[0362] 高齢者における食後低血圧と転倒との関連
キーワード:食後低血圧, 転倒, 高齢者
【はじめに,目的】
高齢者の転倒原因には,食後低血圧(以下,PPH)があり,高齢者の30%にみられると報告されている。特に朝食,食後35~60分が最も血圧が低下する時間帯とされ,PPHと起立性低血圧(以下,OH)を合併している場合が少なくない。今回,PPH・OHの発生状況や運動機能との関連を検討したので報告する。
【方法】
対象は,当院に入院中の屋内自立歩行が可能で認知症を呈していない65歳以上の高齢者30名(平均年齢77.3±7.0歳)とした。また,過去1年間の転倒経験の有無によって,転倒群13名(平均年齢80.2±7.0歳)と非転倒群17名(平均年齢75.1±6.2歳)に分けた。対象者には,朝食前と朝食後(食後35~60分以内)に座位での血圧・脈拍測定,立位での血圧・脈拍・Functional Reach Test(以下,FRT)の5項目を3回測定し,併せて自覚症状についても聴取した。血圧の測定は,アネロイド血圧計を使用し,立位での測定は座位からの体位変化後30~60秒程度で実施した。対象者の活動時間帯(食後1.5時間以上)での運動機能評価として5m至適歩行時間とFRTを測定した。統計について,対象者全体における測定項目での比較は,対応のあるt検定を用いて行った。その中で,FRTは活動時間帯の値を基に食事前後の変化を比較し,血圧・脈拍は食前座位の値を基に食前立位と食後の変化を比較検討した。転倒群と非転倒群での比較は,対応のないt検定を用いて行った。統計学的有意水準は,危険率5%とした。今回,PPHまたはOH徴候として,収縮期血圧(以下,SBP)が20mmHg以上低下する,または100mmHgあったSBPが90mmHg未満に低下した場合として,その割合を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理委員会の承認を得た上で,対象者には研究の目的・趣旨を十分に説明して署名によって同意を得た。
【結果】
対象者全体のFRTの平均値は,活動時間帯31.3±6.3cm,食前立位時28.8±5.4cm,食後立位時29.2±5.0cmであり,食前後で有意に低下が認められた(P<0.01)。SBPの平均値は,食前座位時136.4±17.3mmHg,食前立位時126.4±16.3mmHg,食後座位時129.5±15.5mmHg,食後立位時121.2±14.1mmHgであり,食前立位・食後で有意に低下が認められた(P<0.01)。拡張期血圧(以下,DBP)の平均値は,食前立位(P<0.05)・食後(P<0.01)で有意に上昇が認められた。脈拍の平均値は,食前立位・食後で有意に増加が認められた(P<0.01)。転倒群と非転倒群での比較では,年齢・5m歩行時間(転倒群8.7±2.5秒,非転倒群6.7±1.4秒)で有意差が認められたが(p<0.05),FRT・血圧・脈拍では有意差は認められなかった。PPH徴候(食前と食後の座位で比較)が3回の測定中に1回でもみられた割合は全体で33.3%(転倒群38.5%・非転倒群29.4%)であった。OH徴候(食前座位と立位で比較)は全体で33.3%(転倒群53.8%・非転倒群17.6%)であった。PPH・OH徴候(食前座位と食後立位で比較)は全体で56.6%(転倒群67.5%・非転倒群47.1%)であった。自覚症状としてはふらつきなどが5名の対象者にみられたが,血圧所見とは一致しないこともあった。
【考察】
通常,臥位から立位の体位変化で,SBPはわずかに減少し,DBPは若干増加するとされ,本研究でも同様の傾向がみられた。朝食前後では,FRTにおいて立位バランスの不安定性が示唆された。PPH徴候がみられた割合は26.6%と報告にある30%に近い割合となった。PPH・OH徴候としては56.6%と非常に多い割合で認められ,PPHとOHが相加的に働き,食後にはOHが助長されることが示唆された。対象者は,入院中で血圧などの体調管理や室温管理がされている状態であり,在宅生活されている高齢者においてはより多い割合となるのではないかと考えられる。本研究から,PPH・OH徴候のある高齢者は比較的多く,特に高齢で運動機能の低下がある転倒群においては非常に多い割合でみられた。しかし,自覚症状は特になく症状と一致しないことが多くあり,高齢者にPPH・OHが潜在している可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
PPH・OHについて,本研究で示されたことは,理学療法士として転倒予防のための知識として把握しておく必要があり,日常生活場面におけるリスク管理・生活指導を行う上でも重要であると考えられる。
