力の低下が予測され,身体機能改善や向上を目的とした理学療法を行う上で,咬合力も考慮する必要があると考えられる。しかし,これらの研究は歯科領域で行われているのがほとんどで,理学療法領域ではあまりみられない。
そこで今回,咀嚼回数を増やすと咬合力は向上するか,また身体機能への影響について,バランス機能の評価法の一つである重心動揺を用いて検討した。
【方法】
本研究への参加に同意の得られた,本学の理学療法学科男子学生30名中,体調不良などにより測定不足者,歯科治療開始者等を除いた23名(平均年齢20.2±0.7歳,平均身長170.8±4.1cm,平均体重66.9±12.6kg)を対象とした。また,咀嚼回数を増やす介入群14名と対象群9名の2群に分け検討した。測定項目は咬合力と重心動揺とした。咬合力測定は,対象者の第2大臼歯の咬合力を咬合力計オクルーザルフォースメータGM10(長野計器社製)にて測定した。測定姿勢は代償を防ぐために立位で,頭部は可能な限り壁にあて,足底は床に置いた足型に合わせた。上肢は体側に合わせた下垂位とした。測定は右から左右交互に2~3回行い,左右それぞれの最大値の平均を咬合力とした。また,重心動揺測定はwii board(任天堂社製)及び,本学の吉田研究室が開発した重心動揺測定システムを用いて測定した。測定条件は,日本平衡神経科学会による重心動揺検査の基準に可及的に準拠し実施した。測定条件として開眼閉脚位・閉眼閉脚位・開眼片脚位の3パターンで行い,各2回測定し,測定時間は30秒とした。矩形面積と総移動距離を算出し,矩形面積が小さい方を採用した。
咬合力の測定は初期(1回目),約2週間後(2回目),初期から約5週間後(3回目)の3回実施し,重心動揺の測定を2回目と3回目に実施した。
介入群には,測定2回目の後に1日の咀嚼回数を増やすために,ガム咀嚼課題を与えた。課題は,1日に2時間以上,2~3週間行うことを指示し,記録票に1日のガム咀嚼時間を記入させた。使用ガムは硬さを統一するために,ガムガムキシリッズ(co-op社製)を用いた。
統計処理は,統計ソフトPASW Stastics18を用いて,咬合力と重心動揺の介入前後の比較を対応のあるt検定,各群間の比較を対応のないt検定およびFriedman検定を用いて検討した。
【説明と同意】
本研究の実施にあたり,研究の目的を口頭にて説明し,本人の同意および承諾を文書にて得た。また文書で得られた承諾については,いつでも口頭で撤回できる事も説明した。
【結果】
咬合力は,介入群では1回目:561.4±150.1N,2回目:590.6±140.7N,3回目:666.0±131.2Nとなり,介入前と比べ3回目が有意水準(p<0.05)で高値を示した。対象群ではそれぞれ有意な変化はみられなかった。
重心動揺は,介入群では開眼閉脚時と閉眼閉脚時の総軌跡長が介入後に有意(p<0.05)に減少していた。対象群では開眼閉脚時の矩形面積と総軌跡長が有意(p<0.05)に減少していた。
【考察】
介入群でガム咀嚼を約3週間行い,咬合力が有意に向上した。これは柿谷らのチューインガムによる咀嚼訓練により咬合力が増加したとの報告やYurkstasや河村らは咀嚼訓練開始2週目で訓練効果が表れるとの報告と同様の結果を示した。このことから,咀嚼回数を増やすことで咬合力の向上は可能であると考えられる。
今回,重心動揺においては開眼閉脚において2群ともに有意な減少がみられ,測定の馴れによる変化も予測できるが,閉眼閉脚位が介入群の課題後に減少したこと,また石上は,咀嚼筋群も抗重力筋として働く可能性があり,咬合力筋である咀嚼筋が筋力向上することで,バランス機能も向上するのではないか,また咀嚼運動による刺激が内耳迷路を刺激し,姿勢の反射制御が促進されるのではないかと推察していることから,咀嚼回数を増やすことでバランス機能も向上する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果から咀嚼回数を増やすことで咬合力やバランス機能の向上が示されたことから,咀嚼回数減少傾向にある現代において,理学療法を実施するうえで,四肢筋力のみではなく咀嚼筋を含め筋力向上を図ることの重要性が示唆された。