高齢者の転倒原因には,食後低血圧(以下,PPH)があり,高齢者の30%にみられると報告されている。特に朝食,食後35~60分が最も血圧が低下する時間帯とされ,PPHと起立性低血圧(以下,OH)を合併している場合が少なくない。今回,PPH・OHの発生状況や運動機能との関連を検討したので報告する。
【方法】
対象は,当院に入院中の屋内自立歩行が可能で認知症を呈していない65歳以上の高齢者30名(平均年齢77.3±7.0歳)とした。また,過去1年間の転倒経験の有無によって,転倒群13名(平均年齢80.2±7.0歳)と非転倒群17名(平均年齢75.1±6.2歳)に分けた。対象者には,朝食前と朝食後(食後35~60分以内)に座位での血圧・脈拍測定,立位での血圧・脈拍・Functional Reach Test(以下,FRT)の5項目を3回測定し,併せて自覚症状についても聴取した。血圧の測定は,アネロイド血圧計を使用し,立位での測定は座位からの体位変化後30~60秒程度で実施した。対象者の活動時間帯(食後1.5時間以上)での運動機能評価として5m至適歩行時間とFRTを測定した。統計について,対象者全体における測定項目での比較は,対応のあるt検定を用いて行った。その中で,FRTは活動時間帯の値を基に食事前後の変化を比較し,血圧・脈拍は食前座位の値を基に食前立位と食後の変化を比較検討した。転倒群と非転倒群での比較は,対応のないt検定を用いて行った。統計学的有意水準は,危険率5%とした。今回,PPHまたはOH徴候として,収縮期血圧(以下,SBP)が20mmHg以上低下する,または100mmHgあったSBPが90mmHg未満に低下した場合として,その割合を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理委員会の承認を得た上で,対象者には研究の目的・趣旨を十分に説明して署名によって同意を得た。
【結果】
対象者全体のFRTの平均値は,活動時間帯31.3±6.3cm,食前立位時28.8±5.4cm,食後立位時29.2±5.0cmであり,食前後で有意に低下が認められた(P<0.01)。SBPの平均値は,食前座位時136.4±17.3mmHg,食前立位時126.4±16.3mmHg,食後座位時129.5±15.5mmHg,食後立位時121.2±14.1mmHgであり,食前立位・食後で有意に低下が認められた(P<0.01)。拡張期血圧(以下,DBP)の平均値は,食前立位(P<0.05)・食後(P<0.01)で有意に上昇が認められた。脈拍の平均値は,食前立位・食後で有意に増加が認められた(P<0.01)。転倒群と非転倒群での比較では,年齢・5m歩行時間(転倒群8.7±2.5秒,非転倒群6.7±1.4秒)で有意差が認められたが(p<0.05),FRT・血圧・脈拍では有意差は認められなかった。PPH徴候(食前と食後の座位で比較)が3回の測定中に1回でもみられた割合は全体で33.3%(転倒群38.5%・非転倒群29.4%)であった。OH徴候(食前座位と立位で比較)は全体で33.3%(転倒群53.8%・非転倒群17.6%)であった。PPH・OH徴候(食前座位と食後立位で比較)は全体で56.6%(転倒群67.5%・非転倒群47.1%)であった。自覚症状としてはふらつきなどが5名の対象者にみられたが,血圧所見とは一致しないこともあった。
【考察】
通常,臥位から立位の体位変化で,SBPはわずかに減少し,DBPは若干増加するとされ,本研究でも同様の傾向がみられた。朝食前後では,FRTにおいて立位バランスの不安定性が示唆された。PPH徴候がみられた割合は26.6%と報告にある30%に近い割合となった。PPH・OH徴候としては56.6%と非常に多い割合で認められ,PPHとOHが相加的に働き,食後にはOHが助長されることが示唆された。対象者は,入院中で血圧などの体調管理や室温管理がされている状態であり,在宅生活されている高齢者においてはより多い割合となるのではないかと考えられる。本研究から,PPH・OH徴候のある高齢者は比較的多く,特に高齢で運動機能の低下がある転倒群においては非常に多い割合でみられた。しかし,自覚症状は特になく症状と一致しないことが多くあり,高齢者にPPH・OHが潜在している可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
PPH・OHについて,本研究で示されたことは,理学療法士として転倒予防のための知識として把握しておく必要があり,日常生活場面におけるリスク管理・生活指導を行う上でも重要であると考えられる。